日本の年金制度
日本の年金制度は公的年金と企業年金、個人年金の3つに大別される。
これらのうち公的年金は日本の年金制度の根幹をなすもので国民年金と厚生年金保険の2つの制度があり、被保険者の老齢、障害、死亡に対して保険給付を行う。
企業年金は公的年金を補完するものとして法律にもとづいて企業の任意で実施され、主な制度には確定給付企業年金と確定拠出年金がある。そして個人年金は民間の保険商品を利用して各人が運用するものである。
今回はこれらのうち公的年金制度の全体像について解説するが、戦前の労働者年金に端を発する日本の公的年金制度はその時々の社会経済情勢に応じて対症療法的に増改築を繰り返してきた経緯もあり複雑怪奇な制度と化してしまった。
よって実際の年金事務は支給要件が細かく規定されていて例外もたくさんあるが、この記事では年金制度の全体像を理解することを優先し、あえて詳細を端折って解説させて頂く。
公的年金の被保険者
被保険者(加入者)
国民年金は20歳以上60歳未満の日本に住所のある者全員を対象とした制度であり、第1号被保険者(自営業、学生)、第2号被保険者(サラリーマンや公務員などの被用者)、第3号被保険者(第2号に扶養されている配偶者)の3つの種別に区分されている。
厚生年金保険は被用者を対象とした制度である。厚生年金保険が適用される事業者は健康保険とほぼ同じであり、全ての法人(国や地方の公共団体を含む)と常時5人以上の従業員を使用する個人事業者(農林水産業、飲食業、理美容業、宗教業を除く)が強制加入となる。
厚生年金保険の種別は勤務先によって、第1号被保険者(民間企業のサラリーマン)、第2号被保険者(国家公務員)、第3号被保険者(地方公務員)、第4号被保険者(私学教員)の4つがある。

被保険者期間(加入期間)
国民年金の第1号被保険者は20歳になったら国民年金に加入し、60歳の誕生日の前日になると国民年金の被保険者でなくなる。これらの手続きは国が住民基本台帳の年齢データから判断して自動的に処理し、本人には年金事務所から通知が送られてくる仕組みになっている。
就職して厚生年金保険の被保険者となると同時に国民年金の第2号被保険者となるが、20歳前の者は国民年金には加入できないため厚生年金保険のみに加入する。なお厚生年金保険は原則として70歳になると資格喪失(脱退)する。
国民年金の第3号被保険者は国民年金第2号被保険者(厚生年金保険の被保険者)に扶養される20歳以上60歳未満の配偶者であり、本人が年金事務所に届出を行うことで国民年金の被保険者となる。そして60歳になった時に国民年金第1号被保険者に種別変更される。

公的年金の3大給付(老齢・障害・死亡)
老齢年金
老齢年金は老後の生活保障として支給されるもので、国民年金は老齢基礎年金、厚生年金保険は老齢厚生年金という。どちらも原則として65歳になったら受給権を得ることができる。
老齢基礎年金を受給するには120月以上の被保険者期間が必要であり、加入期間が480月の場合に満額が支給される。満額の支給額は年間780,900円✕改定率で、加入期間が480月に満たない場合には、加入月数÷480月の割合を乗じた額となる。
老齢厚生年金は厚生年金保険の被保険者だった者が老齢”基礎”年金の受給資格を満たす場合に、被保険者期間の平均標準報酬月額✕給付乗率✕加入月数によって計算した額が毎年支給される。なお老齢厚生年金には本人の生年月日や扶養家族数に応じた年金額の加算制度がある。

障害年金
障害年金は被保険者が障害状態になった時に支給されるもので、国民年金は障害基礎年金、厚生年金保険は障害厚生年金という。
障害基礎年金は被保険者もしくは60~65歳の”元”被保険者が障害等級1~2級に該当し、保険料納付要件などを満たした場合に支給される。
支給額は2級が780,900円✕改定率で、1級は2級の額の25%増しとなる。もし一定の要件に該当する子がいる場合には子の人数に応じてそれぞれ所定の額が加算される。
障害厚生年金は被保険者が障害等級1~3級に該当し、”国民年金”の保険料納付要件を満たした場合に支給され、3級が老齢厚生年金の額、2級が3級の額プラス所定の配偶者加算、1級が3級の額の25%増しプラス2級と同じ配偶者加算となっている。
なお厚生年金保険では障害等級1~3級に満たない場合に一時金として障害手当金が支給される制度もある。

遺族年金
被保険者が死亡した時に所定の要件を満たす遺族に対して支給される年金であり、国民年金は遺族基礎年金、厚生年金保険では遺族厚生年金という。
遺族基礎年金は主に被保険者の遺児を対象とした給付であるが、遺族厚生年金は配偶者、子、親、孫、祖父母、兄弟など給付対象となる遺族の範囲が広い。
遺族基礎年金の額は780,900円✕改定率で計算され、要件を満たす遺児の人数に応じて所定の額が加算される。もし対象となる遺児がいない場合には寡婦年金もしくは死亡一時金が支給されることがある。
遺族厚生年金の額は死亡した被保険者が受給するはずだった老齢厚生年金の4分の3が支給されるが、死亡時の状況によって短期要件と長期要件のいずれかの方法で支給額が計算される。
具体的には短期要件では加入月数を一律300月として、長期要件では実際の加入月数にもとづいて年金の額を計算する。

公的年金制度の特徴
一人一年金の原則
一人一年金の原則とは1人が受給できる年金は1種類だけというルールであり、もし複数の年金の受給権が発生した場合にはいったん全ての年金の支給をストップし、本人がどれを受給するか選択すると選択した年金のみ支給停止が解除される仕組みである。
よく国民年金と厚生年金保険は「二階建て」の関係といわれ、例えば”老齢”基礎年金と”老齢”厚生年金のように同じ支給事由のものであればセットで併給される。ただし”老齢”基礎年金と”障害”厚生年金といった異なる支給事由の年金は同時に受給することができない。
さらに労災保険の障害補償給付や遺族補償給付あるいは健康保険の傷病手当金などの受給権を同時に取得した際にも100%のダブル支給は行われず、労災の補償給付が減額調整されたり傷病手当金が支給停止されたりする。
保険料の計算方法
厚生年金保険の保険料は健康保険と同じように標準報酬月額と標準賞与額にもとづき計算されるが、厚生年金保険では全国一律の保険料額表をもとに被保険者の給与の額に応じて32等級の保険料に振り分けられる点が健康保険とは異なっている。
厚生年金保険も毎年4~6月の平均給与をもとに7月1日付けで新しい標準報酬月額に改定され9月分の給与から適用される(定時決定)。また年度の途中で昇給などがあれば3ヶ月間の平均給与をもとに4ヶ月目から標準報酬月額を改定する(随時改定)。
なお厚生年金保険の被保険者(=国民年金第2号被保険者)は国民年金保険料は支払わない。その代わり徴収した厚生年金保険料の一部を政府が基礎年金拠出金として国民年金に交付し、老齢基礎年金の給付財源としている。

公的年金制度その他
特別支給の老齢厚生年金
昭和61年に厚生年金保険法が大改正されて老齢厚生年金の受給開始年齢が60歳から65歳に引き上げられたが、この端境期にある世代に対する激変緩和措置として20年かけて段階的に年金の支給開始年齢を遅らせることになった。
この期間に支給される年金を特別支給の老齢厚生年金といい、これまで説明してきた老齢厚生年金とは別個の制度である。よって65歳になると支給打ち切りとなり通常の老齢厚生年金に切り替わる仕組みになっている。

在職老齢年金
在職老齢年金とはなにがしかの年金がもらえる制度ではなく、年金受給者が就職した場合に給与の額に応じて老齢厚生年金もしくは特別支給の老齢厚生年金を減額する制度のことをいう。
具体的には標準報酬額(標準報酬月額+直近1年間の標準賞与額の月平均額)+老齢厚生年金の月額が支給停止調整額を超えた場合に、超過した分の半額相当の年金が支給停止される。支給停止調整額は毎年改定され令和5年度は48万円である。

年金の繰上げ・繰下げ
老齢基礎年金も老齢厚生年金も原則として65歳から受給できるが、事情あって65歳前に年金を受給したい場合もしくは66歳以後に受給しても構わないという場合には、それぞれ支給の繰上げ・支給の繰下げの申請をすることで受給開始年齢を変更できる制度である。
繰上げできるのは60歳までとなっていて1ヶ月繰り上げるごとに本来の年金額から0.4%相当額が減額される。一方で繰下げは75歳を限度として1ヶ月あたり0.7%が本来の年金額に加算される仕組みになっている。

<当サイト利用上の注意>
当サイトは主に小売業に従事する職場リーダーのために、店舗運営に必要な人事マネジメントのポイントを平易な文体でできる限りシンプルに解説するものです。よって人事労務の担当者が実務を行う場合には関係法令を確認したり、事例に応じて所轄の行政官庁もしくは最寄りの社会保険労務士事務所に相談されることをお勧めします。