01_雇用管理

労使協定

労使協定の目的と効力

労使協定の目的

世の中で当たり前のように行われている残業はそもそも法律違反である。実際に労働基準法第32条は、法定労働時間を超えて労働者を就業させる行為そのものを禁止しており、違反した使用者には6ヶ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金が科される。

しかし労働基準法第36条は、使用者が労働者の過半数代表者と労使協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届出すれば、従業員を残業させても法令違反の罪に問わないとしている。このように労使協定は、労働法令の禁止行為に対する免罪効果をもたらすものである。

労使協定の効力

なお労使協定は、法令違反の免罪効果を生むに過ぎないため、たとえば使用者が労働者に残業を命令するためには労使協定では足りず、あらかじめ就業規則に「業務の都合により残業を命じる場合がある」などと規定し、労働条件通知書にもその旨を明記しておく必要がある。

労使協定は事業場(本部、店舗、配送センター)ごとに、使用者と労働者の過半数代表者との間で締結する。そして労使協定が締結されると、労使協定に合意していない労働者も含めて、その事業場の全労働者に対して労使協定が適用される。

労使協定と似たものに労働協約がある。労働協約は過半数を超える労働者によって組織される労働組合と事業主との間で締結された特別の労働条件であり、就業規則よりも強い効力を有するが、適用対象は労働組合に加入している労働者に限定される。

労使協定の種類

労働基準監督署への届出が必要なもの

  • 任意の貯蓄金管理(任意の社内預金制度を導入する場合)
  • 事業場外のみなし労働時間制(みなし労働時間が法定労働時間を超える場合のみ要届出)
  • 専門業務型裁量労働制(労働基準法施行規則の20職種に限る)
  • 1ヶ月単位の変形労働時間制(就業規則に規定する場合は労使協定は不要)
  • 1年単位の変形労働時間制
  • 1週間単位の変形労働時間制
  • フレックスタイム制(清算期間が1ヶ月を超える場合のみ要届出)
  • 時間外および休日労働(通称36協定といい、締結と届出によって効力を発揮)

労働基準監督署への届出が不要なもの

  • 賃金全額払の例外(法定福利費以外のものを賃金控除する場合)
  • 休憩時間の一斉付与の例外(小売業は未成年者のみ労使協定が必要)
  • 割増賃金に代わる代替休暇(月60時間を超える割増賃金を有給休暇で代替する場合)
  • 年次有給休暇の時間単位付与(年5日以内に限り可能)
  • 年次有給休暇の計画的付与(年5日分を除いて可能)
  • 年次有給休暇の手当の計算(平均賃金に代えて標準報酬月額の1/30で支払う場合)
  • 育児介護休業の取得対象外(勤続期間や所定労働時間が短い労働者を対象外とする場合)

労使協定の締結方法(36協定の場合)

STEP1 協定書の作成

以下の協定事項を整理した上で厚生労働省の所定様式にもとづいて協定書を作成する。

  • 時間外労働および休日労働をさせる労働者の範囲
  • 時間外労働および休日労働をさせる業務の具体的内容
  • 時間外労働の上限(一般条項)〜月45時間以内、年360時間以内
  • 時間外労働の上限(特別条項)〜月100時間(休日労働含む)未満、年720時間以内、2〜6ヶ月を平均して月80時間以内
  • 有効期限〜1年間(1年ごとに労使協定の更新と労働基準監督署への届出が必要)

特別条項の上限時間は、店舗設備の障害復旧のため臨時に一般条項の上限時間を超過して従業員を就業させる場合などを想定している。ただし特別条項を適用できるのは、有効期間内(1年間)に6ヶ月以内とされている。

STEP2 労使協定の締結

各事業場の過半数労働者の代表者と労使協定を締結する。過半数労働者の選出にあたっては選挙や互選などの民主的な方法によるものとし、使用者が労働者の過半数代表者を指名したり、選出に干渉したりした場合は、労使協定そのものが無効となる。

管理職は労働者として過半数代表者の選挙に参加できるが、一方で使用者として労働者を管理監督する(利益相反する)立場でもあるため、自らが労働者の過半数代表者に立候補することはできない。

STEP3 労使協定の届出

労使協定は、労働基準監督署への届出が義務付けられているものも含めて、使用者と労働者の過半数代表者が協定を締結した時に効力が生まれる。しかし36協定に限っては、労使協定を労働基準監督署に届出した時にはじめて効力を発揮する点に注意が必要である。

STEP4 全社員への周知

労使協定の事業場控は、施錠できるキャビネット等の中で厳重に保管し、コピーを休憩室の掲示板に貼付したり、PDFファイル化して自社のポータルサイトにアップロードする方法等によって、その全文を全ての従業員に周知しなければならない。

事業主や使用者は、労働法令の要約、就業規則および労使協定の全文を自社の労働者に周知し、使用者の許可を得ずとも、いつでも自由に閲覧できる状態にしておく義務がある(違反は事業場ごとに30万円以下の罰金)。

労使協定のまとめ

就業規則の作成義務は知っていても、労使協定までは知らないという経営者は少なくない。一方で労使協定を締結しないまま従業員を残業させ、労働基準監督署に書類送検される使用者が毎年後を絶たない。ちなみに労使協定違反に関する罰則は次のとおりとなっている。

  • 労使協定の届出義務違反→30万円以下の罰金
  • 労使協定の時間外労働の上限違反→6ヶ月以下の懲役もしくは30万円以下の罰金
  • 労使協定を締結せずに時間外労働または休日労働をさせた場合→(同上)

なお労使協定は締結したものの更新を失念したために労働基準法違反となってしまうケースもある。特に36協定および◯◯労働時間制と名のつく労使協定は有効期間があるため、労使協定を締結したら忘れないうちにタスクボードなどに更新日を入力してしまうと良いだろう。

 

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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