この記事のポイント
雇用保険に加入する意義
雇用保険といえば失業保険(求職者給付の基本手当)を連想する人は多い。雇用保険には求職者給付以外にも労働者の就業促進、雇用継続、教育訓練、育児介護休業などを経済的に支援する様々な給付金が用意されている。
雇用保険は失業予防のための公的セーフティネットであるが、各種給付の主な原資は事業者と従業員が折半して負担している雇用保険料なので、この制度を積極的に活用しない手はない。
雇用保険の適用事業
原則として従業員を1名でも使用する事業であれば法人であろうと個人事業であろうと強制的に雇用保険制度が適用される(強制適用事業所)。例外は従業員5人未満の個人経営の農林水産業などだが、当サイトは小売業専門なので解説しない。
外資系企業であっても日本国内で事業を行うのであれば雇用保険の強制適用事業所となる。また国や都道府県もしくは市町村の行う事業についても雇用保険が強制適用される。
雇用保険の被保険者
次の要件に該当する者が就職するとその日から法律上当然に雇用保険に加入することになる。雇用保険に加入した従業員を雇用保険被保険者といい、ここでは日雇労働被保険者を除く一般被保険者、高年齢被保険者、短期雇用特例被保険者の3種類について解説する。
雇用保険に加入できる人
一般被保険者
週の所定労働時間が20時間以上で同一の事業者に31日以上継続して雇用され、なおかつ65歳未満の従業員は、正社員、パートタイマー、アルバイトなどの雇用身分を問わず全て一般被保険者に該当する。なお派遣労働者は派遣元企業にて雇用保険の一般被保険者となる。
高年齢被保険者
週の所定労働時間が20時間以上で同一の事業者に31日以上継続して雇用され、なおかつ65歳以上の従業員は高年齢被保険者となる。一般被保険者が65歳になると高年齢被保険者に切り替わり、再就職手当や高年齢雇用継続給付などが適用されなくなる。
短期雇用特例被保険者
短期雇用特例被保険者は観光地などでシーズン中だけ物販や接客サービスに従事する季節雇用の従業員が該当する。ただし季節雇用者のうち雇用期間が4ヶ月以下もしくは週の所定労働時間が30時間未満の場合は雇用保険の被保険者とはならない。
雇用保険に加入できない人
経営者
法人の代表取締役は労働者ではないため雇用保険に加入できない。その他の取締役については原則として雇用保険の対象外だが、就労の実態から判断して労働者性が認められる場合には加入できるケースもある。執行役員は労働契約なので例外なく雇用保険の被保険者となる。
短時間・短期間労働者
短時間労働者(週の所定労働時間が20時間未満)、短期間労働者(同一の事業者に31日未満の期間で雇用される者、雇用契約が4ヶ月以下の季節労働者)は雇用保険に加入できない。また昼間学生のアルバイトも雇用保険の対象外となる。
個人商店の経営者と家族
個人商店の事業主は自分自身を雇用するということにはならないため雇用保険の被保険者となる余地はない。個人商店が同居の家族だけで営業しているような場合、その店で働く家族についても原則として雇用保険の対象外となる。
被保険者資格の取得と喪失
雇用保険法では就職して雇用保険に加入することを被保険者資格の取得、退職して雇用保険から脱退することを被保険者資格の喪失という。これ以降の記事では取得・喪失という正規の用語で解説してゆく。
資格取得手続き
使用者は従業員を採用したら、採用した日の翌月10日までに店舗を管轄する公共職業安定所に雇用保険被保険者 資格取得届を提出しなければならない。
なお雇用保険被保険者 資格取得届の「10.賃金」欄には基本給+諸手当(通勤手当やみなし残業代等を含む)を合算した額を記入することになっている。
資格喪失手続き
使用者は従業員が退職したら、退職日から10日以内に雇用保険被保険者 資格喪失届に雇用保険被保険者 離職票1および雇用保険被保険者 離職票2を添えて所轄の公共職業安定所に提出し、資格喪失の手続きを行わねばならない。
雇用保険被保険者離職票1,2は退職者が失業中に求職者給付の基本手当(いわゆる失業手当)を受給する際の賃金基礎日額の算定に必要となる資料である。よってすでに再就職先が決まっている退職者の場合にはこれらの提出を省略できる。
継続事業の一括
雇用保険法において雇用保険制度は事業場ごと(店舗ごと)に適用されることになっている。つまり直営店舗をチェーン展開しているような業態では、従業員の採用や退職の都度、各店舗にて雇用保険の資格取得・喪失手続きを行う必要がある。
しかし労務管理を各店舗に分散してしまうとチェーンオペレーションのメリットを活かせない。そこで労働保険徴収法にもとづき継続事業の一括手続きを行うことで、本来であれば店舗ごとに行う雇用保険の資格取得・喪失手続きを本社の人事部門に集約することができる。
<当サイト利用上の注意>
当サイトは主に小売業に従事する職場リーダーのために、店舗運営に必要な人事マネジメントのポイントを平易な文体でできる限りシンプルに解説するものです。よって人事労務の担当者が実務を行う場合には、事例に応じて所轄の労働基準監督署、公共職業安定所、日本年金事務所等に相談されることをお勧めします。