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労働供給制約時代は地域密着型産業に大きなチャンス(NIKKEIリスキリング/2024.02.19)

2024年2月26日

この記事のポイント

この記事は、人事戦略を転換しなければならない時代背景と、これから企業が取り組むべき課題について、簡潔明瞭に説明してくれています。特に私が「なるほど…」と感じたのは次の2点です。

労働供給制約の時代には、労働生産性を高めて粗利益を確保し、人材投資に充当することで、持続的に優秀な人材を確保することができるが、それには従来の長時間・低賃金労働に代表されるデフレ型ブラック経営から脱却しなければならない。

リスキリング投資に取り組む企業は、業界の垣根を超えてジョブシフトを促進することが可能となり、これは国の施策や企業の戦略、また個人のキャリア形成とも合致するため、人事戦略モデルを転換できれば、持続的に優秀な人材を確保できる。

これらのエッセンスに、かつて大手スーパーで販売課長として勤務したことのある私の経験を加味して、小売業におけるこれからの人事戦略を、4つのポイントに絞って補足してみたいと思います。

人時生産性を向上すると賃上げできる

小売業では労働生産性を人時生産性に、また付加価値を粗利益高に置き換えて経営効率をモニタリングしていますが、粗利益高は仕入原価が上限となるので、人事生産性向上のために、店舗側でコントロールできるのは、投入人時の削減すなわち作業の合理化となります。

そして作業を合理化して人時生産性を上げると、賃金を上げることができるようになります。

経営効率を測る指標のひとつに労働分配率があり、これは粗利益高に占める人件費の割合ですが、粗利益高と労働分配率が一定のまま投入人時を削減すると、結果的に1人時あたりの賃金単価が上昇する…つまり賃上げできるという理屈です。

マックジョブを魅力的な職業にリフレーミングする

本来、小売店の販売職は、ナレッジワーカーとエッセンシャルワーカーの要素をバランスよく兼ね備えることで、大変やりがいのある魅力的な職業になる、というのが私の持論です。

具体例をあげると、商圏分析を行って商品構成と販売計画を立案し(知的労働)、プランを売場で具現化して販売促進を行い(肉体労働)、POSデータをもとに販売結果を検証して次回の販売計画の立案に活かす(知的労働)といった具合です。

しかし現実には、経営効率化のために3S主義(標準化、簡素化、システム化)にもとづく画一的な店舗オペレーションが徹底され、また仕入商品の選定や値決めなども本部主導により集中的にコントロールされているため、販売職の仕事はマックジョブと化しています。

一方で消費者ニーズの多様化によって、今後は本部から店舗への権限委譲が進み、各店舗の裁量でより地域に密着した店舗経営を行ってゆく時代になると予想しており、販売職をマックジョブから、本来の魅力的な職業にリフレーミングできるチャンス到来だと考えています。

人材教育システムの確立こそ人材確保のマスト要件

労働供給制約の時代に、完成品の人材を求めて応募者を選り好みしているような企業は、そう遠くないうちに人材の確保に行き詰ると思われます。

これからの採用は、できるだけ良質な仕掛中の人材を発掘し、自社で完成品に仕上げてゆくというスタンスが必要でしょう。そしてこれは人件費をコストではなく投資として捉えるような発想の転換が必要だということでもあります。

特にZ世代は、就職先を選ぶ際に、その会社に就職すると、自分がどのようなキャリアを形成できるのか?という点を重視しているようですので、社員のキャリアパスと、キャリア実現のための人材育成プログラムを明示できない企業は、Z世代から敬遠される可能性があります。

ホワイトカラーが大量に余る時代こそ採用チャンス

生成AIの普及やDX推進による業務フローの大幅な見直しによって、事務職を中心としたホワイトカラーが大量にリストラされる時代が到来しつつあります。

紹介した記事の中では、職にあぶれたホワイトカラーがエッセンシャルワーカーに流れると示唆していますが、労働集約型産業の代表格である医療や建設、宿泊、飲食などの業界は、一人前のスキルを獲得するまでのハードルが高いです。

一方で小売業は商品補充や在庫整理などといった単純作業から入門しやすく、週間発注予測やカテゴリー分析など、ホワイトカラー時代に培った経験を転用しやすいことから、他の産業に比べてジョブシフトの敷居が低いといえるでしょう。

よって現行のマックジョブを魅力的な職業にリフレーミングし、併行してジョブシフトをスムーズに行えるようなリスキリングの自社プログラムを確立できれば、中小事業者であっても有能な人材を安定的に確保することができるようになると思われます。

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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