
社会保険資格喪失手続きとは?
社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入しているスタッフが退職したり、勤務形態が変わった際に避けて通れないのが「社会保険の資格喪失手続き」です。
手続きが遅れると、退職したスタッフの転職先での社会保険資格取得手続きに影響が出たり、不要な社会保険料を請求されたりと、さまざまなトラブルの原因になります。
歯科クリニックでは、協会けんぽに代表される「健康保険」に加入しているケースと、「歯科医師国民健康保険組合(以下、歯科医師国保組合)」に加入しているケースの2つのパターンがあります。
本記事では、社会保険の被保険者資格喪失手続きについて、加入する公的医療保険による手続きの違いに触れながら、歯科クリニックの実務に即した流れを解説します。
健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届の概要
届出の正式名称と位置づけ
従業員が社会保険の被保険者資格を喪失した際、事業主は「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届/厚生年金保険 70歳以上被用者不該当届」を提出する必要があります。
なお、歯科医師国保組合と厚生年金保険に加入しているクリニックの場合、この届出で行えるのは厚生年金保険の喪失手続きのみです。
そのため、あわせて歯科医師国保組合の喪失手続きも行う必要があります。
届出が必要になる主なケースと資格喪失日
被保険者資格喪失届は、主に以下のような場面で提出が必要となります。
- 被保険者が退職したとき
- 被保険者が死亡したとき
- 勤務形態の変更などにより、週の所定労働時間や労働日数が被保険者要件を満たさなくなったとき
- 60歳以上の被保険者を退職後1日の空白もなく再雇用するとき(同日得喪/高年齢得喪)
- 75歳になり、後期高齢者医療制度の被保険者となったとき(健康保険のみ喪失)
- 65歳以上75歳未満の被保険者が、障害認定により後期高齢者医療制度の被保険者となったとき(健康保険のみ喪失)
なお、資格喪失日は喪失事由によって以下の通り異なります。
- ①・②: 退職日または死亡日の翌日
- ③: 勤務形態を変更した当日
- ④: 再雇用された当日
- ⑤: 75歳の誕生日当日
- ⑥: 後期高齢者医療制度の被保険者となった当日
70歳に到達した場合の取り扱い
在職中の被保険者が70歳に到達した場合は、「厚生年金保険 被保険者資格喪失届/厚生年金保険 70歳以上被用者該当届」を提出します。
ただし、70歳到達前から引き続き雇用されており、かつ標準報酬月額相当額に変更がない場合は、原則として届出を省略することができます。
なお、70歳以上の被保険者が退職または死亡した場合は、70歳未満の被保険者と同じ「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届/厚生年金保険 70歳以上被用者不該当届」を提出します。
提出手順の詳細
以下では協会けんぽ及び厚生年金保険の手続きについて解説します。
健康保険組合の手続きについては、加入先の健康保険組合へご確認ください。
提出期限
資格喪失の事実が発生した日から5日以内に提出します。
提出先と提出方法
クリニックの所在地を管轄する日本年金機構の事務センターまたは年金事務所へ、郵送か窓口持参で提出します。
なお、電子申請による提出も可能です。
届出様式
所定の「健康保険・厚生年金保険 被保険者資格喪失届/厚生年金保険 70歳以上被用者不該当届」を使用します。
届書は日本年金機構のホームページからダウンロードできます。
記入方法に不明な点がある場合は、同ホームページに掲載されている記入例を参照するとよいでしょう。
添付書類
添付書類は、加入している健康保険の種別や喪失理由によって異なります。
協会けんぽ加入の場合
- 資格確認書:スタッフ本人分だけでなく被扶養者分も含めて添付します。もし、スタッフから回収できない場合は、「回収不能届」を添付することで資格喪失手続きを進めることができます。
- 各種受給者証・認定証: 高齢受給者証、特定疾病療養受給者証、健康保険限度額適用・標準負担額減額認定証などの交付を受けている場合は、被扶養者分も含めて添付が必要です。
60歳以上のスタッフを退職後1日の空白もなく再雇用する場合
- 健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届/厚生年金保険 70歳以上被用者該当届
- 健康保険被扶養者(異動)届/国民年金第3号被保険者関係届(被扶養者がいる場合のみ)
- 退職日と再雇用日が確認できる書類の写し:就業規則、退職願、退職・採用辞令、雇用契約書など(添付が困難な場合は、退職日と再雇用日が記載された事業主の証明書でも可)
よくある質問
歯科医師国保に加入していますが、厚生年金保険の喪失届はどこに提出すればよいですか?
協会けんぽに加入している場合と同様に、日本年金機構事務センターまたは管轄の年金事務所へ提出します。
なお、歯科医師国保の資格喪失手続きは、別途、加入する歯科医師国保組合にて行う必要があります。歯科衛生士が常勤からパート勤務に変わりました。社会保険の資格喪失手続きは必要ですか?
パート勤務への変更に伴い、週の所定労働時間や労働日数が社会保険の被保険者要件(常勤スタッフの4分の3以上など)を満たさなくなる場合は、資格喪失の手続きが必要です。
なお、勤務形態変更後も引き続き被保険者要件を満たしている場合は、手続きの必要はありません。退職したスタッフが資格確認書を返却してくれません。このまま資格喪失手続きを進めることはできますか?
はい、可能です。資格喪失届に「健康保険資格確認書回収不能届」を添付すれば、手続きを進めることができます。
月末にスタッフが退職します。保険料はいつの分まで控除が必要ですか?
月末退職の場合、退職月分まで控除が必要です。
社会保険料は資格喪失日が属する月の前月分まで徴収するルールとなっており、月末退職では翌月1日が資格喪失日となるため、退職月の保険料も発生します。【例:3月31日付で退職する場合(保険料が翌月控除のクリニック)】
- 原則:4月支給の給与から「3月分」の保険料を控除します。
- 4月に給与支給がない場合: 3月支給の給与から「2ヶ月分(2月分・3月分)」をまとめて控除するか、退職するスタッフから振込や現金で保険料を徴収します。
なお、月の途中で退職した場合は、退職月が資格喪失日の属する月となるため、退職した月の保険料は控除不要です。
Q5. 資格喪失届を5日以内に提出できなかった場合はどうなりますか?期限を過ぎても手続きは可能ですが、退職者の転職先での社会保険加入手続きの遅延や、クリニック側への保険料の請求が発生するリスクがあります。できるだけ速やかに提出しましょう。
おわりに:適正な事務手続きでトラブルを防ぎましょう
社会保険の資格喪失手続きは、スタッフの退職や雇用形態の変更のたびに発生する重要な業務です。
提出期限が5日以内と短いため、対象者が確定した段階で速やかに準備を始めることが大切です。
また、退職者から資格確認書などを回収する際は、本人への丁寧な説明と協力が欠かせません。トラブルなく対応できるよう、事前の準備を整えておきましょう。
手続きに不安がある場合や、ご不明な点があれば、いつでも当事務所までお気軽にご相談ください。

