就業に関する記事

04 就業規則

2023年11月7日

この記事のポイント

就業規則は、常時10人以上の労働者を使用する事業場に作成義務があり、その目的は労使の権利義務を明確にし、円滑な労使関係を構築することにある。

労働基準法では、労働時間、休日、賃金、退職など、職場での就労に関して必ず就業規則に明記しなければならない絶対的必要記載事項を規定している。

就業規則は、労働基準法や労働契約法などの法令の定めに従って作成する必要があり、正規の手続きを経て制定された就業規則は法令と同じ効力をもつ。

就業規則の不利益変更は認められないが、不利益変更が合理的な事由によるもので、法令に定める所定の手続きを経て行われたものであれば有効となる。

就業規則を作成しなかったり、労働基準監督署に届出しなかったり、従業員に周知しなかった場合には、使用者に対して30万円以下の罰金刑が科される。

就業規則の目的と効力

就業規則の目的

就業規則とは、使用者と従業員の権利義務を定めた事業場内の自主的なルールである。常時10人以上の労働者を使用する事業所では就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出なければならない。

就業規則の目的は労働条件や職務規律を明確にし、円滑な労使関係を構築することである。就業規則には労働時間、休日、賃金、退職など、労働に関する基本事項が定められている。

就業規則の効力

就業規則は使用者が一方的に作成・変更できるが、労働契約の根拠となるため、紛争の際には就業規則に従って判断される。そのため就業規則は労働基準法などの法令に従って作成し、適切に運用することが重要である。

就業規則は事業場内の全労働者に適用されるため、使用者は就業規則を従業員に周知し、いつでも閲覧できるようにしておく義務がある。

そして就業規則は合理的な労働条件を定め、法定の手続きに従って作成され、従業員に周知されている場合に法令に準ずる効力を持つ。よって従業員も就業規則を理解し、遵守する義務がある。就業規則を知らずに不利益を受けたとしても救済されない。

なお常時10人未満の事業所でも、就業規則を作成することが望ましい。就業規則を適用することで労働トラブルを防止し、労働条件や職務規律を統一的に運用することができる。

就業規則の作成方法

就業規則は、労働基準法の規定に従って作成しなければならない。労働基準法は、就業規則を作成するにあたっては、絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項の2つを定めるように、規定している。

絶対的必要記載事項は、いかなる事情があっても必ず就業規則に明記しなければならない労働条件であり、相対的必要記載事項は、もし自社でルールや制度を設ける場合には、就業規則にも記載しなければならない事項である。

就業規則の絶対的必要記載事項(3つ)

  1. 始業・終業時刻、休憩時間、休日・休暇、就業時間
  2. 賃金(臨時の賃金を除く)の決定・計算・支払方法、賃金の〆切・支払時期、昇給
  3. 退職(退職の事由、解雇の事由)

就業規則の相対的必要記載事項(8つ)

  1. 退職手当(適用される労働者の範囲、退職手当の決定・計算・支払方法・支払時期)
  2. 最低賃金
  3. 食費・作業用品などの負担
  4. 安全・衛生
  5. 職業訓練
  6. 災害補償・業務外の傷病補助
  7. 表彰・制裁の種類・程度
  8. その他、事業所の労働者の全てに適用される事項

山口
就業規則は自社のすべての労働者に適用されるものですので、例えば管理職やパートタイマーなど、一部の労働者について別個の取り扱いを行う場合であっても、就業規則に明記しなければなりません。

労働契約との違い

労働基準法では、労働者を雇用する際に、使用者は労働者に対して労働条件を通知しなければならない旨を定めているが、労働条件の絶対的明示事項のうち、次の4つについては、就業規則の必要記載事項には含まれていない。

  1. 労働契約の期間
  2. 有期労働契約を更新する場合の基準
  3. 就業の場所および従事すべき業務
  4. 所定労働時間を超える労働の有無
山口
実務では「◯◯については就業規則の定めによる」として、なるべく労働契約書の様式を簡潔明瞭にすることが一般的ですので、これら4項目についても就業規則に明記しておくことをお勧めします。

労使協定の締結

就業規則を作成する場合、労使協定の締結・届出も忘れずに行う必要がある。労使協定とは労働基準法で禁止されている条項について、労使間で協定することで例外的に適用できるようにするものである。

例えば労働基準法では、原則として時間外労働や休日労働は禁止されているが、使用者は、労働者の過半数を代表する者と労使協定を締結することで、労働者に時間外労働や休日労働を行わせても、罰則の適用を免除される。

労使協定は、自社の就業規則に応じて適宜必要なものを締結する。一般的な小売業では、とりあえず以下の労使協定について、締結する必要があるかどうか確認しておきたい。

  • 賃金全額払いの例外
  • 休憩時間一斉付与の例外
  • 時間外・休日労働(36協定)※労働基準監督署への届出が必要
  • 一年単位の変形労働時間制 ※労働基準監督署への届出が必要
  • 年次有給休暇の時間単位付与
  • 年次有給休暇の計画的付与

懲戒に関する規定

労働者の就業規則違反に対して、使用者がなんらかの制裁を行おうとする場合には、使用者はあらかじめ就業規則に懲戒規定を設けておかなければならない。

懲戒には、戒告・譴責、減給、出勤停止、昇給・昇格の停止、降格、懲戒解雇などがあるが、そのうち減給処分は労働者の生活を脅かす恐れがあるため、労働基準法によって1件の減給処分につき、平均賃金の1日分の半額までとされている。

複数の懲戒により複数回の減給処分を行う場合でも、1ヶ月の賃金総額の10分の1以内としなければならない。

なお、遅刻・早退や欠勤による給与控除はノーワーク・ノーペイの原則にもとづき減給制裁には当たらない。また、出勤停止処分の結果として賃金が減額となる場合や、降格処分によって賃金が下がる場合も減給制裁には当たらない。

就業規則の届出

就業規則を作成したら、使用者は、労働者の過半数で組織された労働組合がある場合には、その労働組合と、労働組合がない場合には、事業場の全労働者(管理職やパートタイマー・アルバイトを含む)の過半数を代表する者から意見書を取得しなければならない。

取得した意見書は、作成した就業規則に添えて、事業場を管轄する労働基準監督署に提出する。なお意見書の内容は反対意見でも構わず、作成した就業規則の内容について、労働者の同意までは必要としない。

山口
労働組合もしくは労働者の過半数を代表する者が意見書の提出を拒否した場合は、使用者はその経緯を顛末書にして就業規則と一緒に提出することで、労働基準監督署に就業規則を受理してもらえることになっています。

就業規則の変更

就業規則を変更する場合も、使用者は労働組合もしくは労働者の過半数を代表する者から就業規則の変更案に対する意見書を取得し、変更後の就業規則に添えて、所轄の労働基準監督に提出しなければならない。

なお、使用者が一方的に労働者にとって不利益となるような就業規則の変更を行うこと(不利益変更)は、原則として認められない。

ただし、不利益変更がやむを得ない合理的事由にもとづくものであり、適切な手順を踏んで行われたものであれば、認められる。不利益変更の合理性の判断基準については、労働契約法の中に規定されている。

  • 労働者が受ける不利益の程度
  • 労働条件の変更の必要性
  • 変更後の就業規則の内容の相当性
  • 労働組合等との交渉の状況
山口
変更内容の相当性は、不利益変更に対する代償的措置の有無、不利益変更せざるを得ない社会経済的な情勢などで判断されます。また労働組合が無い場合は、親睦会などとの交渉でも構いません。

就業規則を定めることの意義

就業規則の作成・届出義務違反に対する罰則

就業規則は、労働基準法などの法令や労働協約に違反してはならない。違反した部分は、無効となり、法令の規定が適用される。

さらに就業規則の作成や届出、周知義務の違反、労使協定の届出義務の違反には、30万円以下の罰金刑が科される。

そして時間外労働は36協定の届出によって可能となるので、届出をせずに時間外労働をさせた場合は、法定労働時間違反となり、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金刑が科される。

なお、労働基準監督署は、就業規則が労働基準法に違反している場合、使用者に対して就業規則の変更を命じることができる。

就業規則を定めることの意義

これまで、就業規則の目的や効果、作成の方法、作成義務違反の罰則などについて解説してきた。しかし、少子高齢化による人材獲得難の社会情勢下においても、就業規則の作成義務違反で処分される使用者が後を絶たない。

違反の理由として、就業規則の作成・届出義務を知らない、手続きが煩雑で手間がかかる、メリットや必要性を感じないといったことが挙げられる。また法令違反を免れるために、形式的な就業規則のみ作成し、労働者に周知せず、人事管理に活用されていない企業もある。

就業規則は、労働者と使用者の間の労働条件を明確にし、労働者の権利を守り、企業の秩序を維持するために重要な役割を果たすものである。厚生労働省から就業規則の雛形も公開されているので、不備があれば早急に対応したいもの。

最後に、ある文献から就業規則を作成するメリットについて、よくまとめられたものがあったので、これを引用・紹介して、この記事をおしまいとしたい。

儲けを生み出す就業規則の6大条件

  1. 自社における従業員の働き方、休みの取り方、賃金のもらい方、辞め方などのルールが明確になっていること
  2. 就業ルールに関する問い合わせに対して、上司や人事部、経営者が時間を取られることが無いものであること
  3. ルールが不明瞭であるために、社員の間に不安が広がり、優秀な従業員が離職してしまわないものであること
  4. 問題従業員が入社してしまった場合には、速やかに会社から去ってもらうことができるようなものであること
  5. 従業員として取るべき行動、取ってはいけない行動を明確にし、自社のブランド化に貢献できるものであること
  6. どのように働けば、どのように報いられるのかを明確にし、会社と従業員が目指すゴールを合致させられるものであること

※筆者にて一部意訳して引用

なぜ就業規則を変えると会社は儲かるのか?ヒト・モノ・カネを最大に活かす6つのヒント(下田直人著/大和出版)

<当サイト利用上の注意>
当サイトは主に小売業に従事する職場リーダーのために、店舗運営に必要な人事マネジメントのポイントを平易な文体でできる限りシンプルに解説するものです。よって人事労務の担当者が実務を行う場合には、事例に応じて所轄の労働基準監督署、公共職業安定所、日本年金事務所等に相談されることをお勧めします。

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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