人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院に勤務する契約社員の歯科助手(勤続3年)について相談です。最近、彼女のお子さんに発達障害があることが分かり、療育や通院のために週2回は仕事を休まなければならない状況になりました。
彼女は「正社員に近い立場で頑張りたい」と契約社員になりましたが、実際には有給休暇を使い果たし、当日欠勤や遅刻も増えています。他のスタッフからは「彼女の欠勤分のフォローで予約が回らない」「不公平だ」と不満が出ており、院長としてもシフト管理に限界を感じています。
来月末で現在の1年契約が満了するため、このタイミングで、現在の「月給制の契約社員」から、働いた時間分だけ給与を支払う「時給制のアルバイト」へ契約内容を変更したいと考えています。
- 欠勤が多いことを理由に、本人の意向に反して雇用形態をアルバイトに落とすことは可能でしょうか?
- 介護や看護を理由とした欠勤に対し、会社として法的に配慮すべき制度はありますか?
- 本人が「契約社員のままでいたい」と主張し、合意が得られない場合のリスクを教えてください。
ご相談への回答

歯科クリニックにとってスタッフの欠勤は診療体制に直結する切実な問題です。しかし、背景に「家族の看護や介護」がある場合、安易な雇用形態の変更は、育児・介護休業法や労働契約法に抵触するリスクがあります。結論から申し上げますと、「ペナルティとしての変更」ではなく、まずは法定の支援制度の活用を優先し、その上で雇用継続のための「合理的な条件変更」として合意を得るプロセスが必要です。
雇用形態変更の可否:ペナルティ的な扱いは厳禁
注意すべきは、育児や介護に関する休業・時短制度を利用したこと、あるいはその必要があることを理由に、ペナルティ(報復的)として雇用形態を変更することは、現行法の趣旨に照らして認められないという点です。
ただし、現在の労働契約(例:週5日フルタイム)を維持することが客観的に困難な場合、契約期間満了のタイミングで、「現在の職務遂行状況では契約通りの労務提供が充分にできない」という合理的な理由を説明し、実態に合わせた「アルバイト(時給制)」での再契約を提示することは法的に検討可能です。その際は、給与水準や賞与の有無などの不利益について十分に説明し、本人の同意を得る必要があります。
活用すべき法定制度:介護時短制度の適用
お子さんに重度の障害がある場合などは、「育児」の枠組みだけでなく、年齢に関わらず「介護時短制度」の対象となる可能性があります。
改正育児・介護休業法では、対象家族が要介護状態にある場合、事業主は労働者の申し出に基づき、短時間勤務制度やフレックスタイム制などを導入しなければならないと定めています。この時短措置には、1日の労働時間短縮だけでなく、「週や月の所定労働日数の短縮」も含まれると解釈されています。
「欠勤」として扱うのではなく、あらかじめ「週3日勤務の時短制度」として契約内容を調整することで、クリニック側もシフト計算が立てやすくなるメリットがあります。
雇用継続を支援する助成金の活用
当該スタッフを契約社員のまま雇用継続し、時短勤務などを行わせる場合、「両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)」などの活用が検討できるかもしれません。 この助成金には、時短勤務によって不足した労働力を補うために、業務を代替した他の同僚スタッフに「応援手当」を支給した場合に加算される仕組みもあります。 これを活用すれば、周囲のスタッフの不満を和らげつつ、クリニック全体の負担を軽減しながら、経験のあるスタッフの離職を防ぐことが可能になります。
本件のポイント

- 欠勤を理由とした一方的な身分変更は「不利益変更」とみなされるリスクがあるため、まずは丁寧な話し合いと合意形成が不可欠である。
- 重度障害のある家族の看護は「介護時短制度」の対象となり得、日数の短縮なども柔軟に検討すべきである。
- 安易に退職やアルバイト降格を迫るのではなく、両立支援等助成金を活用して「働き方」を調整することが、最大の経営リスクヘッジとなる。
- 契約満了時の再契約において、どうしても条件が折り合わない場合は、これまでの配慮の経緯を文書に残した上で、円満な合意解約を目指すのが実務上の落としどころとなる。
スタッフの家庭事情に寄り添いつつも、クリニックの診療を守るための「持続可能な働き方」を共に模索する姿勢が、ガバナンスとES(従業員満足度)の両立に繋がります。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。