公的医療保険制度の概要
公的医療保険制度の種類
日本の公的医療保険制度は職業や年齢に応じて5種類あり、全ての国民は健康保険(サラリーマン)、公務員共済(国家公務員・地方公務員)、国民健康保険(自営業者)、後期高齢者医療(75歳以上の全国民)、船員保険のいずれかに加入する。
このうちサラリーマンの加入する健康保険の保険者(保険制度の運営機関)には、大企業や業界団体が自前で設立および運営を行う健康保険組合と、主に中小企業者が加入する全国健康保険協会(通称、協会けんぽ)の2種類がある。
本記事では公務員共済と船員保険を除く、健康保険、国民健康保険、後期高齢者医療の3つの制度と労災保険との比較を通して、公的医療保険制度の概要について解説してゆく。
厳密には公務員も健康保険に加入するが、保険給付は公務員共済から行われるため、保険料も徴収しないという建前となっている。
日本の医療保険制度の特徴
日本の医療保険制度には諸外国には見られない3つの優れた特徴がある。
- 国民皆保険制度(国民全員が強制加入する)
- フリーアクセス(住所に関係なく全国どこの医療機関でも受診できる)
- 診療費は全国一律(診療報酬制度にもとづき受診料は全国一律の価格)
診療費の例外に保険外診療がある。日本の公的医療サービスには保険診療と保険外診療があり、前者は健康保険証を提示することで、原則として医療費の3割が自己負担となるが、後者には医療保険が適用されないので費用の全額が自己負担(いわゆる自費診療)となる。
保険外診療は美容整形や歯科矯正など審美目的のものが主であり、混合診療(保険外と保険診療を同時に行うこと)は認められていない。もし混合診療を行った場合は保険診療部分も含めて自費となるが、高度先進医療の場合は保険外療養費が支給されることもある。
健康保険制度の概要
主な給付の種類
代表的な3つの公的医療保険(健康保険、国民健康保険、後期高齢者医療)と労災保険を比較すると次のとおりとなる。給付対象や給付事由、給付率が異なるだけで、給付の内容は概ね同じであり、給付事由や年令によって受けられる医療サービスに差が生じることはない。
療養に関する給付以外には、例えば傷病や出産によって休業を余儀なくされた時の経済的保障や、出産および死亡にかかる費用に対する給付などがある。これについてはそれぞれの社会保険制度の目的と対象によって、給付の内容に差が設けられている。
法定任意給付〜原則として給付アリだが保険者の任意で給付ナシにできる。
任意給付〜原則として給付ナシだが、条例により特別に給付アリにできる。
補足すると傷病手当金は私傷病により就業できない時に、休業前の報酬の2/3を最大で1年6ヶ月間給付し、出産手当金は産前産後休業に対して傷病手当金と同じ額を給付する。また通常の分娩は自費診療なので、出産一時金により出生した子1人あたり48万8千円の給付を行う。
医療保険の埋葬料と葬祭費は被保険者や被扶養者が死亡した時に、埋葬を行うべき者(遺族など)に給付するもので、埋葬費と葬祭の給付は遺族がいない場合に、埋葬を行った者(会社や町内会等)に対して給付される。
労災保険の葬祭料は業務災害、葬祭給付は通勤災害による死亡に対して給付されるものである(労災保険には、葬祭を行うべき者、葬祭を行った者などの区別はない)。
医療費の負担
医療機関を受診した時に窓口で支払う自己負担額(一部負担金)は原則として年齢に応じて医療費の3割(70歳未満)、2割(70歳以上)、1割(75歳以上の後期高齢者)である。被扶養者については未就学児が2割負担であることを除き被保険者と同じである。
医療費は厚生労働省が定める診療報酬点数表をもとにして医療機関の医事課スタッフが計算し、会計時に受診者から前述の割合に応じた一部負担金を徴収する。そして残りの7~9割の医療費を翌月10日までに健康保険の保険者に対して請求する流れとなっている。
診療報酬の請求事務をレセプト請求と呼ぶが、実務上は健康保険の代行組織である社会保険診療報酬支払基金(社保基金)と国民健康保険団体連合会(国保連)に対してレセプト請求を行い、これらの組織が請求内容を精査した上で医療機関に対して支払いを行う。
保険料の徴収
保険給付の財源は被保険者から徴収した保険料と国庫負担(税金)である。後期高齢者医療の場合は現役世代に比べて保険料収入が少ないため、財源の4割を健康保険から後期高齢者交付金として充当し、さらに都道府県や市町村も税収の一部を拠出している。
月々の保険料は都道府県ごとの標準報酬月額をもとに算定された標準報酬月額および標準賞与額に保険料率を乗じて計算する。保険料は事業主と従業員が折半して負担し、年金事務所を経由して健康保険に納付する流れとなっている。
標準報酬月額は毎年7月1日に再計算され、9月から新しい標準報酬月額に改定される(定時決定)。もし年度の途中で給与の支給額に大幅な変動があった場合は、変動後3ヶ月間の平均給与をもとに4ヶ月目から標準報酬月額を改定することができる(随時改定)。
公的医療保険制度まとめ
学生や児童は親の勤務先の健康保険の被扶養者として少ない費用負担で公的医療サービスを受けることができる。就職すると勤務先の健康保険に加入し、労災に遭った時は労災保険から、また私傷病の時は健康保険からそれぞれ必要な保険給付を受けられる。
もし退職して次の就職先が決まらなかった時は国民健康保険に加入する。そして健康保険も国民健康保険も75歳になると自動的に後期高齢者医療に移行する。一見すると複雑でわかりづらい公的医療保険だが、大まかにはこのような制度になっている。
なお、国民健康保険と後期高齢者医療には被扶養者という概念がないため、親が自営業者の場合はその子供についてもそれぞれが国民健康保険の被保険者となる。ただし保険料は世帯主が連帯して納付する義務を負っているため、子の保険料を親が負担するケースが一般的である。