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社労士、企業からの「顧問料ビジネス」は崩壊寸前!大淘汰時代に生き残る条件(DIAMOND online/2022.10.12)

公認会計士の今後を占う

公認会計士は、クライアントに対して会計監査を行うのが仕事です。しかし、会計監査を要するのは、大企業や社会医療法人など、日本全体の事業者数でみると、数パーセントのごくわずかなマーケットとなります。

会計監査は、投資家保護のために、企業会計準則やIFRS、J-SOXに準拠した会計処理が行われているか、また会計処理の結果を適切にIRしているかといった項目についてチェックを行います。これらの項目は定型化されているため、いずれ生成AIに代替されると予想されます。

税理士の今後を占う

税理士は、中小企業の税務申告をサポートするエキスパートで、公認会計士が税務の領域に特化したものと考えてもよいでしょう。

どちらかといえば、会計よりも税務の方が複雑怪奇なので、特定分野の専門性という点では、税理士の方が公認会計士より専門性が深い資格ではないかと勝手に認識しています。

なお、税務については、建前上は法令に基づく定型的事務が基本ですが、税務判断については事例ごとのイレギュラーが多く、それぞれの地域の税務署の裁量権が大きいようです。

そのため、節税ロジックを組み立てるセンスや、所轄の税務署との交渉技術がものを言う、職人の業界ではないかと思われます。

社会保険労務士の今後を占う

最後は社労士です。社労士は、労働法令や社会保険に関する行政手続きの専門家です。

社労士試験を勉強してみてよくわかったことがありますが、それは受験科目の法令はすべて手続法から構成されていることです。

そのため出題範囲が広く浅い一方で、誰が、いつ、どこで、何を、いくらで、いつまでといった細部まで、完璧に暗記する必要があります。

ところで行政手続きはAIと相性が良く、ICTの進展により電子申請もしやすくなってきているため、いずれこの領域は生成AIに代替されるだろうというのが大方の予想です。

ゆえに算定基礎届や労働保険の年度更新など、定型的な届出書類の作成や提出代行業務では、顧問契約を獲得するのが難しくなります。

社労士に足りないのはコンサルティングスキル

私は人事マネジメントの専門家なので、社労士資格についてもう少し深掘りしてみたいと思います。

社労士の先生達がこれからも顧問契約を獲得しようとするなら、経営マネジメントとコンサルティングスキルに精通しておくことをお勧めします。

経営マネジメントとは、有限の経営リソースを効果的に経営成果に結びつけるために、ヒト、モノ、カネ、情報の配分と運用を適切に行うことです。

経営マネジメントに必要な知識は、財務会計、経営法務、マーケティングなどに関する検定資格を取得したり、セミナーなどに足を運べば、ある程度補強することができるでしょう。

コンサルティングスキルとは、関与先の課題を抽出し、解決方法を策定し、実行プランを策定するための、インタビューやデータ分析、また論点整理のためのロジカルシンキングなどの技術を指します。

コンサルティングスキルは、ファシリテーションのトレーニングを受けたり、フレームワーク分析を実務にとりいれて試行錯誤してみることで、実践的に研鑽してゆくことになります。

なおデータ分析は、自社の人事制度の良し悪しを把握したり、人事施策の有効性を計測するために必須のツールなので、社労士の先生達が差別化を図るのなら、BI(ビジネスインテリジェンス)を使いこなせるようにしておくと良いと思います。

人事マネジメントのマーケットは不変

最後に付け加えると、経営の4大リソースであるヒト、モノ、カネ、情報のうち、モノ、カネ、情報を扱うのはヒトなので、やはり経営マネジメントにおいて、人事管理は最重要かつ最優先で取り組むべき領域であることに変わりありません。

したがって社労士の先生達は、「大崩壊」などという言葉に怯えることなく、むしろ差別化のチャンスと前向きにとらえ、ご自身の資格に付加価値をつけることで、今後も有望なマーケットを確保できると考えています。

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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