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01_雇用管理

高齢者の雇用

高齢者の雇用アイキャッチ

高齢者の定義

労働法令や社会保険制度には高齢者に関するものがいくつかあるが、これらにおいて何歳の到達をもって高齢者と呼ぶのか一義的に規定されていない。例えば高年齢者雇用安定法は高齢者を55歳以上としているが、雇用保険法の高年齢被保険者は65歳以上の者をいう。

もっとも雇用保険法でも高年齢雇用継続給付は60歳以上を対象としており、高齢者医療確保法では前期高齢者を65歳以上、後期高齢者は75歳以上としている。さらに厚生年金保険法の高齢任意被保険者は70歳以上からとなっていて、制度ごとの違いに注意する必要がある。

人材の募集や採用時に注意すべきこと

人材の募集・採用時の年齢制限の禁止

労働施策総合推進法は、人材の募集および採用に関して、求職者の年齢に関わらず均等な機会を設けることを事業主に義務付けている。

また高年齢者雇用安定法では、人材の募集および採用に65歳未満という年齢制限を設ける場合には、事業主は求職者に対してその理由を明示しなければならないとしている。

60歳未満の定年禁止、65歳までの雇用確保

高年齢者雇用安定法は事業主に対し、60歳未満の定年制度を設けることを禁止している。さらに65歳まで労働者の雇用を確保するために、①65歳定年制、②65歳までの継続雇用、③定年制度の廃止のいずれかの措置を講じることを義務付けている。

つまり定年を60歳に設定しても事業主は65歳まで労働者を雇用する義務がある。また前述の①〜③の方法に社会貢献分野での創業支援等を加え、70歳までの就業を確保するよう努力する義務も定められている(少子高齢化が続くといずれ努力義務から義務になると思われる)。

高年齢者の雇用継続・再就職

60歳定年後の雇用継続によって、定年後の賃金が定年前の賃金に比べて75%未満に低下した場合60歳になった月から65歳になる月まで、最大で低下後の賃金の15%に相当する高年齢雇用継続基本給付金が雇用保険から給付される。

受給資格は60歳になった時点で、5年以上の雇用保険被保険者期間があることだが、60歳以後に雇用保険被保険者期間が5年に達した場合でも、その月から高年齢雇用継続基本給付金が支給される(5年に達した月から65歳に達する月まで)。

60歳定年により離職した後に、雇用保険の基本手当を受給していた者が再就職した時に、再就職後の賃金が基本手当の賃金日額の75%未満に低下した場合は、最大で低下後の賃金の15%に相当する高年齢再就職給付金が雇用保険から給付される。

高年齢再就職給付金の支給期間は、基本手当の支給残日数が200日以上の場合に2年間、100日以上の場合に1年間となっているが、残日数が100日未満の場合は支給されない。また200日もしくは100日に到達する前に65歳になった時は、その月で支給が終了となる。

高年齢雇用継続基本給付金は60歳以後の雇用継続、高年齢再就職給付金は60歳以後の再就職を対象とした制度だが、実質的に65歳までの雇用が義務化されたため、令和7年4月より支給率が現行の15%から10%に引き下げられ、将来的に廃止される。

有期雇用契約の上限

有期雇用契約は、契約期間内に労働契約を解除すると相手側に生じた損害を賠償する責任を負うこともあるため、労働基準法は、有期雇用契約の上限を3年以内と定めているが、60歳以上の労働者は再就職が難しいため、例外的に5年以内の有期労働契約が認められている。

雇入れ後に注意すべきこと

使用者の安全配慮義務

労働契約法は、労働契約に明記されていなくても、使用者は労働者に対して当然に安全配慮義務を負うものとされている。また労働安全衛生法も、使用者に対して職場の安全健康確保を義務付けており、特に中高齢者労働者の特性に配慮した適正配置の努力義務も課している。

労働災害防止計画

労働災害防止計画は労働安全衛生法にもとづいて厚生労働大臣が定める労災防止5カ年計画であり、現在は第14次労働災害防止計画の推進中であるが、8つの重点対策のひとつに、高年齢労働者の労働災害防止対策の推進が掲げられている。

高年齢者雇用状況報告

高年齢者雇用安定法は、事業主に対し、毎年6月1日時点における高年齢労働者に対する65歳までの雇用確保措置および70歳までの就業確保措置の実施状況について、7月15日までに所定の様式により、所轄の公共職業安定所に報告することを義務付けている。

社会保険の被保険者資格に関すること

健康保険

サラリーマンが健康保険(協会けんぽ、健保組合)に加入できるのは74歳迄で、75歳になると強制的に後期高齢者医療制度(後期高齢者広域連合)に切り替わる。自営業者の場合も74歳まで国民健康保険に加入し、75歳になると強制的に後期高齢者医療制度に移行する。

厚生年金保険

サラリーマンは70歳になると厚生年金の資格を喪失する。70歳以後も継続雇用する場合は、70歳以上被用者該当届を年金事務所に提出して厚生年金のみ資格喪失するが、加入期間が老齢基礎年金の受給資格に満たない場合は、厚生年金を継続(高齢任意加入被保険者)できる。

国民年金(第2号被保険者)

国民年金のうち、第1号被保険者(自生業者等)と第3号被保険者(専業主婦)は60歳になると資格喪失するが、第2号被保険者(サラリーマンや公務員)は、厚生年金保険に加入している間は国民年金の資格を喪失しない。

ただし65歳以後は、老齢基礎年金の受給資格を満たした時点で国民年金第2号被保険者資格を喪失し、厚生年金保険のみ引き続き70歳まで加入することになる。

老齢基礎年金を受給するには10年間の加入期間が必要だが、加入できる期間は40年が上限となっている。一方の老齢厚生年金は、老齢基礎年金の受給資格を満たしていれば、加入期間が1ヶ月しかなくても支給される。70歳未満であれば加入期間の上限もない。

在職老齢年金制度

老齢厚生年金(特別支給の老齢厚生年金を含む)の受給者が、再び就職して厚生年金の被保険者になる場合、その月の給与+賞与の1ヶ月平均額+老齢厚生年金の1ヶ月平均額の合計が、法定の額を超えた部分の1/2に相当する額について、老齢厚生年金を支給停止する。

法定の額(支給停止調整額)は令和6年で50万円であるが、在職老齢年金制度は厚生年金の資格喪失(70歳以上被用者該当届)をした者には適用されない。また支給停止の対象となるのは老齢厚生年金のみで、老齢基礎年金に対する支給調整は行われない。

高齢者の再就職に関すること

基本手当の受給期限の特例

離職者が雇用保険の失業給付を受給する時は、①管轄のハローワークで求職の申し込みを行う→②待機期間と給付制限期間の経過を待つ→③4週間ごとに失業認定を受ける→④所定給付日数分の基本手当を受給する、というプロセスを、離職翌日から1年以内に完了させる必要がある。

一方で60歳以上の定年に達したことにより退職した者については、離職翌日から2ヶ月以内に管轄のハローワークに申出することで、基本手当の受給期限が1年間から2年間に延長されるため、充実したセカンドキャリアの実現に向けて、リスキリングなどを行うことができる。

高年齢者求職者給付金

労働者が在職中に65歳になった時は、雇用保険の被保険者資格が一般被保険者から高年齢被保険に切り替わり、もし65歳以後に離職した場合は、基本手当ではなく、高年齢求職者給付金が支給される。

基本手当と高年齢求職者給付金の違いは支給日数と支給方法である。基本手当は所定給付日数の90日〜360日分を、4週間ごとに公共職業安定所で失業認定を受けることで支給されるのに対し、高年齢求職者給付金は基本手当日額の50日分もしくは30日分が一時金で支給される。

高年齢求職者給付金の所定給付日数は、算定基礎期間が1年以上の場合は50日分、算定基礎期間が1年未満の場合は30日分となっている。なお一時金を受給した直後に再就職しても、一時金の返還義務はない。

派遣労働者として働く場合

労働者派遣法では、雇用の不安定な派遣労働者はあくまでも臨時の労働力という認識なので、長期派遣による雇用身分の固定化を防止するため、同一の派遣労働者を同一の部署で3年以上継続して就業させることを禁止しているが、60歳以上の労働者にはこの制限は適用されない。

また労働者派遣法は日雇派遣(1日単位もしくは30日以下の極めて短い期間の労働者派遣)も原則として禁止しているが、60歳以上の労働者には、例外的に日雇派遣も認められている。

高年齢者の雇用まとめ

総務省の人口推計によると、令和4年の日本の高齢化率は29%となっており、人口の3人に1人が65歳以上の高齢者ということになる。一方で少子化による若年労働力の不足や社会保障財源の逼迫などを解消すべく、我々は高齢者の雇用について、真正面から向き合う時期にきている。

しかし小売業や介護業などでシニア労働者の労災事故の増加が問題となっている等、多くの事業場において高齢者雇用に対する知識や理解の欠如が散見されており、いまだに昭和チックな根性論を引きずった乱暴で粗雑な労務管理を行っている使用者は少なくないと思われる。

高齢は誰にでも訪れる自然現象である。若い時にシニア労働者をぞんざいに扱ってきたツケは、やがて自身が高齢者になった時になんらかの形で跳ね返ってくることは間違いない。そして多様化の時代だからこそ高齢者の特性に配慮した合理的な労務管理の確立が急務だろう。

 

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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