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【AI台頭で激変する資格】弁護士、社労士、FPは厳しい時代へ 有利なのはパソコンスキルの『MOS』や『日商PC検定』(マネーポストWEB/2024.01.25)

2024年2月20日

コタツ記事を鵜呑みにするな

厳しいことを言わせてもらうと、キャリアコンサルタントにしては職業研究が甘い。にも関わらず「△△資格は厳しい、〇〇資格は有望」などと言い切ってしまうあたり、ずいぶんと乱暴な記事だな…というのが率直な感想です。読者がキャリアを誤らなければ良いのですが…。

記事中の「人気やイメージに振り回されることなく、実務経験や人生経験と連動した資格を取るべき」というくだりは同感なのですが、それ以外は実際に社会保険労務士、FP技能士、メディカルクラーク(医療事務技能審査)を受験した経験からいえば、違和感満載の内容でした。

付け加えると、私は人事部長、経理課長、総務課長、医事課長などを歴任しており、前述の資格と実務経験が連動しています。ゆえに机上の空論などではなく、実務家としての実体験をもとに、これらの資格の有用性や将来性について、私なりの考えを述べさせて頂きます。

稼げる資格は医師免許くらい

稼げる資格で収入アップしたいのは誰でも一緒だと思いますが、資格の取得が収入アップにダイレクトに反映されるのは、医師免許くらいです。なぜなら医師の資格者は医療法や診療報酬制度によって、病床機能や診療科ごとに人員配置基準が設けられているからです。

医師以外には薬剤師や看護師などにも人員配置基準がありますが、コメディカルやパラメディカルが稼げるようになるまでは、ある程度の経験年数が必要です。しかし医師については、需給バランスの関係もあって、一般的には臨床研修を終えると相応の収入が約束されています。

一方で医師という職業は、救急医療やへき地医療における過重労働や、医療事故などのリスクと隣合わせのストレスフルな仕事でもあります。オフの日でも常に最新の医学知識の習得が必須なので、高収入でもお金を使う暇が無い、という愚痴を聞かされたこともあります。

社会保険労務士はオワコン資格なのか?

社会保険労務士法に定める社会保険労務士の業務には3つあります。1番目は労働・社会保険に関する書類の作成と届出の代行(1号業務)、2番目は1号業務以外の帳票の作成(2号業務)、そして3番目は人事や労務に関する相談業務(3号業務)となっています。

このうち生成AIとICTの進化によって、1号業務と2号業務が無くなってゆくのは紹介した記事に書いてあるとおりですが、労働人口の減少と就労の価値観の多様化によって人事マネジメントが複雑化していますので、3号業務のニーズが増してゆくことは間違いありません。

また記事の中では勤務社労士の存在が欠落しています。人事マネジメントはゴーイングコンサーンとセットで永続的に運用してゆくものですから、これからは勤務社労士を雇用して、自前で人事施策のPDCAを行ってゆく企業が増えてゆくのではないかと予想しています。

医療事務と電子カルテは全く関係ない

「電子カルテの導入によって医療事務の時給据え置き」と書かれていましたが、電子カルテはオーダリングシステムやレセプトコンピュータと連動させて、診療部と看護部、医療技術部、医事課との連携を効率化するものなので、合理化されたのはカルテ運搬の一般事務員です。

一方で、医師の過重労働軽減のために、メディカルアシスタントを配置し、医師に代わって電子カルテの入力を行わせた場合に、医師事務補助体制加算を算定できます。そしてこの仕事には診療報酬制度の知識が必須なので、むしろ医療事務の活躍のフィールドは拡大しています。

医療事務のキャリアは、受付・窓口会計→外来レセプト→入院レセプト→診療情報管理士が王道です。病院経営は医療スタッフの臨床行為を医療事務がレセプト請求を行って収益化することで成り立っていますが、DPC病院では診療情報管理士が医業収益の良し悪しを左右します。

FP資格は将来性抜群の普遍的資格

FP技能士は独立開業や金融業界への転職のみならず、一般的な企業でも経理部門や総務部門において、有用な資格のひとつとなっています。例えば税務の知識は簿記検定では学習できません。さらに従業員の年末調整業務や、役員生命保険などを検討する際にも活用できます。

コンビニエンスストア本部のスーパーバイザーにもぜひ勉強して頂きたい資格です。それはFC加盟店を巡回する際に、FCオーナーから店舗運営以外にも、事業承継などの相談を受けることが少なくないからです。FPの知識があればFCオーナーと顧問税理士との橋渡しができます。

記事にあるとおり、FPとして独立開業を目指すのであれば、金融商品を取り扱った実務経験とFP資格がセットであることがマスト条件ですが、FP資格の試験内容から、企業型DCやiDeCoなど、従業員の金融リテラシー教育にも活用できる普遍的資格であることは一目瞭然です。

MOSと日商パソコン検定は稼げない

最後になりますが、紹介した記事ではMOSと日商パソコン検定を強く推奨しています。自己のパソコンスキルを研鑽するためにこれらの資格に挑戦するのであれば構いません。しかし、これらの資格を履歴書に書いたところで、就職に有利になる時代はとっくに終わりました。

その理由は3つあります。まず、今やオフィスソフトは、役員だろうが新人だろうが「使えて当たり前」の必須スキルです。ゆえにPCスキルのある人材を募集している企業というのは、パソコンが使えないロートル社員のお世話係を必要とする古い体質の職場ということです。

2番目はまさに生成AIの進歩です。生成AIによってパソコン入力や文字起こしなどの単純な定型作業は早晩、オフィスから消滅します。そして3番目はGoogleデータポータルに代表されるBIの普及です。BIがあれば難解な関数を駆使して複雑な資料を作る必要が無くなります。

今回のまとめ

他人の記事にケチをつけるのは私の本意とするところではありませんが、「今後は厳しい」などと、一刀両断に付されてしまった3資格の名誉回復のために、実際これらの資格試験を受験し、これらの資格に関連する実務を経験した立場から物言いをつけさせてもらいました。

人事コンサルティング業界は、リクルーティングやコーチング、キャリアコンサルティングの領域からも様々な人達が流入しやすいため、コンサルタントの質が玉石混交となりがちなのが悩みです。人事コンサルティングは虚業などと言われないためにも、質の改善が急務ですね。

ちなみに私ですが、メディカルクラーク(医療事務技能審査)、FP技能士2級(中小事業主資産相談業務、個人事業資産相談業務)は取得済です。社労士は昨年に初挑戦し、総合81点(合格ライン71点)を得点したものの、労基法の選択式で基準点に1点足らず敗退しています。

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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