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大量閉店「イトーヨーカドー」どこで間違えたのか(東洋経済ONLINE/2024.02.14)

2024年3月1日

この記事のポイント

モータリゼーションの進展にともなって、イオンはロードサイドにイオンモールを展開して好調だが、イトーヨーカドーは旧来の駅前立地に固執したために、今日の経営不振を招いた。

ロードサイドには、家電量販店やファストファッションなどのカテゴリーキラーも出店するようになり、品揃えや価格の中途半端なイトーヨーカドーは、カテゴリーキラーとの競合に負けた。

GMSのライフは都市部に集中して出店し、品揃えを食品カテゴリーに絞り込んだために、19期連続の増収を実現できたが、イトーヨーカドーは立地や品揃えにおいて、選択と集中が中途半端だった。

好調なドン・キホーテは現場に権限委譲を行って個店主義を推進したが、イトーヨーカドーは新個店主義を掲げたものの、本部による中央集権的なトップダウンの社風を変革できなかった。

実務家視点からの3つの違和感

イトーヨーカドーが北海道・東北エリアからの撤退を表明して話題になっていますが、私の住んでいる札幌市には、4店のイトーヨーカドー(アリオ店、福住店、屯田店、琴似店)があり、まさに渦中の地域(?)ですので、この記事を興味深く拝読させて頂きました。

ちなみに私は学生時代に1年くらいイトーヨーカドー新川店(現在はドン・キホーテ)の日用雑貨部門でアルバイトをしていたことがあり、また十勝時代の職場がイトーヨーカドー帯広店のすぐ近くだったため、このテーマについては一般の方々より少し詳しいと思っています。

さて、イトーヨーカドーが時代の変化に対応できずに現在の経営不振を招いたことは、紹介した記事にあるとおりだと思います。一方でモータリゼーションの影響、GMSの定義、チェーンオペレーションの弊害については、実務家としてライターの認識に違和感を覚えます。

モータリゼーションは1970年代のこと

モータリゼーションの進展によって、GMSが駅前立地から郊外型にシフトしたのは1970年代のことで、1980年代後半には大手GMSの多くが、郊外型への切り替えを完了しています。北海道でモータリゼーションに対応できなかったのはイトーヨーカドーではなく百貨店業態です。

私がアルバイトしていた新川店、そして現在も道内で営業している屯田店、帯広店、北見店などは、いずれもロードサイドに面した、広大な駐車場を備える郊外型店舗です。これらは週末にマイカーで出かけてまとめ買いする客層を想定しており、つまりイオンモールと同じです。

しかし消費者の高齢化や長引くデフレ不況により、1990年後半からは業界内では駅前立地への回帰志向が強まります。そこでイトーヨーカドーも公共交通機関の駅に直結した福住店(地下鉄福住駅)やアリオ店(JR苗穂駅)を開設するなど、出店戦略を転換しました。

GMSとSMはそもそも業態がちがう

GMSとは総合品揃型スーパーマーケットのことで、本来は中流所得者層をターゲットとした、食品以外の商品カテゴリーのうち、自社がターゲットとする顧客のライフスタイルに合わせて商品ラインやプライスゾーンを絞った商品戦略を特徴とする業態をいいます。

ライフは食品專門スーパーマーケットなので、イトーヨーカドーのようなGMSとは業態が異なり、収益構造も根本的に違います。ゆえにライフの経営戦略が奏功し、イトーヨーカドーが失敗したのではなく、単にSM業態が堅調でGMS業態が苦戦しているという認識が正解です。

ちなみに日本型GMSは衣食住全てを取り扱う日本独特の業態です。しかし総花的でターゲットの不明確な品揃え、特段安くもない中途半端な価格帯、普段使いには広すぎる店内、そして巨艦店ゆえの固定費の大きさなどの非効率性が指摘されており、これはイオンも同様です。

チェーンオペレーションのジレンマ

チェーンオペレーションとは、小売業特有の低収益性をローコストオペレーションで補うために、本部が戦略策定や経営管理、店舗は販売活動に機能分化し、画一的なレイアウトの店舗を、マニュアルにもとづいて、統一的なオペレーションで運営する経営システムをいいます。

粗利益率の低い小売業が収益を確保する手段としてチェーンオペレーションは有効な経営手法でしたが、市場が成熟して消費者ニーズの多様化が進むと、全国画一的な品揃えが消費者に飽きられ、専門店や小回りの効くローカルスーパーへ買い物客が流出するようになりました。

これはイトーヨーカドーに限ったことではなく、直近20年において多くのチェーンストアが抱えている問題であり、イオンやコンビニも同様です。そこで各社はイートインコーナーの設置や地場商材の取り扱いなど、出店エリアに合わせた独自の店作りに取り組んでいます。

何がイトーヨーカドーを衰退させたのか?

洗練された経営システムゆえの弊害

私なりの結論を申し上げると、北海道に展開しているイトーヨーカドー5店舗に関しては、紹介した記事のライターが指摘するとおり、中途半端な品揃えが客離れを招いたことは間違いありません。ただしその要因として、モータリゼーション云々は全く関係ありません。

私が某CVSでスーパーバイザーをしていた頃は、セブンイレブンの販売管理システムの完成度は業界内でも突出していました。さらにチェーンオペレーションに最適化されたイトーヨーカドーの商品供給・商品管理体制も、極めて高効率かつ洗練されたものでした。

マーチャンダイジングの裁量権を店舗に大幅委譲して地域のニーズに応えることは時代の流れですが、これまでのセブン&アイHDの選択と集中による高効率・高収益の経営戦略とは相反する非効率で泥臭い作業が増えるため、ジレンマに陥っていたのではないかと想像します。

PB商品の多寡が収益性に影響した

実はイトーヨーカドーが抱える問題は、同じ業態のイオンにもいえることです。しかしイオングループは傘下のマックスバリュ店舗の24時間営業化、SMより小型で生活立地に密着した”まいばすけっと”の多店舗展開によって、本業のGMSの不振をカバーすることができます。

またイトーヨーカドーがカテゴリーキラーと競り負けた衣料品や日用雑貨、小型家電のカテゴリーにおいて、イオンはセブン&アイを圧倒する幅広いPBブランドをラインナップしており、利益率の高いPB商品がGMSの採算性の悪さをカバーしていることは間違いありません。

今回のまとめ

完成度の高すぎるチェーンオペレーションを確立したがゆえに、消費者ニーズの変化に対して柔軟に対応できなかったこと、また選択と集中の同社の伝統的な経営方針に固執するあまり、業態転換やPB商品の拡充などが進まなかったことが、イトーヨーカドー不振の要因です。

なお店舗を関東に集約したところで根本的な問題の解決にはなりません。イトーヨーカドーの問題は立地ではなく業態とマーチャンダイジングです。販売量にも利益率にも貢献しない中途半端な品揃え、中途半端な価格帯の商材を、固定費の重いGMS業態で販売していることです。

もし私が同社のコンサルなら、①GMSから食品專門SMやペリシャブルストアへの業態転換、②空きフロアにカテゴリーキラーをテナント誘致して賃料収益を確保する、③ダイイチなどの地場SMとの提携を進めてグロサリー系PB商品の卸売機能を強化する、ことなどを提案します。

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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