人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院は、歯科医師2名、歯科衛生士4名、歯科助手3名が勤務する歯科クリニックです。今回、開院当初から支えてくれている有期契約の歯科衛生士(勤続5年)の契約更新について相談があります。
彼女は非常に優秀ですが、ライフステージの変化もあり、今後はフルタイムでの継続が難しい可能性があると聞いています。院長としては雇用を継続したい一方で、経営上の柔軟性を確保するため、今回の更新(6年目)において「更新上限をあと2年(通算7年)までとする」という条件を提示したいと考えています。
しかし、顧問の事務担当から「次の更新期間中には、法律上の『無期転換申込権』が発生するので、その告知もセットで行わなければならない」と言われました。
- 「あと2年で契約終了です」と更新上限を突きつけながら、同時に「無期契約への転換を申し込めます」と告知するのは、内容が矛盾しているように感じます。更新上限を設ける場合は、無期転換の告知を省略してもよいのでしょうか?
- もし本人が更新上限に同意してサインをした後に、「やっぱり無期転換したい」と申し込んできた場合、クリニック側はこれを拒否できるのでしょうか?
- あらかじめ「無期転換権を行使しない」という約束を交わしておくことは可能ですか?
スタッフとの信頼関係を維持しつつ、法的に落ち度のない対応をとりたいと考えています。
ご相談への回答

有期契約スタッフが5年を超えて勤務する場合に発生する「無期転換ルール」は、小規模な歯科クリニックにとっても避けて通れない重要な課題です。結論から申し上げますと、「更新上限の設定」と「無期転換申込権の告知」は法律上切り離すことができず、セットでの対応が義務付けられています。
更新上限と無期転換告知の「セット明示」義務
2024年4月の労働基準法改正により、労働条件の明示ルールが厳格化されました。
- 更新上限の明示: 有期労働契約の締結・更新時に、通算契約期間や更新回数に上限を設ける場合は、その内容を労働条件通知書に明記しなければなりません。また、上限を新設・短縮する場合は、あらかじめ労働者に対してその理由を説明する義務があります。
- 無期転換告知の義務: 無期転換申込権が発生する更新のタイミングでは、「無期転換を申し込むことができる旨(申込機会)」と「無期転換後の労働条件」を、書面により明示しなければなりません,。
一見矛盾して見えますが、これらは「使用者が一方的に決める更新上限」と「労働者に法律で保障された権利」の両方を正しく伝えるためのルールです。更新上限があるからといって、無期転換の告知を割愛することは認められません。
本人が権利行使した場合の「拒否不可」ルール
労働契約法第18条に基づく無期転換ルールでは、条件を満たした労働者が無期転換の申込みをした場合、「使用者が当該申込みを承諾したものとみなす」と定められています。
たとえ本人が契約更新時に「上限2年」という条件に同意して署名・捺印していたとしても、その契約期間中に本人が無期転換権を行使した場合には、クリニック側はこれを拒否することができません。申込みがなされた時点で、現在の有期労働契約が満了する日の翌日から、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)に自動的に転換されます。
「権利放棄」の約束は法的に無効
「無期転換権を行使しない」という合意書をあらかじめ交わしておきたいというご相談も多いですが、労働者にあらかじめ権利を放棄させるような契約は法的に無効と解されます。労働基準法は「強行法規」としての性質を持っており、例え労使が合意していても、法の基準に達しない(労働者の権利を不当に制限する)契約部分は無効となり、法の規定が優先されます,,。
本件のポイント

- 無期転換申込権が発生する更新時には、「更新上限」と「無期転換の告知」の両方を書面で明示しなければならない,。
- 更新上限を設定しても、労働者の無期転換申込権そのものは消滅しない。
- 労働者が無期転換を申し込んだ場合、クリニック側は拒否できず、次回の契約から無期雇用へ移行する,。
- 無期転換を申し込ませないために更新上限を新設したり、中途で雇い止めをしたりすることは、不当解雇とみなされるリスクが極めて高い。
- 「無期転換権の事前放棄」の約束は法的に認められず、無効となる。
歯科衛生士などの専門職に長く活躍してもらうことはクリニックの安定経営に不可欠です。無期転換を「リスク」と捉えるだけでなく、長期雇用のメリットを活かした職務設計や、無期転換後の適切な労働条件(定年制や役割定義)をあらかじめ整備しておくことが、健全なガバナンスへの近道となります。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。