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003_休日休暇のFAQ

【有休全消化】退職直前の有休一括消化。引継ぎ放棄を避けるために時季変更権を行使できるか?

人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。

依頼者からのご相談

疑問な白衣の女性

当院に4年勤務した歯科衛生士が、4月末で退職することになりました。彼女には15日の有給休暇が残っています。

4月1日に新たに付与される分も含めて、「4月は全て有休消化にあてたい。最終出勤日は3月末にする」と申し出がありました。しかし、彼女はベテランで担当患者も多く、4月の1ヶ月間が丸々不在となると、後任への引継ぎが全く間に合いません。

院長としては、せめて4月の半分は出勤して引継ぎをしてほしいと考えています。

  1. 退職直前の「有休全消化」の申し出を、引継ぎ不足を理由に拒否することはできますか?
  2. 「時季変更権」を使って、有休の時期をずらしてもらうことは可能でしょうか?
  3. 有休を使わせないために、退職日を「4月末」から「3月末」へ会社側が一方的に変更しても問題ないでしょうか?

診療に支障が出るため、非常に困惑しています。実務的な解決策を教えてください。


ご相談への回答

できるビジネスパースン

退職間際のスタッフによる有休の「まとめ取り」は、診療体制の維持が重要な歯科クリニックにとって頭の痛い問題です。しかし、結論から申し上げますと、退職日を超えての「時季変更権」の行使はできず、一方的な退職日の繰上げは「解雇」とみなされるリスクがあるため、法的な強制は非常に困難です。

労働者の「時季指定権」と院長の「時季変更権」の限界

年次有給休暇は、法定の要件を満たせば法律上当然に労働者に生じる権利です。労働者が休暇を取得する日を指定する権利を「時季指定権」と呼び、院長(使用者)は、事業の正常な運営を妨げる場合に限り、他の時期に変更させる「時季変更権」を持っています。

しかし、時季変更権は「退職予定日」を超えて行使することはできません。退職が決まっているスタッフが、残っている有給休暇を退職日までに全て消化しようと指定した場合、クリニック側にはそれを変更させる(拒否する)法的な手段がないのが実情です。

退職日の繰上げは「解雇」に該当する

「4月末ではなく3月末で辞めてもらう」というように、院長側が一方的に退職日を前倒しにすることは、法的には会社側からの雇用契約の解除、すなわち「解雇」に該当します。

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は「解雇権の濫用」として無効になります。「有休を消化されると困るから」という理由は、解雇の合理的理由とは認められません。一方的に退職日を繰り上げると、不当解雇として訴えられるリスクがあるため、厳に慎むべきです。

「引継ぎ義務」との兼ね合いと実務的な解決策

一方で、労働者には労働契約法上の「信義誠実の原則」に基づき、業務を円滑に引き継ぐ義務があります。引継ぎを全く行わずに有休消化に入り、クリニックに具体的な損害を与えた場合は、誠実義務違反を問われる可能性もあります。

感情的な対立を避け、円満に解決するための実務的なアプローチは以下の通りです。

  • 年次有給休暇の「買い取り」: 有休は原則として買い取り禁止ですが、「退職により時効で消滅してしまう未消化分」については、例外的に買い取ることが認められています
    • (提案例):「4月の半分は引継ぎのために出勤してほしい。その代わり、消化できなかった残りの有休分については、同額の手当を退職金に上乗せして支払う(買い取る)」といった話し合いでの合意を目指します。
  • 合意による退職日の調整: 院長が一方的に決めるのではなく、本人と十分に話し合い、引継ぎの重要性を伝えた上で、納得できる退職日や有休消化のスケジュールを再構築します。

本件のポイント

気づきを得た白衣の女性
  • 退職予定日を超えて「有休の時期をずらす(時季変更権)」ことはできない。
  • 有休消化を阻止するために退職日を前倒しにすることは「解雇」にあたり、無効とされるリスクが極めて高い。
  • 引継ぎは労働者の「誠実義務」であるが、強制力は弱いため、「未消化分の買い取り」を提案して出勤を促すのが現実的な落としどころとなる。
  • 今後の対策として、日頃から「計画的付与制度」を導入し、未消化の有休が溜まりすぎない環境を作っておくことが、最大のリスクヘッジとなる。

歯科クリニックは少人数のチーム医療であり、一人の不在が大きな影響を与えます。スタッフが気持ちよく送り出され、かつ診療も滞りなく継続できるよう、プロフェッショナルとしての引継ぎ義務を強調しつつ、経済的な配慮を交えた柔軟な話し合いを推奨します。

本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/医療労務コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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