05_人材採用

求人情報

2024年7月22日

記事の目的

怪しい求人広告のイラスト

近年、人材の募集や採用をめぐって求職者と求人者とのトラブルが増えています。また、ハローワークに求人票を公開している企業に対し、無料と偽って求人広告の掲載を勧誘し、後から高額な広告料を請求する詐欺まがいの悪徳求人広告サイトが問題となっています。

これらのトラブルの多くは、求人側(企業側)の知識不足によるものがほとんどです。そこで本記事では、求人情報に記載すべきこと、記載してはいけないこと、またどんな広告媒体を選ぶべきか、などのポイントについて、解説してゆきます。

求人情報には何を記載すべきか?

求人情報提供ガイドライン

求人募集の広告のイラスト(男性)

求人情報提供ガイドラインとは、粗悪な求人広告による募集や採用トラブルを防止するため、2017年に有力な求人広告メディア各社が連携して、求人情報提供事業者の倫理要項や、求人情報を提供する際に明示すべき事項などをガイドライン化したものです。

求人情報提供ガイドラインでは、求人広告メディアは、求職者が応募先を選択する時の判断情報として、①企業概要、②採用条件、③福利厚生などの情報を掲示します。新卒採用の場合は、さらに直近3年間の新卒採用数や離職者数、研修制度の有無なども付記します。

あわせて、求人情報提供ガイドラインに準拠した求人広告の公開に自主的に取り組んでいる広告メディアを、「求人情報提供ガイドライン適合メディア宣言企業」として公表することで、企業が誤って悪質な広告メディアを掴んでしまうリスクを回避できるようにしています。

求人情報を記載する時の注意事項

集合している人たちのイラスト(就活生・新入社員)

新たに人材を募集しようとする時は、求人情報提供ガイドラインに沿って、あらかじめ社内で求人情報を整理しておくことで、求人広告メディアの担当者とのやりとりがスムーズにゆきます。あわせて人材募集に関する法令もチェックしておくと、なお良いでしょう。

  • 事業主は、労働者の募集および採用に際して、性別にかかわらず均等な機会を与えなければならない(男女雇用機会均等法)
  • 事業主は、労働者の募集および採用に際して、年齢にかかわらず均等な機会を与えなければならない(労働施策総合推進法)
  • 事業主は、労働者の募集および採用に際し、障害者に対して障害者でない者と均等な機会を与えなければならない(障害者雇用促進法)
  • ハローワークは、労働条件を明示しない求人の申し込みを、受理しないことができる(職業安定法)

ココがポイント

男女差別の禁止には、採用対象を男女のいずれかに限定したり、どちらかの性別を優先的に採用すること、また転勤可能であること、もしくは転勤経験があることを応募条件とすることも含まれます。

労働条件と求人情報は表裏一体の関係

労働条件の明示義務

労働条件通知書

労働基準法は、採用後の当事者間のトラブル防止のため、事業主に対し、一定の労働条件について労働条件通知書に明記し、労働者に通知することを義務付けています。

労働条件通知書に明記しなければならない労働条件には、必ず明記しなければならない絶対的明示事項と、条件を設ける場合には明示しなければならない相対的明示事項があります。またパートタイマーや契約社員の場合は、これらに特記事項を追加しなければなりません。

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なお、求人情報の作成前に、募集部門と人事部との間で、労働条件を整理しておくことをお勧めします。たとえば店舗側で作成した求人情報と、本社の人事部から送付した労働条件通知書の整合性が取れておらず、採用後にトラブルに発展する事例は少なくありません。

もし求人情報と労働条件通知書の相違が著しく、その相違が求職者にとって合意しがたいものであれば、求職者は労働契約法にもとづき労働契約を拒否できます。求人広告の虚偽性が悪質な場合には、職業安定法によって求人側に懲役刑や罰金刑が科されることもあります。

ココがポイント

募集部門の責任者が人事部より立場が強い場合、面接の場で求職者に対してお手盛り条件を提示してしまうことがありますが、せっかく新たな人材を採用できても、既存社員のモチベーションや職場のモラール低下を招くので厳に慎むべきです。

労働条件を決める時の注意事項

賃金格差のイラスト(男女)

労働条件の整理にあたっては、給与や勤務時間、休日など、それぞれの条件が労働法令に準拠していなければなりません。詳細は別の記事にて解説しますが、ここでは求人情報提供ガイドラインの各項目に対して主な注意事項を付記してみました。

効果的な人材募集を行うために

求職者の職業選択に資する情報の公表

分かれ道に立つ人のイラスト(女性会社員)

いくつかの労働法令では、一定の規模以上の事業主に対し、求職者の職業選択のための情報の公表を義務付けています。

  • 労働施策総合推進法
    従業員300人超の事業所は、直近3年間の正社員に占める中途採用者の比率を、ホームページなどて定期的(年1回以上が望ましい)に公表しなければならない
  • 育児介護休業法
    従業員1000人超の事業所は、毎年1回、ホームページなどで男性社員の育児休業および育児休暇の取得率を公表しなければならない。
  • 女性活躍推進法
    従業員300人超の事業所は女性の職業選択に資する情報として次の2つを、従業員300人以下100人超の事業所はいずれか1つを、定期的に公表しなければならない
    ①職業生活における機会の提供に関する実績(全労働者に占める女性労働者の比率、男女労働者間の賃金格差)
    ②職業生活と家庭生活との両立に資する雇用環境の整備に関する実績(男女労働者の平均勤続年数の差異、男女労働者別の育児休業取得率)

非正規雇用者に対する情報提供

労働行政の世界では、パートタイマーや契約社員、派遣社員などの非正規雇用は、処遇の悪さや雇用の不安定さから、あくまでも臨時的かつ一時的なものであるべき、という認識です。

そこでいくつかの法令では、パートタイマーや契約社員を雇用していたり、人材派遣サービスを利用している事業所において、新たに人材の募集・採用を行おうとする場合には、まずこれらの非正規雇用者の正規雇用もしくは直接雇用を行うことを定めています。

  • パートタイム・有期雇用労働者法
    使用者は、新たに正社員を募集・採用する場合は、まずパートタイマーや契約社員に対し、次のいずれかの方法で、正社員への転換を促さなければならない。
    ①求人情報の周知、②社内公募等で応募の機会を提供する、③正社員登用試験を実施する
  • 労働者派遣法
    使用者は、次のいずれかの事業所で新たに人材の募集・採用を行う時は、まず派遣社員に対し、求人情報を提示しなければならない。
    ①同一の職場で同一の派遣労働者を1年以上継続して受け入れている事業所(正社員の募集・採用に限る)
    ②同一の職場で同一の派遣労働者を3年間受け入れる予定の事業所(派遣元が派遣先に直接雇用を依頼し、なおかつ派遣社員が派遣先への就職を希望する場合に限る)

募集・採用をめぐるトラブルがおきた時は?

ブラック企業と労働基準監督官のイラスト

労働法令には、労使間の紛争解決のためのものがいくつか存在します。しかしこれらは原則として、労使間のトラブル解決のための法令なので、まだ労使関係に至っていない求職者と求人者との間のトラブルは想定していません。

しかし本記事の冒頭で述べたように、人材の募集・採用をめぐるトラブルが増えていることから、個別労働関係紛争解決促進法では、都道府県労働局が、トラブルの当事者に対して、紛争解決のために①情報提供・相談、②助言・指導を行ってくれることになっています。

ともあれトラブルを起こさず、長く働いてくれる人材を採用するには、自社の良い点も悪い点も包み隠さず求職者に伝えることです。

かつてはやや誇張した求人情報を提示し、「いったん採用したら煮て喰おうが焼いて喰おうがこっちのモンだ!」みたいな経営者は少なくありませんでしたが、それはもはや半世紀前の時代遅れの考え方だということを認識した方がよいでしょう。

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当サイトは主に小売業などの店長職を対象に、店舗運営において必要とされる人事管理に関する一般的な理論や事例などを、できるだけ平易な表現で簡潔明瞭に解説することを目的としています。よって実務に際しては、所轄の官公署などに確認した上で、自社の事例に応じて適切に処理されることを推奨します。なお弊社でも人事制度の設計や運用および事務担当者の指導・育成などのオンライン・コンサルティングサービスを行っております。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。
  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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