人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院に勤務する歯科衛生士が、診療中に診療ユニットの足元に足を強打し、打撲と捻挫の怪我を負いました。すぐに整形外科を受診したところ、骨折はしておらず「全治1週間、数日は無理をしないように」との診断を受けました。医師からは明確な「就業禁止(就労不能)」という指示は出されていません。
しかし本人は「歩くと痛みが強く、立ち仕事の診療補助は難しい」と言い、受診の翌日から2日間欠勤しました。なお、欠勤した2日間のうち1日は、もともと当院が定めている公休日(木曜日)です。
労働基準監督署へ労災の手続きを進めるにあたり、以下の点について教えてください。
- 労災の待期期間(最初の3日間)について、事業主が休業補償を支払う義務があると聞きましたが、今回のケースのように医師から「就業禁止」と言われていない場合でも支払わなければならないのでしょうか?
- 欠勤した日がもともとの「公休日」だった場合、その日についても平均賃金の6割を支払う必要がありますか?
- 診療補助が無理でも「受付のデスクワークなら可能」と判断できる場合、本人の自己判断で休んだ期間の扱いはどうなりますか?
ご相談への回答

歯科クリニックでの診療中に起きた負傷は、原則として「業務災害」に該当します。労災保険の休業補償給付には、休業初日から数えて3日間の「待期期間」があり、業務災害の場合、この期間については労働基準法の規定に基づき、事業主が「休業補償(平均賃金の60%)」を行う義務があります。
しかし、支払いが必要なケースは「労働不能」であることが前提です。
「就労不能」の判断基準
事業主が休業補償を支払う義務が生じるのは、労働者が業務上の負傷により「療養のため労働することができない」場合です。
医師から明確な「就業禁止」の指示が出ていなくても、実際に痛みが強く、本来の業務(歯科衛生士としての診療補助等)に堪えられない状態であれば、「労働不能」と判断されるのが一般的です。ただし、この判断は医学的基準だけでなく、職場の状況や本人の職務内容を総合して判断されます。
公休日における支払い義務
結論から申し上げますと、もともと労働義務がない「公休日」については、事業主が休業補償を支払う義務はありません。
労働基準法上の休業補償は、労働者が「労働不能」により「賃金を受けられない」ことに対する損失補填を目的としています。公休日はもともと賃金が発生しない日であるため、「労働不能により賃金を喪失した」とはみなされないからです。したがって、3日間の待期期間の中に公休日が含まれている場合、その日は待期期間のカウントには含まれますが、事業主による補償金の支払対象からは外れます。
なお紛らわしい論点について次のとおり補足しておきます。
- 休業給付の待機期間のちがい
- 傷病手当金(健康保険法・私傷病):連続して3日間
- 休業補償給付(労災保険法・労災):通算して3日間
- 休業補償と休業手当のちがい
- 休業補償:労災による療養のため休む場合(本人の状態=労働不能)
- 休業手当:事業主都合により休業した場合(本人の状態=労働可能)
軽作業が可能な場合の対応
もし、立ち仕事である診療補助は難しくても、座って行う「受付業務」などの軽作業であれば従事可能であると客観的に判断できる場合、事業主は休業補償を支払う義務はありません。
本人が自己判断で休んだとしても、業務に支障がない程度の負傷であれば、それは「就労不能」とは認められず、労基法上の補償対象外となります。
ただし、以下の点には十分な注意が必要です。
- 安全配慮義務のリスク: 無理に就労させたことで症状が悪化し、後遺障害などが残った場合、事業主が「安全配慮義務違反」として民事上の損害賠償責任を問われる恐れがあります。
- 一部就労の補償: 受付業務などで短時間のみ勤務し、本来受けられるはずだった賃金よりも少なくなった場合は、「本来の賃金と実労働分の賃金との差額」の60%を休業補償として支払う必要があります。
本件のポイント

- 業務災害による休業の最初の3日間(待期期間)は、事業主が平均賃金の60%を「休業補償」として支払う義務がある。
- もともとの公休日や、有給休暇を取得した日については、事業主の支払い義務は発生しない。
- 支払いが必要なのは「労働不能」な場合に限られる。デスクワーク等の軽作業が可能であれば、補償の対象外となる。
- 「就労可能」かどうかの判断を誤ると症状悪化を招き、事業主の安全配慮義務違反を問われるリスクがあるため、産業医や主治医の意見を参考に慎重に判断すべきである。
- 一部のみ就労した場合は、平均賃金との差額の6割を補償しなければならない。
不測の事故が起きた際は、無理な出勤を強いるのではなく、医師の診断や本人の容態を正確に把握し、適切な「就業上の措置」を講じることが、クリニックのコンプライアンス維持とスタッフの信頼確保に繋がります。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。
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