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001_労働契約のFAQ

【採用健診】内定者への「健康診断書」提出要求。費用負担と就職差別の境界線はどこにある?

人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。

依頼者からのご相談

疑問な白衣の女性

当院は、歯科医師・歯科衛生士合わせて15名ほどが勤務する歯科クリニックです。この度、欠員補充のために歯科助手を1名採用することになり、内定を出した方に「入職手続きの書類として、3ヶ月以内に受診した健康診断書を提出してください」と依頼しました。

すると、その内定者から「健診を受けるのにお金がかかるのですが、クリニックで負担してもらえますか?」という質問を受けました。

これまでの慣習で、入職前の健診代は本人負担、入職後の定期健診は院負担としてきましたが、事務スタッフより以下の点について確認がありました。

  1. 採用選考(内定段階)での健康診断書の提出要求は、法的に問題ないのでしょうか? 「就職差別」にあたると指摘されるリスクはありますか。
  2. 健診費用の負担について、明確な法的ルールはあるのでしょうか。 本人負担とすることに違法性はありますか。
  3. 安衛法上の「雇入時健康診断」との関係を教えてください。 入社後に当院の負担で受診させるのと、事前に提出してもらうのとでは、実務上どちらが適切なのでしょうか。

正確なルールに基づいた採用実務を行いたいと考えています。


ご相談への回答

できるビジネスパースン

歯科クリニックにおいて、スタッフの健康状態を把握することは安全な診療体制を維持するために不可欠です。しかし、採用選考時の健康診断は、職業安定法や労働安全衛生法、さらには「就職差別」の観点から非常にデリケートな問題を孕んでいます。

採用選考時の健診と「収集する個人情報」の制限

まず、採用選考の判断基準として応募者に一律に健康診断書の提出を求めることは、原則として避けるべきとされています。

  • 職業安定法上の制限: 職業安定法第5条の5により、事業主が収集する個人情報は「業務の目的の達成に必要な範囲内」に限定されます。
  • 就職差別のリスク: 厚生労働省の指針では、合理的かつ客観的に必要のない健康診断は実施すべきではないとしています。歯科助手の業務に照らして、なぜその検査項目が必要なのかを説明できない場合、不当な選考(就職差別)とみなされるリスクがあります。

「雇入時健康診断」の義務と費用負担

労働安全衛生法(安衛法)で義務付けられているのは、「雇入れの際」に行う健康診断です。

  • 事業者の義務: 常時使用する労働者を雇い入れる際、事業者は所定の11項目(胸部エックス線、血圧、尿検査等)について医師による健診を行わなければなりません。
  • 費用負担の原則: 雇入時健康診断は法律で事業者に義務付けられた措置であるため、その費用は当然に事業主が負担すべきものとされています。
  • 目的の取り違えに注意: 雇入時健診の目的は「採用後の適正配置や健康管理」であり、採用の可否を決めるためのものではありません。

実務上の「3ヶ月ルール」と落としどころ

多くのクリニックで「事前に提出してほしい」と考える背景には、安衛則第43条但し書きの規定があります。

  • 省略規定: 医師による健康診断を受けてから「3ヶ月を経過しない者」を雇い入れる場合、本人がその結果を証明する書面を提出すれば、相当する項目の健診を省略できます。
  • 実務上の対応: 本来は入職後にクリニック負担で受診させるのが筋ですが、内定者が直近で受診した健診結果(学校の卒業時健診や前職の定期健診等)を「持っている」のであれば、それを提出してもらうことで健診を省略し、クリニックのコストを抑えることは可能です。
  • 費用の請求: もし、内定者が結果を持っておらず、クリニックの指示で新たに受診させるのであれば、それは「安衛法上の義務の履行」の一環とみなされるため、クリニックが費用を負担するのが適当です。

本件のポイント

気づきを得た白衣の女性
  • 採用選考時に「とりあえず一律に」健康診断書を出させる運用は、職業安定法違反や就職差別と指摘されるリスクがある。
  • 「雇入時健康診断」の費用は事業主負担が原則であり、本人に全額負担させることは適切ではない。
  • 入社前3ヶ月以内に受診済みの健診結果がある場合に限り、本人の同意を得て提出を受け、クリニックでの受診を省略することができる。
  • 採用後に業務に耐えられない重大な傷病が発覚することを懸念する場合は、応募書類に「健康状態に関する誓約書」等を追加し、一定の健康状態を保証させる運用も検討に値する。

歯科現場は少人数のチーム医療であり、スタッフの健康は極めて重要ですが、採用段階での情報の収集は「業務に必要最小限」に留めるというガバナンス意識を持つことが、後の労使トラブルを防ぐことに繋がります。

本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/医療労務コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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