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実は日本では物価・賃金の好循環は起きていない~春闘ではなく中小企業を見なければ賃金の実態は解らない(現代ビジネス/2024.02.18)

2024年2月21日

紹介した記事の要旨

ざっくりまとめると、記事の要旨は以下2点となります。

春闘により賃金上昇圧力が作用して、物価と賃金の好循環が始まっているなどという声もあるが、春闘は企業内労組をもつ一部の大企業に限定された話であり、日本企業の大多数を占める中小企業を含めると、むしろ実質賃金は低下している。

つまり日本経済の真の姿は、未だ賃金と物価の好循環とは程遠い状況であり、政府が賃上げ税制を叫んだところで、賃金は上昇しない。賃金を継続的に上昇させるためには労働生産性の向上こそ必要なのである。

労働生産性が上がると賃金が上昇する理由

小売業における労働生産性すなわち人時生産性とは、粗利益高を同期間に投入した総人時で割って求めます。そして人時生産性が高いということは、同じ粗利益高を稼ぐのに必要な人時が少なくて済む、つまり経営効率が良いということを意味します。

経営効率を測定する指標に労働分配率があります。これは粗利益高に占める人件費の割合をいい、概ね業種や業態ごとに相場が決まっていますが、粗利益高と労働分配率を一定として、人時生産性が改善されると、投入人時あたりの単価(賃金)が上がるという仕組みです。

小売業で人時生産性を上げるには?

小売業の場合は、粗利益はほぼ仕入原価で決まってしまうため、店舗において人時生産性向上のためにコントロールできるのは投入人時に限られます。ゆえにLSP(レイバースケジュールプログラミング)を導入して、店内オペレーションの合理化に取り組む必要があるのです。

2021年6月発表の中小企業庁の統計によると、全国の小売業(従業員5人以上)の平均的な人事生産性は2,444円/月でした。この数字の分母は「正社員164.5h/月×役員を含む従業員数」+「パートタイマー90.5h/月×従業員数」ですので、ぜひ自店と比較してみてください。

物価・賃金の悪循環下で小売業が採るべき販売戦略

実質賃金が上昇していない状況で値上げ(マークアップ)すると客離れを招くリスクがあり、かといって特売セールを連発すると収益が一気に悪化します。こんな状況下で小売店が採るべき販売戦略は、インストアマーチャンダイジングとインストアプロモーションの2つです。

前者は自店の商圏客層のライフスタイルに合わせて、自店独自の品揃えを行うことであり、後者は特売セールに依存せずに、季節の商品、新商品、話題の商品など、テーマ性をもたせた特設コーナーを設置し、POP広告などで来店客に訴求して、固定客化を図ってゆくことです。

売上高は客数×一点単価×買上点数に因数分解でき、客数は特売セール、一点単価はマークアップにそれぞれ依存するので、売上維持のために残された手段は買上点数のアップしかありません。そうなると自ずからインストアMDとインプロに注力するのが最も合理的となります。

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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