人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院は、歯科医師・歯科衛生士など合計15名が勤務する医療法人です。給与計算の締め日と支払日の関係で、毎月の給与は以下のような構成になっています。
- 基本給: 当月分を当月払い(4月分給与で4月の基本給を支給)
- 残業代: 前月分を当月払い(4月分給与で3月の残業代を支給)
この4月から雇用保険料率が改定されました。事務長より、4月支給の給与計算について以下の質問がありました。
- 3月分の残業代を4月に支払う場合、適用される雇用保険料率は「3月(旧料率)」と「4月(新料率)」のどちらでしょうか?
- もし項目によって料率を使い分ける必要がある場合、給与計算システムが単一の料率しか設定できないのですが、実務上どのように処理すべきですか?
- 労働保険の年度更新との関係で、注意すべき点があれば教えてください。
正確な実務対応を行いたいと考えています。
ご相談への回答

雇用保険料率の改定をまたぐ給与計算は、非常に間違いやすいポイントです。結論から申し上げますと、労働保険料は「支払いが確定した月」の料率を適用するため、3月分の残業代には旧料率、4月分の基本給には新料率を適用するのが原則です。
労働保険における「支払いの確定した月」の原則
雇用保険料を含む労働保険料の算定は、実際に支給した日ではなく、「その年度において支払いの確定した額」で行うこと、と労働保険徴収法で定められています。
- 3月分の時間外手当(残業代): 3月末日で支払いが確定しているため、前年度(3月まで)の「旧料率」を適用します。
- 4月分の基本給: 4月に支払いが確定するため、今年度(4月から)の「新料率」を適用します。
このように、同一の給与明細の中に新旧2つの料率が混在する「特殊な事務処理」が本来の姿となります。
システム上の制約と実務的な回避策
多くの給与計算システムでは、雇用保険料率を月ごとに1つしか設定できない仕組みになっています。その場合の現実的な対応は以下の通りです。
- 新料率での一括控除: いったん4月の給与全体に対し、システムに設定した「新料率」で被保険者負担分を計算・控除します。
- 年度更新での清算: 労働保険の年度更新(6月〜7月)の際に、前年度の賃金総額(3月確定分まで)に基づいた正確な確定保険料を算出します。
- 差引清算: 年度更新で算出した「本来の被保険者負担額」と、毎月の給与から控除してプールしていた「預り金」との差額を、清算月の給与明細等で調整します。
労働保険年度更新(年度更新)での留意点
労働保険の「年度」は4月1日から翌年3月31日までです。
- 賃金総額の集計: 確定保険料を算出する際の賃金総額は、「4月から翌年3月までに支払いが確定した賃金」の合計です。
- 4月支給給与の分解: 貴院のように「3月分の残業代を4月に支払う」場合、その3月分残業代は「前年度分」として集計し、4月分の基本給は「今年度分」として集計しなければなりません。
この集計を誤ると、確定保険料の額が不正確になり、労働保険料の過不足が生じる原因となります。
本件のポイント

- 雇用保険料は「支払いが確定した月」の料率を適用するのが原則である。
- 3月分の残業代(3月末確定)は「旧料率」、4月分の基本給(4月確定)は「新料率」をそれぞれ適用する。
- システム上、料率の使い分けが困難な場合は、4月の新料率で仮控除し、年度更新のタイミングで本人と精算を行う方法が一般的である。
- 労働保険の年度更新では、支給日ベースではなく「確定日ベース」で前年度と今年度の賃金を正しく振り分けて集計する必要がある。
- この処理を正確に行わないと、離職票の賃金額記載や月次損益の計上にも影響を及ぼすため、内部記録を整理しておくことが望ましい。
料率改定時期の給与計算は、単なる「天引き」の作業ではなく、労働保険徴収法の原則に基づいた正確な集計が求められます。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。