人材採用に関する記事

02 求人情報提供ガイドライン

2023年11月5日

この記事のポイント

日本の採用活動や求職活動において最も多く利用されているのが求人広告であるが、ハローワークインターネットサービスに公開中の求人情報の出稿元企業に詐欺まがいの営業を行う求人広告サイトが問題となっている

そこでハローワークは悪質な求人広告サイトに騙されないために求人広告を出稿しようとしている企業に対し、求人情報提供ガイドライン適合メディア宣言を表明している求人広告事業者の利用を推奨している

求人情報提供ガイドライン適合メディア宣言とは「当社の求人メディアは求人広告業界にて自主的に定めた求人情報適正化ガイドラインに準拠した優良な求人広告を提供しています」という公的な表明である

求人広告トラブルに遭わないために

悪質な求人広告業者が増えている

ハローワークインターネットに掲載されている求人情報の出稿元企業に「料金は一切かかりませんので貴社の求人広告を当社サイトにも掲載させてほしい。」などといった営業電話をかけ、後日に高額な広告料金を請求する詐欺まがいの求人広告サイトが増えているようだ。

実際にハローワークにはこういった悪質な求人広告サイトに対する苦情が多数寄せられているようで、厚生労働省では求人出稿にかかるトラブル防止のために求人情報提供ガイドライン適合宣言を行っているメディアを利用するようWebサイト上で注意喚起している。

山口
人事部時代は求人広告を出稿した途端に名前を聞いたこともない業者から連日うんざりするくらいの営業電話がかかってきたものです。私の経験からいえばこういう業者は関わるだけ時間の無駄ですのでスルーしましょう。

求人情報提供ガイドラインとは?

日本の採用市場では求人者、求職者ともに求人広告を最も多く利用する傾向があること、また求人広告は多様な事業者から提供されることから、粗雑な求人広告による採用トラブル防止のために求人情報提供事業者が連携して2017年に求人情報提供ガイドラインを設けた。

求人情報提供ガイドラインでは求人情報提供事業者の倫理綱領、求人情報の留意事項や適合性の事前審査、求人に関する苦情対応などを定めており、求人情報提供事業者が出稿元の依頼を受けて求人情報を提供する際の明示義務情報明示努力義務情報を設定している。

求人情報提供ガイドラインには法的拘束力がないので求人広告メディアがこのガイドラインに準拠するか否かは各社の任意である。そのため求人情報提供ガイドラインに自主的に取り組む企業を求人情報提供ガイドライン適合メディア宣言企業として公表する仕組みとしている。

山口
求人情報提供ガイドラインは求人情報サイトや求人情報誌を発行している事業者が対象であり人材紹介業や人材派遣業は含まれません。2023年11月時点で56社112メディアが宣言しています。

求人広告に関する法令

求人広告は労働者募集委託事業

日本の採用(就職)活動において求人広告の果たす役割は非常に重要なので職業安定法では求人広告を取り扱う事業を労働者募集委託事業と定め、この事業を有料で行おうとする場合には厚生労働大臣の許可を必要とし、また無料で行おうとする場合には届出を義務付けている。

なお従来は労働者募集委託事業とは求人情報サイトと求人情報誌のことを指したが、2022年10月の法改正によってWeb上に公開されている求人情報をクローリングして収集し、改めて自社サイトで情報提供するサービスも労働者募集委託事業に該当することになった。

山口
ほかに求人広告メディアはいかなる理由があっても求職者から報酬を得てはならない、などの規定もあります。求人欄を掲載している新聞社や自社のホームページで人材募集を行う場合には職業安定法は適用されません。

求人情報提供ガイドラインの内容

求職情報提供ガイドラインの内容は主に①企業概要に関するもの(所在地、事業内容、従業員数、設立年月日等)、②採用条件(仕事内容、雇用形態、就業場所、給与条件、応募資格等)、③福利厚生(社会保険制度、退職金制度、定年制度等)で構成されている。

さらに新卒採用の求人情報の場合は新卒者が適切に就職先を選ぶことができるよう直近3年間の新卒採用数と離職者数、男女別社員数、平均勤続年数、研修制度の有無、社内検定制度の有無などについて、前述の求人情報に追加して公表することになっている。

山口
労働施策総合推進法では従業員300人以上の企業に中途採用者の構成比を、また育児介護休業法では従業員1,000人以上の企業に社員の育児休業の取得状況を自社のホームページなどで毎年公表することを義務付けています。

求人広告に掲載する人材要件

求人する人材要件の決めかた

求める人材の要件は能力と人物の2つから設定する。能力は経営戦略の実行に必要とされる役割を遂行するための技能、知識、経験、資格などから、人物は経営理念や組織の価値観もしくは企業文化に適合する思考習慣や行動習慣などからそれぞれ人材要件を導き出す。

ただし新卒者は就労の実績がなく、仕事に対するポリシーやスタンスなどがまだ定まっていないことが一般的なので、むしろ採用後の成長可能性を推測できそうな指標、たとえば熱意と意欲、理解力と判断力、常識と教養、行動力と実行力などから人材要件を設定する。

小売業の求める人材要件とは?

小売業に適した人材要件は業種や業態によってさまざまなのでここで一概に定義することは難しい。そこで日商販売士検定のテキストから参考となりそうなキーワードをピックアップし、一例として食品スーパーの店舗オペレーションに必要とされる人材要件を整理してみた。

キーワード人材要件
企業の社会的責任、コンプライアンス経営、地域のライフライン経営マインド
ミッションとゴール、価値観、実行戦略、コーチングリーダーシップ
コミットメント、レスポンシビリティ、アカウンタビリティマネジメント力
戦略商圏、リージョナルマーケティング、マーチャンダイジング戦略立案・策定力
予算編成・統制、予算の先行管理、LSP、GMROI、PDCAサイクルコントロール
ビジュアルプロモーション、商品加工技術、商品陳列技術商品化の技能
商圏分析、ABC分析、貢献度分析、損益分岐点分析、人時生産性論理的思考力
マトリクス組織、チーム別割当予算、カテゴリーミックスの構築チーム精神の発揮
ロイヤルカスタマーサービス、CRM、管理者のカウンセリングホスピタリティ
ローコストオペレーション、パート・アルバイト比率、MBO部下の育成力
HACCP認証、食品衛生責任者、衛生管理者、防火管理者リスク対応力

もし販売課長の即戦力採用であれば求める人材要件のうちストラテジーやコントロール、論理的思考力のウエイトが高くなるだろうし、生鮮の部門チーフであれば商品化の技能がより強く求められ、さらにHACCP認証の知識と食品衛生責任者の資格は必須となるだろう。

山口
LSPはレイバースケジューリングプログラムで店内作業の必要人時を設定して人時生産性の改善を図る手法です。CRMはカスタマーリレーションマネジメント=顧客データベースを活用したマイクロマーケティングです。

募集・採用の基礎知識を学ぶ

求人情報提供ガイドラインでは募集・採用に活用できる基礎知識をPDFおよび動画にて公開している。人材サービス各社のWebサイトにも人事FAQなどがあるが、公的なコンテンツには営業バイアスがかかっておらず中立の立場で基礎知識をまとめてあるのでぜひ活用したい。

参考書籍;ビジネスキャリア検定試験 標準テキスト 人事・人材開発(中央職業能力開発協会 編)、販売士ハンドブック発展編(日本商工会議所・全国商工会連合会 編)

<当サイト利用上の注意>
当サイトは主に小売業に従事する職場リーダーのために、店舗運営に必要な人事マネジメントのポイントを平易な文体でできる限りシンプルに解説するものです。よって人事労務の担当者が実務を行う場合には、事例に応じて所轄の労働基準監督署、公共職業安定所、日本年金事務所等に相談されることをお勧めします。

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

-人材採用に関する記事
-