雇用安定に関する記事

01 雇用保険制度の全体像

2023年9月30日

この記事のポイント

雇用保険には失業給付や雇用促進、失業予防のための様々な制度があり、給付の対象も季節労働者、日雇い労働者、病気や障害による就職困難者など広範囲にわたる。そこで今回は一般の労働者と高年齢労働者に関係する主な制度に限定して解説したい。

山口
雇用保険は原則として本人からの申し出が必要ですが、制度を知らない人が多いために充分に活用されていません。もし店長が概要だけでも把握していれば、すみやかに人事部門に取り次ぐことができます。

求職者給付

求職者給付は失業者が早期就職できるように経済的な支援を行うための制度である。主な給付は失業中の生活保障としての基本手当、就職のために公共職業訓練を利用した場合の受講料や交通費を補助する技能取得手当などがある。

基本手当・高年齢再就職給付金

一般的に失業保険と呼ばれているものが基本手当である。失業後に公共職業安定所で求職の申し込みを行うと、在職時の平均賃金をもとに算定された基本手当日額が、退職理由や年齢によって定められた所定日数の範囲内で支給される仕組みだ。

65歳以上の高年齢失業者には基本手当の代わりに高年齢再就職給付金が支給される。こちらは雇用保険の加入期間に応じた額を一時金として一括で支給するものだが、支給直後に再就職しても返還の義務はない。

なおこれらの給付金を受給する際には、最初に7日間の待機期間と2~3ヶ月間の給付制限期間(自己都合退職の場合など)が設けられており、この間は給付金は支給されない。またどちらの給付金も退職日の翌日から1年以内に受給しないと失効してしまう。

就業促進給付

就業促進給付は求職者の再就職を促進するための制度で、主なものには求職活動支援費就業促進手当などがある。

求職活動支援費の支給対象は一般の求職者と高年齢求職者だが、就業促進手当の再就職手当就業促進定着手当は一般の求職者のみとなっている。ただし一般の求職者であっても再就職以前3年間にこの制度を利用していた場合には支給されない。

求職活動支援費

求職活動支援費は求職活動にかかる経費を補助するための制度で広域活動求職費短期訓練受講費求職活動関係役務利用費がある。

具体的には求職者が公共職業安定所の職業指導にもとづき、広域にわたって求職活動をした時の交通費、短期職業訓練の受講費、求職活動や訓練受講のために保育サービスを利用した時の利用料などに対し、それぞれの一部を助成する制度となっている。

就業促進手当

再就職手当は求職者が基本手当の3分の1以上を残した状態で早期就職した場合に、残額の7~6割を一時金として支給する制度だ。基本手当の未支給分を求職者に還元することで求職活動を促す狙いがある。

さらに再就職して6ヶ月経過した時に前職より賃金が下がってしまった場合には、基本手当の3~4割(つまり再就職手当を支給した後の基本手当の残額)を就業促進定着手当として追加支給することで早期離職を予防する仕組みとなっている。

山口
基本手当の給付日数が90日であれば30日分を残して再就職できた場合に30日✕6割=18日分の再就職手当が支給され、その6ヶ月後に前職よりも給与が低ければ残り12日分が就業促進定着手当として支給されます。

教育訓練給付

教育訓練給付は労働者がキャリアアップのために厚生労働省の指定する教育訓練を修了した場合にその費用を助成する制度で、教育訓練の内容に応じて一般教育訓練給付金特定一般教育訓練給付金専門実践教育訓練給付金の3コースが用意されている。

教育訓練給付制度を利用できるのは就労中の一般労働者と高年齢労働者であり、なおかつ雇用保険の加入期間が1年以上あることが条件である。ただし退職後1年以内に教育訓練を開始できる場合には、失業中でもこの制度の対象となる。

一般教育訓練給付

業務に関連した資格を取得するために資格学校や通信教育の課程を修了すると、受講料の20%(上限10万円)が一般教育訓練給付金として支給される。小売業関係では日商販売士、食品衛生管理者などが対象となる。

特定一般教育訓練給付

大型自動車一種免許やフォークリフト技能講習などの免許を取得するために教習所へ通うケースを想定したものが特定一般教育訓練給付金で、受講費用の40%(上限20万円)が支給される。建設や介護に関連するものが多い。

専門実践教育訓練給付

専門実践教育訓練給付金は看護師や美容師など、専門学校を卒業してから国家試験を受けるような長期の専門課程を対象としており、通学費用の50%(上限は年40万円)が支給される。訓練期間が複数年に及ぶので6ヶ月ごとに給付金が支給される。

雇用継続給付

雇用継続給付は高年齢雇用継続給付介護休業給付の2つの制度がある。高年齢雇用継続は60歳以上65歳未満の高年齢労働者、介護休業給付は育児介護休業法に定める対象家族を介護する労働者が支給対象となる。

雇用継続給付

高年齢雇用継続基本給付金は定年後に継続雇用された者、また高年齢再就職給付金は定年退職した後に新たな勤務先に再雇用された者が、高齢であるために賃金が下がってしまった場合に、減額分について65歳になるまで最大15%の賃金保障を行う制度である。

なお高年齢者雇用安定法では事業者に対して定年を60歳以上とすること、従業員が65歳まで働けるように①定年制の廃止、②定年の引き上げ、③定年後の雇用継続のいずれかを制度化することを義務付けている。

山口
高齢による労働能力の低下を理由に60歳を目途に賃金の減額改定を行う企業が少なくないため、老齢年金を受給できる65歳まで雇用保険側で高年齢労働者の雇用継続を支援しましょう、というのがこの制度の趣旨です。

介護休業給付

介護休業給付金は介護休業によって賃金が休業前の80%未満に下がった場合に、休業前賃金の67~40%を保障する制度である。

なお雇用保険法に規定されているのは介護休業時の給付金に関する内容であり、介護休業を取得できる期間や回数については育児介護休業法に別途定められている。

山口
最近の人事上の課題のひとつに労働力不足への対応がありますが、新規採用に注力するよりも介護休業給付制度を活用して既存社員の介護離職を防止する方が、はるかに経営上のメリットが大きいです。

育児休業給付

育児休業給付制度の基本的な仕組みは介護休業給付と概ね同じものとなっている。また雇用保険法に規定されているのは育児休業給付金に関するルールであり、育児休業の取得条件については育児介護休業法に別途定められている点も同様である。

育児休業給付金

育児休業給付金は育児休業によって賃金が休業前の80%未満に下がった時に、休業前賃金の67~50%を保障する制度である。妻が出産した男性が育児休業する場合や養子の育児のために休業する場合でも支給対象となる。

なお出産した女性には労働基準法の産前産後休業が優先して適用されるため、育児休業を取得できるのは産後8週間が経過してからとなるが、産前産後休業中は雇用保険に代わって健康保険から出産手当金が支給される。

山口
さらに産前産後休業中の社会保険料が免除されたり、3歳未満の子の養育のために時短勤務した場合に、将来の年金額を据え置いたまま時短中の保険料だけ安くなる厚生年金特例といった制度もあります。

出生時育児休業給付金

出生時育児休業は令和5年に新設された男性の育児休業促進のための制度(通称「パパ育休制度」)で、子が出生してから4週間以内に28日間を限度に取得することができる。

そして出生児育児休業給付金は、休業中の賃金が休業前の80%未満に低下した場合に最高で休業前賃金の67%まで保障する制度となっている。

出生児育児休業の後は通常の育児休業に移行することとなり、給付金も育児休業給付金に切り替わる。なお出生児育児休業の取得条件も育児介護休業法に定められている。

雇用保険二事業

これまで紹介した制度は労働者に対して給付を行うものだったが、雇用保険二事業雇用安定事業能力開発事業の2つの事業に取り組む自治体や事業者に対して助成する制度である。

雇用安定事業の代表的なものには緊急雇用安定助成金(コロナ助成金)、能力開発事業には職業能力開発促進センター(ポリテクセンター)の運営などがあり、事業主から徴収した保険料と国庫補助(税金)を財源として助成を行っている。

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  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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