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01_雇用管理

労働契約

2024年9月5日

労働契約のアイキャッチ画像

労働契約の特徴

労働契約とは、事業主と労働者がそれぞれ有する権利の行使および義務の履行の方法を明記したものである。労働契約が成立すると、使用者には労働者から労働サービスを提供してもらう権利とその対価として賃金を支払う義務が、また労働者には賃金を受け取る権利とその対価として労働サービスを提供する義務がそれぞれ生じる。

契約について、民法は契約自由(契約内容は当事者同士が合意すれば自由に決めてよい)を原則としている。しかし労働契約の場合は、事業主の立場が強い場合が一般的なので、労働者にとって不利な内容の契約を一方的に押し付けられてしまう可能性がある。そこで民法の特別法である労働基準法などにおいて、労働者を保護するための規定を設けている。

労働契約に関する法令

労働契約法

労働契約法は、労働契約を締結する際のルールについて規定している。特に労働契約の5原則は、労働契約を締結する際の基本的な考え方を明示したものであり、労働契約法では、事業主と労働者の双方にこれらの遵守を義務づけている。

  • 労使対等の原則
    労働条件は事業主と労働者が対等の立場で交渉し合意にもとづき決定すること
  • 均等考慮の原則
    労働条件は事業者と労働者の双方のバランスを考慮して決定すること
  • 仕事と生活の調和の原則
    労働条件はワークライフバランスに配慮した内容であること
  • 信義誠実の原則
    事業主と労働者は労働契約を信義に従い誠実に履行すること
  • 権利濫用禁止の原則
    事業主と労働者は労働契約に定めた権利を濫用してはならないこと

労働基準法

前述の労働契約法は、訓示的な規定集なので違反に対する罰則などは設けられていないが、労働基準法は、労働契約の内容について具体的な禁止事項を定めており、違反した場合には懲役刑や罰金刑などが科されることがある。

賠償予定の禁止
例えば「遅刻1回につき罰金◯◯円を徴収する」「お店の備品を壊したら一律に◯◯万円を弁償させる」など、労働契約にあらかじめ損害賠償額を定めることは禁止されている。なお会社が実際に被った損害について、その実額を弁償させるという契約は認められる。

実際の損害を賠償をさせる場合であっても、民法の報償責任の原則(事業主は労働者を働かせることで利益を得ているのだから、労働者の業務上のミスによる損失も事業主が負担すべき)により、労働者の故意または重過失による場合に限られる。

前借金相殺の禁止
事業主が労働者に多額のお金を貸し付けし、労働によって借金を帳消しにさせるような契約は禁止されている。ただし労働契約に関係の無い、金銭消費貸借契約にもとづく社内貸付制度を行うことは可能である。

強制貯蓄の禁止
労働契約と引き換えに、事業主が労働者に対して社内預金を強制することは禁止されている。ただし労働者が任意で利用できる制度で、貯蓄金管理に関する労使協定を締結して労働基準監督署に届出し、賃金支払確保法の預金保全措置を講じている場合は可能である。

性別による賃金差別の禁止
「一般的に女性は勤続年数が短い」などという理由で、同じ職種や役職の男性に比べて基本給や手当を低くしたり、女性が寿退職をする場合に退職金を加算したりする(=退職を促す)ことは禁止されている。

有期労働契約の上限
有期労働契約は、原則として3年以内とする。例外は、労働基準法施行規則に定める高度専門職(年収1,075万円以上の弁護士、建築士など特定20職種に限る)と満60歳以上の労働者で、これらの労働者については5年間を上限とする有期雇用契約を締結できる。

無期雇用契約は、労働者は退職しようとする日の14日前までに事業主に通知すれば退職できるが、有期雇用契約は、期間満了前に労働契約を解除(退職)すると、相手に対する損害賠償責任を負うことがあるため、労働基準法は長期の有期雇用を禁止している。

未成年者の就業制限
原則として映画や演劇の子役を除き、中学生以下の児童の就労は禁止されている。また18歳未満の未成年者の時間外労働、休日出勤、深夜勤務(16歳以上の男子は可能)も禁止されており、小売業の休憩時間一斉付与の例外を適用するには労使協定が必要である。

男女雇用機会均等法

労働基準法は賃金についてのみ男女差別を禁止しているが、男女雇用機会均等法において、雇用形態、職種、職位、昇進、降格、教育訓練、福利厚生、退職などのあらゆる労働条件について男女差別を禁止することで、労働基準法を補完している。

障害者雇用促進法

障害者雇用促進法は、労働者が障害者であることを理由に、賃金、教育訓練、福利厚生その他あらゆる労働条件について、不合理な差別を設けることを禁止している。また障害者が就業しやすいように使用者が施設の整備などの合理的配慮を行う義務も定めている。

高年齢者雇用安定法

高年齢者雇用安定法は、60歳未満の定年制度を設けることを禁止している。また定年を65歳未満とする場合に、事業主が①65歳までの定年の引き上げ、②65歳までの雇用継続、③定年制の廃止のいずれかの雇用確保措置を講じることを義務付けている。

パートタイム・有期雇用労働法

パートタイム・有期雇用労働法は、パートタイマーや契約社員を雇用する際に、正社員と不合理な相違を設けたり、正社員と同一作業に従事するパートタイム・有期雇用労働者に対して、雇用身分を理由に差別的取り扱いをすることを禁止している。

労働組合法

企業別労働組合のある事業場において、労働組合に加入しないことを雇用条件とする労働契約(黄犬契約)は不当労働行為に該当するとして、労働組合法で禁止されている。

最低賃金法

最低賃金法に定める最低賃金を下回る給与条件は無効となる。最低賃金には地域別最低賃金と特定の産業に対する最低賃金があり、どちらも時給単位で設定され、毎年10月に更新される。

労働条件通知書

労働契約と労働条件通知書

民法では契約は口頭のみで成立するとしている。ゆえに労働基準法でも労働契約書の作成について特段の定めは無いが、労働条件をめぐる事後のトラブル防止のために、使用者が労働者を雇用する際に、労働条件通知書を交付することを義務付けている。

また労働契約法においても、使用者は労働契約の内容全般について、できる限り書面でもってわかりやすく労働者に明示するように努力する義務を定めている。

労働条件通知書に記載する事項

労働条件通知書には、必ず書面で明示しなければならない絶対的明示事項(昇給を除く)と、その事業所において特定の労働条件を設ける場合には、書面もしくは口頭で明示しなければならない相対的明示事項がある。

<絶対的明示事項>

  • 労働契約の期間(無期雇用の場合はその旨を明示。有期雇用については通算する契約期間に上限を設ける場合にその旨も明示)
  • 有期労働契約の場合は契約更新の条件(更新回数に上限がある場合はその旨を明示、無期雇用転換申込権が発生する場合は申込方法と転換後の労働条件も明示)
  • 就労する場所と就労する業務の内容(人事異動などによって配属や担当を変更する予定があればその範囲も明示)
  • 始業と終業の時刻および休憩時間、残業および休日出勤の有無
  • 休日と休暇の種類および付与される日数と時期
  • 給与額の決め方、給与計算の方法と支給日
  • 昇給の有無(昇給があるならその時期)
  • 退職時に関する事項、解雇となる事由

<相対的明示事項>

  • 退職金の支給対象者と支給時期や計算方法および支給方法
  • 賞与等の支給対象者と支給時期や計算方法および支給方法
  • 労働者が費用を負担する食事や作業用品などに関する事項
  • 安全および衛生に関する事項
  • 職業訓練の実施に関する事項
  • 業務災害時の補償および私傷病に対する扶助に関する事項
  • 表彰および懲戒に関する事項
  • 休職に関する事項

なおパートタイム・有期雇用労働法では、パートタイマーや契約社員を雇用する際には、前述の労働条件通知書に特定事項を追記した上で、雇い入れようとするパートタイマーや契約社員に交付しなければならない旨を定めている。

<特定事項>

  • 昇給の有無
  • 退職手当の有無
  • 賞与の有無
  • 雇用改善のための社内相談窓口

労働契約に関する特記事項

労働契約の開始日

社会保険制度が月の初日から末日までを保険料や年金給付の計算単位としていること、また年次有給休暇の更新や年5日分の年次有給休暇の付与義務などを管理する手間を考えると、月の初日を労働契約の開始日とした方がモレやミスを防ぐことができる。

就業規則による労働条件の明示

労働者が使用者から交付された給与辞令と、職場に備え付けてある就業規則から自分の給与条件を容易に知ることができるのであれば、労働条件通知書の賃金に関する条項を「給与条件は当社の就業規則による」というように省略して表記しても問題ない。

労働契約の変更

労働契約の変更は、就業規則を下回らない範囲で労働者の合意を得られている場合は可能であるが、「労働条件は就業規則による」とした場合に、就業規則を不利益変更することは合理性が無ければ認められない(合理性の有無は所轄の労働基準監督署が判断する)。

短期の労働契約の反復禁止

事業主がいつでも人員整理できるように短期の有期労働契約を反復更新する方法は、労働契約法で禁止されている。また労働基準法では、労働契約を3回以上更新した労働者もしくは1年以上にわたり継続雇用した労働者を雇い止めする場合は、解雇とみなすとしている。

労働契約の終了

労働契約を終了する方法は、就業規則にもとづく終了(定年退職、休職期間満了による自然退職、打ち切り補償の支払いによる退職)と、契約当事者の一方からの契約解除の申し入れによる終了(自己都合退職、解除、解雇)の2つがある。

採用時の労働条件と実際の労働条件が著しく相違する場合は、労働者は即時に労働契約を解除できる。また即時解除によって使用者側になんらかの損害が生じたとしても、労働者は損害賠償責任を負わない。

労働契約のまとめ

労働契約書の締結は義務ではないが、入社後のトラブル防止のため、使用者は労働者を雇用する際に、書面でもってきちんと労働条件を説明しておく必要がある。なお多くの企業では労働条件通知書でもって労働契約書に代用することが一般的である。

なお令和5年の労働基準法改正により、入社後の異動の予定についても労働条件通知書において明示することになった。つまり使用者は人材を雇った後に働きぶりを見ながら処遇を考えるのではなく、予めキャリアパスを設計した上で、雇入時にきちんと説明する義務がある。

 

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニやスーパーの販売職を経て三十路を機に人事業界に転身。20年以上にわたり人事部門で勤務先の人事制度改革に携わった後に起業。社会保険労務士試験合格。日商販売士1級、建設業経理士1級、FP技能士2級など多数取得。

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