医療と介護に関する記事

01 健康保険制度の全体像

2023年10月3日

日本の医療保険制度の概要

日本の医療保険制度の特徴

日本の医療サービスには保険診療保険外診療がある。保険診療は傷病の治療のための医療サービスで、医療機関の窓口で健康保険証を提示すれば原則として自己負担3割で受診できる。保険外診療は美容整形や歯科矯正など傷病の治療以外を目的とした自費診療である。

保険診療の医療費や保険料は健康保険法などの関係法令に規定されており、保険診療を受診できるのは厚生労働大臣の指定を受けた保険医療機関保険薬局のみとなっている。

保険診療や保険給付に関する仕組みを総称して医療保険制度というが、日本の医療保険制度には、①国民皆保険制度(国民全員が強制加入)、②フリーアクセス(全国どこの医療機関でも受診できる)、③診療報酬制度(医療費は公定価格)の3つの大きな特徴がある。

健康保険制度の種類

医療保険制度は職業や年齢に応じて5つに分かれており、全ての国民は健康保険(サラリーマン)、公務員共済(国家・地方公務員)、国民健康保険(自営業者)、後期高齢者医療(75歳以上の高齢者)、船員保険のいずれかに加入することになっている。

このうちサラリーマンが加入する健康保険制度は大企業や業界団体が自前で設立した健康保険組合と、主に中小企業が加入している全国健康保険協会(協会けんぽ)の2つの組織によって運営されているが、自分の健康保険証を見ればどの運営者なのか確認できる。

健康保険は全ての法人と、従業員を5人以上使用する個人事業者(農林水産業、飲食業、理美容業、宗教業を除く)に強制的に適用され、また短時間労働者を除く全ての役員と従業員が強制的に加入(被保険者)する制度になっている。

山口
労働保険(雇用・労災)の被保険者は従業員のみですが、社会保険(健保・厚年)は経営者も被保険者となります。ただし個人事業主だけは対象外なので従業員とは別に国民健康保険に加入することになります。

健康保険概要①給付の種類

療養に関する給付

健康保険から支給される医療費(保険給付)には療養の給付(診察や入院などの費用)、入院時食事療養費(入院した時の食事代)、入院時生活療養費(長期入院時の水道光熱費)、訪問看護療養費(在宅医療の費用)などがある。

そのほか自己負担額が高額となってしまった時に一定額を超えた分が還付される高額療養費制度や、厚生労働大臣が定めた保険外診療(自費診療)に限って健康保険を適用する保険外併用療養費などもある。

健康保険の被保険者に扶養家族がいる場合、もしその扶養家族が健康保険法に定める年収や居所などの要件を満たすと被扶養者資格を取得することができ、被保険者とほぼ同じ内容の保険給付を受けられるようになる。

山口
国民健康保険には被扶養者という概念はありません。たとえば個人事業者の場合には扶養家族がいてもそれぞれが被保険者となり、保険料は各自にて負担するか世帯主がまとめて納付することになります。

生活保障に関する給付

生活保障に関する給付は傷病手当金出産手当金出産育児一時金埋葬料だが、これらのうち出産に関する保険給付については比較的よく活用されているため、制度の名前くらいは知っているという人は多いかもしれない。

傷病手当金は労災以外の傷病により就労不能となって3日以上休業した場合に、休業の4日目から直近1年間の標準報酬月額を平均した額のおよそ3分の2が給付されるもので、支給日数は最長で通算1年6ヶ月分までとなる。

山口
労災保険も休業4日目から保険給付されますが、最初の3日間は労働基準法にもとづき事業主に休業補償の義務があります。また就労不能による休業が続く限り保険給付が打ち切られない点も傷病手当金と異なります。

出産手当金は産前42日から産後56日のうち、出産のために就労できなかった日について傷病手当金と同じ額が支給される生活保障的な給付であり、出産育児一時金は出産費用そのものに対する保険給付である。

出産育児一時金は毎年改定されるが、令和5年度の支給額は出産1児につき48万8千円となっている。もし産科医療補償制度に加入している医療機関で出産した場合にはさらに1万2千円が加算される。

埋葬料は被保険者が死亡した時に、被保険者によって生計を維持されていた遺族に対し一律5万円が支給されるが、もし該当する遺族がいない場合には葬儀を行った者に対して5万円を上限として埋葬費が実費支給される。

山口
産前42日~産後56日は労働基準法の産前産後休業(産前6週間~産後8週間)と同じ考え方ですが、出産日が出産予定日の後になってしまった場合でも、その間の休業日について出産手当金が支給されます。

健康保険概要②費用の負担

医療費の負担

医療機関を受診した時に会計窓口で支払う自己負担額(一部負担金)は原則として年齢に応じて医療費の3割(70歳未満)、2割(70歳以上)、1割(75歳以上の後期高齢者)であり、被扶養者については未就学児が2割負担であることを除き被保険者と同じである。

医療費は厚生労働省が定める診療報酬点数表をもとにして医療機関の医事課スタッフが計算し、会計時に受診者から前述の割合に応じた一部負担金を徴収する。そして残りの7~9割の医療費を翌月10日までに健康保険に対して請求する流れとなっている。

この診療報酬を請求する事務をレセプト請求と呼ぶが、実務上は健康保険の代行組織である社会保険診療報酬支払基金(社保基金)と国民健康保険団体連合会(国保連)に対してレセプト請求を行い、これらの組織が請求内容を精査した上で医療機関に対して支払いを行う。

山口
医療機関にとって医業収入のうち3割が現金決済、残り7割が健康保険に対する売掛金ということになります。診療報酬は請求の翌月に振り込まれますが流動債権(ファンド)化して早期回収する病院も増えています。

保険料の徴収

保険給付の財源は被保険者から徴収した保険料と国庫負担である。なお後期高齢者医療の場合は現役世代に比べて保険料収入が少ないため、財源の4割を健康保険から後期高齢者交付金として充当し、さらに都道府県や市町村からも拠出している。

月々の保険料は都道府県ごとの標準報酬月額表にもとづき決定された標準報酬月額に、また賞与は支給額の千円未満を切り捨てた額をそのまま標準賞与額とし、それぞれ健康保険料率を乗じて保険料を算定する仕組みになっている。

保険料は原則として事業者と従業員が折半して負担することになっており、具体的には従業員の給与から保険料の半額を天引きし、事業者が残りの半分を合算してから年金事務所を経由して健康保険に納付する流れが一般的である。

各人ごとの標準報酬月額は毎年7月1日に4~6月の平均給与をもとに再計算され、9月から新しい標準報酬月額が適用されるがこれを定時決定という。また年度の途中で昇給があった場合には昇給後3ヶ月間の平均給与をもとに4ヶ月目から標準報酬月額の随時改定を行って適正な保険料に調整される。

山口
公的保険制度では給与の額をもとに保険料や保険給付を計算するケースが多いですが、労働保険は労働者のみ加入するので「基礎賃金」といい、社会保険は役員も対象なので「標準報酬」と呼びます。

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