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日本企業で「管理職」が名誉職になっている大問題(東洋経済ONLINE/2024.01.10)

管理職は名誉や恩賞ではない

この記事の要旨は「日本の管理職は名誉職であり、社内で上手く立ち回ることに最適化されてしまっていて、本来の管理職として全く機能していない。」であり、続けて「管理職はジョブなのに名誉として与える企業が多いため、日本の生産性が低いのだ。」と喝破しています。

これは私も全く同感であり、読んでいてとても痛快な気分になりました。それは私が過去に勤めた企業でも、能力よりも年功で役職に就けたり、社外からお飾り的な人材を連れてきて、社内の重要ポジションに据えるといった人事が、まことしやかに行われていたからです。

日本企業特有の不透明で不公正な人事

日本の多くの企業では、いまだにメンバーシップ型雇用と適材適所人事が一般的です。前者は能力よりも、協調性や謙虚さなどといった扱いやすさを重視した採用を行うこと、後者はまず人物ありきで、後づけでその人に肩書や担当業務を割り付ける人事をいいます。

結果的に仕事の能力よりも社内のキーマンにとって「いいやつ」かどうかが評価の決め手で、その「いいやつ」に恩賞を与えるような処遇を行うため、職責や評価が不透明なものとなり、このような不合理な人事がまかり通ることで企業のガバナンスが失われてゆくのです。

そもそも誰のための事業なのか?

本来は、自社の人材をどう処遇しようと経営者の自由です。しかし前述のように人事マネジメントが機能不全に陥ると、結果的に業務マネジメントも杜撰なものとなり、やがて業績の低迷や不祥事によって、ステークホルダーに対して損失を与えることになってしまいます。

しかし年功序列や金融機関からの出向者、官庁からの天下りを名誉職に就ける人事を行っている企業が多いのもまた事実です。こういった人達は在職期間を大過なくやり過ごし、もらえるだけ報酬をもらっておければ良いという思考なので、管理職としての働きは期待できません。

マネジメントとリーダーシップのちがい

一般的な日本企業の職制は大まかに一般職→係長→課長→部長→経営者で、それぞれに求められる管理監督者としての役割は、係長なら実務のスペシャリストとして範を示し、課長はチームのマネジメントを行い、そして部長はチーム内でリーダーシップを発揮することです。

課長と部長の違いをもう少し具体的に説明すると、課長は課業がきちんと進捗しているかどうか、チームの計画と実績との乖離に対してチェック&フォローを行い、部長はチームが向かうべき方向性(ビジョン)を明示し、メンバーを動機づけすることが主な仕事です。

これからはジョブ型雇用と適所適材人事

一方で役職が名誉職となっている企業では、係長(監督職)、課長(管理職)、部長(経営幹部)の職責と役割分担が明確になっておらず、それどころが業務の分掌がまるで古参が仕事を選り好みしたかのような、合理性を欠いた属人的なくくりとなっていることが多いです。

これらの要因は冒頭で述べた日本企業特有のメンバーシップ型雇用と適材適所人事にあり、日本の職場の生産性を向上させるためには、職能によるジョブ型雇用と必要なポジションに適材を配置する適所適材をベースとした人事マネジメント体制への移行が不可欠となります。

悩める実務家のみなさんへ

無能な名誉職に振り回され、薄給にもかかわらず黙々とそういった輩の尻拭いをさせられている2番手は多いでしょう。しかし、今後ジョブ型雇用をベースとした人材の流動化と組織のフラット化が進むことで、従来の雇用慣行から脱却する企業が増えるだろうと予測します。

ゆえに実務家の皆さんは来るべき日に備えて、現在の勤め先のリソースを目一杯活用し、自身の専門性を研鑽すべきです。くれぐれも淀んだ職場に迎合するような安易な道を選ぶのではなく、社外で通用する実務のプロフェッショナルを目指していって欲しいと思います。

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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