紹介記事「大量閉店イトーヨーカドーどこで間違えたのか」より要点まとめ
- モータリゼーションの進展に伴い、イオンはロードサイド店を出店して上手く対応できたが、イトーヨーカドーは旧来の駅前立地にこだわり経営不振を招いた。
- ロードサイドには家電量販店やファストファッションなどのカテゴリーキラーも出店したので、品揃えや価格の中途半端なイトーヨーカドーは競合に負けた。
- 同じGMSのライフは、都心立地と食品カテゴリーの品揃えに集中したことで19期連続の増収、イトーヨーカドーは立地も品揃えも選択と集中が中途半端だった。
- ドン・キホーテは現場に権限委譲を行い個店主義を推進したが、イトーヨーカドーの新個店主義は本部による中央集権的なマネジメントから脱却できなかった。
イトーヨーカドーが北海道・東北エリアからの撤退を表明して話題になっている。私の住んでいる札幌市はまさにその渦中にあり、市内4店の撤退による地域社会への影響は計り知れない。余談だが、私は学生時代のアルバイトを含めると、これまでにコンビニ3社、食品スーパー3社、総合スーパー(GMS)1社で働いた経験がある。特に唯一のGMS歴はイトーヨーカドー新川店(10年前にドン・キホーテに譲渡)なので、一連の騒動を興味深く注視している。
さて、イトーヨーカドーが時代の変化に対応できず、中途半端な品揃え、中途半端な価格によって経営不振を招いたのは紹介した記事のとおりだと思う。一方でモータリゼーションに乗り遅れたとか、ライフがGMSの勝ち組だとか、個店主義になりきれなかった云々のくだりについては、ライターの認識に違和感を覚える。そこで今回はこれら違和感の理由と、私なりのイトーヨーカドー撤退の要因について、紹介した記事の批評なども交えて述べてゆきたい。
まずモータリゼーションのくだり。モータリゼーションの進展によって、GMSが駅前立地から郊外立地にシフトしたのは1970年代のことであり、1980年代後半には大手GMSの多くが郊外型店舗へ移行した。かつて私が働いていたイトーヨーカドー新川店、2024年に閉店が決まった屯田店、帯広店、北見店は、いずれも郊外型のロードサイド店舗であり、イオンモールと同じ立地である。よって今回のイトーヨーカドーの撤退とモータリゼーションは全く関係ない。
続いてライフ。そもそもライフはGMSではなく食品スーパーである。GMSと食品スーパーは商圏範囲も収益構造も全く異なるため、同じ土俵で比較して経営戦略の巧拙を論じること自体が間違っている。両社の明暗は、単純に食品スーパー業態が堅調で、GMS業態が苦戦しているというだけの話である。GMS業態は、もともと品揃えも価格帯も中途半端で、普段使いには広すぎる店内と巨艦店ゆえの固定費の重さがネックとなっていたが、これはイオンも同じ事情。
そして個店主義。個店主義とは、品揃えと仕入、販売などの決定権を各店舗に移譲することであり、百貨店業態がその典型である。店舗ごとに地域密着型の販売活動を展開できるが、仕入交渉においてスケールメリットを活かせず、オペレーションコストもかかるため、収益性や効率性においてデメリットも多い。そのためスーパー各社では本部と店舗が経営(戦略)機能と販売(戦術)機能を分業するチェーンオペレーションにより、経営効率を追求してきた。
一方で多くの小売業者は商品開発機能を持たないため、競合他社と差別化を図るべく、商圏客層のライフスタイルを分析し、顧客の嗜好に合わせた各店独自の品揃え(インストアマーチャンダイジング)にも取り組んできた。インストアマーチャンダイジングは、本部主導の画一的な商品戦略では出店商圏ごとの消費者ニーズを満たすことが難しいこともあり、店舗側に商品構成や価格設定、販促活動を委ねることで行われるが、小売経営の基本はチェーンオペレーションであり、個店主義が限定的となってしまう点についてはドン・キホーテも同じである。
イトーヨーカドー不振の要因を総括する。私がコンビニ業界で働いていた頃、セブンイレブンの高度な販売管理システムは業界内でもよく知られており、チェーンオペレーションに最適化されたイトーヨーカドーの商品管理体制も、極めて効率が良く業界内の手本となるものだった。しかし個店主義を推し進めてゆくことで、これまでセブン&アイグループが追求してきた高効率で洗練された本部集中コントロール方式に相反する、非効率で泥臭い局地戦が増えることが予想されるため、もしかしたら経営陣はジレンマに陥っていたのではないかと推察する。
イトーヨーカドーの抱える問題は同じGMS業態のイオンモールにも共通している。しかしイオングループは緩やかな連帯を掲げ、多種多様な業態を包含する多国籍軍のような企業風土であり、マックスバリュを24時間営業化したり、BIGやまいばすけっとなどの新たな業態を展開することによって、本業たるGMSの収益性の悪さをカバーしている。さらにイオンはセブン&アイブランドを圧倒する幅広いラインナップのPB商品を有しており、専門店や量販店などのカテゴリーキラーに対しても、低価格かつ利益率の高いPB商品で対抗することができる。
30年前のイトーヨーカドーは業界の中でも堅実経営の優等生企業だった。それを支えていたのは業界内でも突出した高効率・高収益の経営システムだったが、これらの完成度が高すぎるゆえに、また過去の大きな成功体験ゆえに、消費者ニーズの変化に柔軟に対応できなくなってしまっていたのではないだろうか。同社の伝統的戦略である選択と集中が、新たな業態開発やPB商品の拡充に対する足かせとなっていた可能性も否定できない。ここ最近の経営陣の迷走気味な発言からは、かつてのイトーヨーカドーの先見性や合理性は微塵も感じられない。
最後に提案。店舗を関東圏に集約したところで根本的な問題解決にはならない。なぜなら同社の問題は立地ではなく業態とマーチャンダイジングにあるからだ。販売数にも利益率にも貢献しない中途半端な品揃えと価格帯の商材を、頑なに時代遅れのGMS業態で販売していることが大きな問題なのだ。もし私が同社のコンサルだったら、取り扱いカテゴリーを食品に絞り込み、空いたフロアに専門店を誘致して安定した賃料収益を確保し、直営スペースは利益率が高く、自社で自由に商品開発ができるペリシャブル部門の積極的展開を提案するだろう。
なお縮小した直営売場の従業員はそのままイトーヨーカドーで継続雇用し、テナント契約したカテゴリーキラーに出向させればいい。先方の待遇が良ければ転籍出向にし、地元で長く働きたい人は在籍出向とすることもできるだろう。テナントとして入店する企業にとっても、もし受入れる従業員が、自社の取り扱いカテゴリーの販売経験を有しているなら、採用コストをかけずに来店客層や客導線、地域イベントなどを熟知した即戦力として活用することができる。
<追記>
筆者がこの記事を投稿した8ヶ月後に、日本経済新聞に掲載されたイトーヨーカドー経営不振の原因と目下同社が取り組んでいる再建プランの記事。この記事を読む限り、概ね筆者の予想したとおりとなった。ご参考まで。
イトーヨーカ堂が頼る大家ヒューリック 自前主義に限界(2024年11月9日付け、日本経済新聞Web版 掲載記事)