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インテリさんが会社を壊す

2024年2月15日

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中小企業が大企業を真似て精緻な人事評価制度を導入したところで、マンパワーの乏しい中小企業では、経営者が期待するような従業員のモチベーションアップは起こらない。中小企業はむしろ定期昇給と賞与を上手に活用すれば人事評価制度が無くても、従業員のモチベーションを維持できる。少なくとも従業員数が20人を超え、組織内でなんらかの問題が起きるまでは、人事評価制度は不要である。(紹介記事の要旨)

人事評価制度は従業員のモチベーションをあげるためのものではない、ということについては同感。ただしその理由は違う。中小企業における人事評価制度そのものがナンセンスなのではなく、人事評価制度は「採用」→「教育」→「評価」→「処遇」の一連のプロセスと有機的に連携させてはじめて人事マネジメントにおいて効果を発揮するのであり、人事評価制度単体では、従業員のモチベーションを上げることはできない、というのが私の考えである。

生意気を申し上げると、経営は人事マネジメントに尽きると言っても過言ではない。普通の会社であればまず経営理念と行動規範があり、就業規則や服務規律がそれに続く。経営理念とは自社の経営目的であり、行動規範は理念実現のために従業員に求められる価値観である。そして従業員が経営理念と行動規範を実践し、就業規則と服務規律を遵守しているか定期的にチェックし、必要とされるフォローや育成の方向性を決める指標となるのが人事評価制度である。

次に定期昇給・賞与と従業員のモチベーションとの関係だが、お金で買った人の心はまた、お金によって離れてゆくもの。衛生動機づけ理論においても賃金は衛生要因に過ぎず、不満を解消できても満足度には寄与しないとしている。なお定期昇給は年功序列を前提とした報酬制度なので、若手人材が寄り付かなくなる。さらに昨今の人件費高騰により中小企業の多くは前年並みの賞与を維持するだけで精一杯なので、インセンティブ上乗せなどほぼ無理ゲーである。

むしろモチベーションの維持に大切なのは、人事評価面談を通して個々の従業員としっかりと向き合い、それぞれが抱いている承認欲求や自己実現欲求を充足させるように努力することである。そんなもの理想論だ、と一笑に付されるかもしれない。しかし、個々の従業員の自己実現を通じて企業が発展し、また企業の発展を通じて個々の従業員が自己実現してゆく共栄共存の関係を確立することこそ、モチベーションを持続させる源泉となるのだと私は信じている。

ところで従業員20名以下の企業とは、中小企業基本法に定める小規模事業者のことだろうが、全国に285万社も存在する。ゆえに従業員が20名もいれば立派な会社組織であり、組織が生産的に事業活動を行うには、リーダーを育成して社内分業体制を確立する必要があるが、リーダーが配下のスタッフを、また経営者がリーダーを効果的に指導育成するにあたり、各人の仕事ぶりをチェック&フォローする合理的な基準すなわち人事評価制度が必要となる。

世の中には、小規模事業者の部下育成なんて「報・連・相」で十分だという人もいる。しかし「報・連・相」はしょせん情報伝達のテンプレートにすぎず、そこには人材を成長させるといった要素は乏しい。そもそも「報・連・相」によって従業員のモチベーションが上がるなどとは思えない。なぜなら「報・連・相」に中長期的な人材育成の目標やゴールなどあるはずもなく、履歴も蓄積されないため処遇や教育の方向性を導き出すこともできないからだ。

小規模事業者に人事評価制度が必要な理由をもうひとつ。中小企業のオーナー経営者は個性の強い人物が多く、ほぼ独断と偏見でもって従業員の処遇を決めてしまう傾向が強いが、よほど人使いに長けた名将でない限り、従業員の間に、ウチの会社はトップの好き嫌いや依怙贔屓で処遇が決まる…といった不公平感やシラケムードが蔓延しがちである。こういった弊害を防ぐためにも、客観的で合理的な評価と処遇のルールを決め、制度化しておく必要があるのだ。

特にワンマンで直情径行タイプの経営者の場合、もし社内に人事評価制度が無かったら(ルールブックは俺の頭の中に入っている…という厄介なケース)、ほとんどの従業員は何をしたら褒められ、何をしたら叱られるのかわからずに、常にビクビクオドオドと経営者の顔色ばかり伺うようになってしまう。こんなピリピリした雰囲気の職場で従業員の自発性や創造性などが育まれるはずもなく、いわずもがな従業員のモチベーションが上がることなどあり得ない。

最後に総括。この手の記事は「人事評価はやめなさい」「PDCAはもう古い」といった極論が目立つ。刺激的なタイトルで読者の注意を惹きたいのだろうが、その多くが実務では使えない机上の空論である。我々実務家の目的は学歴や専門知識をひけらかすことではなく、流行りの横文字を並び立てて言葉遊びをすることでもない。我々にとって一番大事なことは実務の現場で具体的成果をあげることなので、こういう類の情報は参考程度に受け流すのが正解だろう。

北海道殖産の父として知られるエドウィン・ダンはクラーク博士に比べてマイナーな存在だが、まさに実務家の鏡。
  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニやスーパーの販売職を経て三十路を機に人事業界に転身。20年以上にわたり人事部門で勤務先の人事制度改革に携わった後に起業。社会保険労務士試験合格。日商販売士1級、建設業経理士1級、FP技能士2級など多数取得。

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