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労災の休業補償の会社負担金額は?計算方法や手当について解説!(ミスター弁護士保険/2024.01.19)

2024年2月2日

本当に弁護士の監修を受けているのだろうか?

かなり紛らわしく誤解を招きそうな記事です。最初に申し上げておくと、使用者は従業員が労災により休業した時は、労災保険から平均賃金の6割相当の休業補償給付が行われると、それ以上の補償を行う法的な義務を負いません。

今回ご紹介した記事で述べている内容は、労災が使用者の過失により起こった場合で、なおかつ従業員が労災保険からの休業補償では納得できずに、休業中の賃金全額を支払え!と会社に対して民事訴訟を起こしたケースを前提としています。

恐らく書いているライターさんは労働基準法、労働者災害補償保険法、民法に対する理解が不十分のまま、記事を書き進めてしまったのではないかと推察します。そこで私の方で労災保険の休業補償について論点を整理してみました。

労災による休業補償は平均賃金の6割でよい

労働基準法では「従業員が労災によって休業した場合、使用者は平均賃金の6割を補償しなければならない。」と規定しており、「労災保険から休業補償が行われる場合には、使用者は労働基準法に定める休業補償の義務を免責される。」としています。

労働基準法は、従業員が労災によって休業した場合、使用者に対して休業補償を義務付ける法令であり、使用者の資力不足によって補償を履行できないといった事態を避けるために、労災保険(労働者災害補償保険法)が休業補償を代行する制度となっています。

そのため労働者災害補償保険法において、従業員を1名でも使用する使用者は労災保険に強制加入すること、また労災保険料は使用者が全額を負担すること、などを定めています。

なお労災保険の休業補償給付は休業4日目から給付されるため、労災保険が適用されない休業1~3日目については、労働基準法の災害補償責任にもとづき、使用者が平均賃金の6割を従業員に対して支払わなければならないことに注意が必要です。

労災認定と安全配慮義務違反は関係ない

労災とは従業員が業務の遂行中に、業務に起因する事由によって負傷もしくは病気になった場合に認定されるものであり、使用者に安全配慮義務違反があったか否かは労災認定の要件ではありません。そのため従業員に100%の過失があった場合でも労災認定されます。

また民法536条2項の「使用者の責に帰すべき事由により従業員が休業せざるを得なくなった場合は、従業員は使用者に対して、本来支給されるはずだった給与の全額を請求できる。」という条文は、もともと経営不振による一時的な工場閉鎖などを想定しています。

仮に「使用者の安全配慮義務違反によって従業員が就労不能となり、休業を余儀なくされた。」という主張であっても、使用者の過失責任を立証しなければならないのは従業員であり、使用者が支払に応じない場合は、従業員が民事訴訟を提起しなければなりません。

一方で労災の要件である業務遂行性と業務起因性を満たせば、従業員が使用者の過失を立証しなくても労働基準監督署長が労災認定します。労災認定されれば、使用者には労働基準法にもとづく労災補償義務が生じ、労災保険から必要な労災補償給付が行われます。

労災保険の休業補償給付は平均賃金の6割

労災保険の休業補償給付は平均賃金の6割です。そして社会復帰促進等事業から休業特別支給金の2割が支給されますが、休業補償給付と休業特別支給金は全く異なるものです。

休業補償給付は使用者が負うべき休業補償の義務を労災保険が代行するもの、そして休業特別支給金は被災労働者の社会復帰促進のために給付されるものなので、支給決定に対する不服申立てや社会保険との併給調整の方法が違います。

補足すると、休業補償給付の支給決定を行うのは所轄の労働基準監督署長であり、休業特別支給金は都道府県労働局長が事務を取り扱うこととなっています。

任意規定と強行規定のちがい

民法536条2項は任意規定ですので、就業規則や労働条件通知書に「労災時の補償は労働基準法に準じて行う。」と明記しておけば、使用者は休業時の賃金の全額を支払う必要はありません(安全配慮義務違反による損害賠償責任は別の話です)。

一方で労働基準法は強行規定ですから、個別の労働契約において「労災時の休業補償は行わない。」などという条件を設け、仮に労使間で合意していたとしても無効となります。そして自動的に労働基準法に定める6割補償が適用されます。

通常の実務においては、いきなり民法536条2項を持ち出して、労使間でことを構えるような進め方にはなりません。まず所轄の労働基準監督署長に対して労災認定の申請を行った上で、療養補償と休業補償の給付請求を手続きを行います。

ただしもし悪質な安全配慮義務違反があったと思われる場合には、被災した従業員は労働基準監督署や都道府県労働局に対して労働安全衛生法違反の疑いありと通報し、併行して民事上の損害賠償請求訴訟を準備することになると思われます。

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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