キャリアカウンセラー(キャリアコンサルタント?)が人気の資格を一刀両断!といった趣の記事だが、人事のプロからみると違和感満載の内容。そういうオマエこそ何者なんだ?という方は運営者情報から筆者のプロフィールをご確認願いたい。
件の記事で扱っている資格のうち、筆者にとって実務経験もなく資格を取得したこともない弁護士と介護士、秘書以外の資格については、一応、論じるに値するキャリアを有しているのではないかと自負している。
ではさっそく難関資格の社労士から。社労士は労務と社会保険にかかわる事務手続きの専門家である。件の記事では法人営業ができなければ取得する意味ナシと一蹴されていたが、それは開業社労士に限った話であって、勤務社労士の存在がスッポリと抜け落ちている。
社労士の試験内容は法令および一般常識の10科目で、これらのほとんどが手続法である。実務に直結した試験内容となっていることから、企業の人事部門では即戦力となる資格である。また社労士の知識は人事コンサルティングを行う上で不可欠である。
簿記の知識が無ければ入門すらできない財務会計分野と異なり、人事コンサルティングは人材紹介やコーチングなど様々な分野から雑多な人が流入してくるため、コンサルタントの質が玉石混交で、法令無知のエセコンサルがトラブルを起こすことも少なくない。
ただし社労士合格だけではコンサルティングスキルは習得できないため、社労士=人事コンサルタントではない点に注意すべき。
続いて医療事務。「電子カルテの導入によって医療事務の時給据え置き」などと書かれている…。恐らく電子カルテの導入によって医療事務スタッフが余り気味だ、と言いたいのだろう。しかし合理化されたのはカルテ運搬の一般事務員である。
そもそも電子カルテはオーダリングシステムやレセプトコンピュータと連携して、診察、検査、処置、調剤、請求などの各セクションで診療情報をリアルタイムで共有するものであり、医療事務の仕事にとって代わるものではない。
むしろ医師の過重労働解消のために、電子カルテの入力を医師に代わって行う医師事務作業補助者が注目されている。そして電子カルテの情報をもとに医事課でレセプト請求をするため、医師事務作業補助者には医療事務の知識が必須となる。
医師事務作業補助者を配置すると医業収入に医師事務作業補助体制加算がプラスされることもあり、電子カルテの導入によって医療事務資格者のニーズが減ってゆくなどと断言するのはあまりに早計すぎ。
ついでにファイナンシャル・プランナー(FP技能士)にも触れておきたい。FP資格は金融系の仕事以外にも、一般企業の経理部門や人事部門で十分活用できる資格である。
例えば経理部の仕事には会計のほかに財務や税務もあるが、簿記検定では会計しか学ぶことができず、銀行折衝や税務申告においてFP資格の知識が役に立つ。人事部においても年末調整事務、勤労者財形貯蓄制度の運用、確定拠出年金の投資教育など幅広く活用できる。
なおFP資格には日本FP協会が行うAFPやCFP資格と、国家資格のFP技能士検定があるが、金融業界や保険業界で働くのでなければ、国家資格のFP技能士で十分だ。
AFPやCFPは登録料や更新料がかかるが、FP技能士は合格すれば以後の費用はかからないのでコスパが良い。ただし経理部や人事部など管理畑の人が、転職の際にFP技能士資格を履歴書に書いてアピールしようとするなら、最低でも2級は欲しい(3級は社会常識レベル)。
最後に件の記事イチオシのMOSと日商PC検定について。自己研鑽のためにこれらの資格に挑戦する分には構わないが、いまどきオフィスソフトの操作など、役員クラスであってもできて当たり前のスキルである。
最近は生成AIの進歩によってパソコン入力や文字起こしといった単純作業は無くなりつつあり、BI(Business Intelligence)の使い勝手も良くなってきたので、難解な関数を連結して資料を作る必要もなくなった。ゆえにもはやMOSや日商PC検定など専門スキルとは言えない。
よく考えてみて欲しいが、今の時代にMOSや日商PC検定の有資格者を必要とするような職場は、ロートル社員の掃き溜めであることが多い。資格を武器に入社したところで、こういった人達のパソコン介助に忙殺されて、クリエイティブな経験など望むべくもない。
さらに経営者もITに疎いためDXやIT投資に後ろ向きである。若手事務員がボロいデスクトップで悪戦苦闘している傍らで、年配の役員があくびをしながら大画面のマックでソリティアに興じている光景はよくある。
最後に総括。キャリアカウンセラー(キャリアコンサルタント?)にしては、職業研究が甘いな…というのが率直な感想。
産業カウンセラーがコーチングを駆使するスタイルであるのに対し、キャリアコンサルタントは自己の経験にもとづいてキャリア指導を行う。しかし、知見の乏しいコンサルもどきがトンチンカンな指導を行うことで話題にされがちな資格でもある。
筆者がもっとも懸念しているのが、キャリアプランニングの専門家を名乗る人達が生煮えの情報を流布することによって、企業の採用担当者が判断を誤り、求職者が就職のチャンスを失ったり、不本意な労働条件で就職せざるを得なくなってキャリアプランが狂ってしまうこと。
現在は、雇用保険の教育訓練給付金のうち、特定一般教育訓練と専門実践教育訓練の受講に際して、事前にキャリアコンサルティングを受けることが義務付けられているが、制度の上にあぐらをかいているようではダメ。プロを名乗るなら職業研究をしっかりやっておくべき。
医療事務=病院の事務員などと安直に捉えている時点でキャリアアドバイザーとして厳しいと言わざるをえない。一般的に医療事務という呼び方をされているが、医事スタッフの主業は医療職の臨床行為を収益化すること、すなわちレセプト請求に尽きる。
昨今は医療財政の逼迫とともに、従来は青天井だった出来高請求から症例ごとに請求額の上限が決まっているDPCに移行しており、病院であっても地域に適切な医療サービスを提供し続けるには適正利益を確保しなければならず、内部原価管理の必要性が認識されている。
そこで近年では生え抜きの事務員の持ち上がりではなく、外部から経営マネジメントのプロを招聘して事務長や課長職に据えるケースが増えているが、多くの新参者達は費用は認識できても収益を積算できないため、収支率の良し悪しを把握できずに苦戦している。
そこで重要になってくるのがレセプト請求の知識だ。医業収益をコントロールできるようになるためには、まず医療法を理解した上で、診療報酬制度や施設基準に精通しておく必要がある。診療報酬の知識は医事課のみならず、管理部門で働く全てのスタッフ必須の知識なのだ。
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