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004_給与計算のFAQ

【変形労働時間制】予約の集中する月末の残業対策。特定の週を短時間勤務にする設計は可能か?

人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。

依頼者からのご相談

疑問な白衣の女性

当院は、歯科医師である私と、歯科衛生士3名、歯科助手・受付3名の計7名が勤務する歯科クリニックです。

当院の悩みは、月の前後で業務の繁閑差が非常に激しいことです。月末は翌月に向けて新患予約が集中したり、月初はレセプト点検や請求業務があるため、毎日1〜2時間の残業が避けられません。一方で、月の半ば(第2週や第3週)は比較的予約に余裕があり、スタッフが手持ち無沙汰にしている時間帯も見受けられます。

現在は1日8時間、週40時間の原則的な労働時間制をとっていますが、月末の残業代負担が重く、経営を圧迫しています。そこで「1ヶ月単位の変形労働時間制」を導入し、以下のような勤務シフトを組みたいと考えています。

  1. 月末・月初の忙しい週(第1週と第4週)は、1日の所定労働時間を9時間、週の合計を50時間程度に設定する。
  2. その代わり、暇な第2週と第3週は1日の所定労働時間を短縮し、週の合計を20〜30時間程度にする。

このように、「忙しい週は長時間、暇な週は短時間」とあらかじめ設計しておくことは、法的に可能でしょうか。また、特定の週に40時間を超えて設定した場合、その週の残業代(割増賃金)は本当に支払わなくて済むのでしょうか。

スタッフからは「忙しい週に50時間も働かされるのは不公平だ」という声が出ないか心配ですが、運用上の注意点も併せて教えてください。


ご相談への回答

できるビジネスパースン

歯科クリニックの運営において、レセプト業務や予約状況に合わせた人員配置の最適化は、生産性向上のための重要な課題です。結論から申し上げますと、「1ヶ月単位の変形労働時間制」を適正に活用すれば、ご相談のような特定の週を短時間勤務にする設計は法的に全く問題ありません

1ヶ月単位の変形労働時間制の仕組み

変形労働時間制とは、1ヶ月以内の一定期間(変形期間)を平均して、1週間あたりの労働時間が法定労働時間(原則週40時間)以内に収まっていれば、特定の日に8時間、特定の週に40時間を超えて労働させることができる制度です。

貴院のようにスタッフが10人未満の歯科クリニック(保健衛生業)は、特例として週平均44時間まで認められますが、スタッフの採用や定着を考慮し、週平均40時間以内での設計は非常に健全な判断といえます。

この制度を導入すれば、あらかじめシフト表で「この週は50時間」と特定した週については、40時間を超えた部分についても割増賃金(25%増)を支払う必要がなくなります

導入のための「絶対条件」と「総枠」の管理

この制度を有効にするための最大のポイントは、「変形期間が始まる前に、各日・各週の労働時間をあらかじめ特定しておくこと」です。

具体的には、以下の手順が必要になります。

  • 就業規則への明記: 制度を採用する旨と、変形期間(1ヶ月)、起算日を定めます。
  • 各月の労働時間の総枠(法定労働時間の上限)の確認: 1ヶ月の総労働時間は、その月の暦日数に応じて以下の「総枠」の範囲内で設定しなければなりません。
    • 31日の月:177.1時間以内
    • 30日の月:171.4時間以内
    • (28日の月:160.0時間以内)

もし、第1週と第4週を長く設定しても、1ヶ月の合計がこの「総枠」に収まっていれば、特定の週が40時間を超えていても適法となります。

歯科現場における実務上の注意点

運用の実務において、特に注意すべきは「後出しジャンケン」的な時間の変更ができないという点です。

  • 勤務時間の特定: 「業務の繁閑に応じてその都度、早く帰らせる」といった運用は変形労働時間制とは認められません。あくまで事前に「この日は○時間勤務」と確定させ、スタッフに周知しておく必要があります。
  • 残業代が発生するタイミング: 変形労働時間制であっても、あらかじめ特定した所定労働時間を1分でも超えて働かせれば、その分は時間外労働(残業)となります
    • 例えば、シフトで「10時間勤務」と決めた日に10時間5分働いた場合、その5分間については割増賃金の支払いが必要です。
  • スタッフへの配慮: 育児や介護を行うスタッフがいる場合、変形労働時間制によって深夜に及ぶ勤務や長時間の拘束を強いることは、育児・介護休業法に基づく「配慮」を欠くとみなされるリスクがあります。特定の週を長く設定する際は、個々のスタッフの家庭事情を考慮したシフト調整が求められます。

「短時間週」のポジティブな活用

月の半ばを短時間勤務に設定することは、経営側にとっては人件費の最適化につながりますが、スタッフにとっても「この週は早く帰ってプライベートを充実させられる」というメリットになります。

これを単なる「残業代削減」として伝えるのではなく、「月末月初のハードな時期を乗り切る代わりに、中間にしっかりリフレッシュできる仕組み」として説明することで、スタッフの納得感とワークライフバランスの向上を同時に実現することが可能です。


本件のポイント

気づきを得た白衣の女性
  • 1ヶ月の平均労働時間が週40時間(特例44時間)以内であれば、週50時間の勤務設定も適法である
  • 特定の週を長く設定した場合、あらかじめ決められた時間の範囲内であれば、週40時間を超えても割増賃金の支払いは不要である
  • 導入には、就業規則への規定と、変形期間開始前までの「各日・各週の勤務時間の特定・周知」が不可欠である
  • あらかじめ特定した時間を超過して勤務させた場合は、その部分について時間外割増賃金を支払わなければならない
  • スタッフの定着には、業務の繁閑を可視化し、閑散期の短時間設定を「リフレッシュ期間」としてポジティブに発信する運用が有効である

予約制の歯科診療所だからこそ、過去のデータに基づいた正確な繁閑予測を行い、それに基づいた「攻めのシフト設計」を行うことが、健全なクリニック経営の第一歩となります。

本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


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  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/医療労務コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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