人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院で勤務している歯科衛生士(現在育休中)の対応について相談です。彼女は昨年の10月から育児休業に入っており、今年の4月に復職する予定でした。
先日、彼女から「保育所に落ちてしまったので、育休を子が1歳になる秋まで延長したい」とメールで連絡がありました。しかし、そのメールには続けて「実は、1歳までの延長期間が満了したら、そのまま退職したいと考えている」と、最初から復職する意思がないことが明記されていました。
院長としては、復職するつもりがないのであれば、これ以上の休業延長を認めず、現在の復職予定日をもって退職の手続きを進めたいと考えています。事務長からは「保育所に落ちたという証明(入所保留通知書)があれば、当院側は延長を拒否できないのではないか」と言われていますが、以下の点について教えてください。
- 最初から復職する意思がないことが分かっている場合、育休の延長申請を拒否することは法的に可能でしょうか?
- 育児休業給付金は、このような「延長後の即退職」を予定している場合でも支給されるのでしょうか。
- 本人からの「延長後に退職したい」というメールは、会社が延長を拒否するための証拠として有効ですか?
ご相談への回答

歯科クリニックのような少人数の職場において、復職を前提としたバックアップ体制を整えている中で、最初から辞める前提での休業延長を求められることは、経営上大きな負担となります。結論から申し上げますと、適切に労使協定を締結していれば、1年以内に退職することが明らかな職員の休業延長を拒否することは法的に可能であり、メールでの意向連絡も有力な証拠となります。
育休延長の拒否:労使協定による除外規定
育児・介護休業法では、会社が労働者代表と「育児休業除外協定(労使協定)」を締結している場合、一定の労働者からの申出を拒むことができると定めています。
その対象の一つに、「育児休業申出があった日から起算して1年以内に雇用関係が終了することが明らかな労働者」が含まれます。この規定は、子が1歳以降の休業延長の申し出の際にも適用されます。今回のケースでは、本人が「延長期間が満了したら退職する」と明言しており、1年以内に雇用関係が終了することが明らかであるため、クリニック側は休業の延長を拒否することができます。
育児休業給付金の制度趣旨と「落選狙い」
育児休業給付金は、休業後の復職を前提とした所得保障制度です。
- 復職意思がない場合: 当初から退職を予定している場合は、雇用保険法上の給付要件を満たさず、原則として支給対象外となります。
- 「落選狙い」のリスク: 入所可能であるにもかかわらず不合理な理由で辞退したり、最初から入所の意思がないのに延長を繰り返す行為は、制度の趣旨に反する「落選狙い」とみなされ、給付金の不正受給を疑われるリスクを伴います。
もし、本人が「ハローワークから復職後の退職は可能と言われた」と主張したとしても、それはあくまで退職後の話であり、最初から復職意思がない状態で給付を受け続けることを保障するものではありません。
メールでの退職意向の証拠能力
退職の意思表示方法について、法令では具体的な形式を定めていません。
したがって、メールでの意向連絡であっても法的に有効な退職の申し出とみなされます。今回のメールは「事業主が1年以内に雇用関係が終了することが明らかである」と判断した客観的な証拠として、延長拒否の正当性を裏付ける重要な資料となります。後日の紛争を防ぐためにも、このメールは大切に保管しておいてください。
本件のポイント

- 「1年以内に雇用関係が終了することが明らかな者」は、労使協定があれば育休延長を拒否できる。
- 育児休業給付金は復職が前提であり、最初から復職意思がない場合は支給されない可能性が高い。
- 本人のメールは、延長拒否や雇用終了を判断するための「客観的な証拠」として有効である。
- 不透明な延長申請に対しては、自治体への「辞退届の写し」などの提出を求め、事実確認を行うことが実務上適切である。
歯科クリニックは「信頼」で成り立つ組織であり、一人の不在が診療体制に大きな影響を及ぼします。不当な権利行使に対しては、毅然とした態度で法令に則った対応をすることが、残されたスタッフの安心感と組織のガバナンス維持に繋がります。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。