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03_賃金計算

賞与計算

2024年9月20日

賞与計算アイキャッチ画像

賞与の定義

法令上の賞与の定義

人事関係の各種法令において賞与の統一的な定義はない。例えば労働基準法では賞与は労働者の有する権利として賃金に含まれるとしており、雇用条件の明示義務においては賃金は絶対的必要明示事項、賞与は相対的必要明示事項としている。

労働保険も社会保険も賞与を保険料の算定に含める。ただし労働保険は賞与を賃金総額に含めて保険料を計算するのに対し、社会保険は標準報酬月額と標準賞与額に分けてそれぞれ保険料を計算する。また社会保険では3ヶ月を超える期間ごとに支給されるものを賞与としている。

所得税法は、賞与とは定期の給与とは別に支払われるもので、①純益を基準として支給されるもの、②あらかじめ支給額の定めのないもの、③あらかじめ支給時期の定めのないもの等としているが、これは労働基準法に定める割増賃金の計算にも準用されていると思われる。

例えば労働基準法の割増賃金の計算ルールでは、年俸制の労働者の年俸額を15等分して3ヶ月分を夏と冬の賞与に充当したとしても、あらかじめ支給額が定められているものは賞与とはみなされず、割増賃金の計算に含めるとしている。

人事制度における賞与

人事制度における賞与は、人事戦略のツールとしての賞与と、労務管理における年間ルーティンとしての賞与の2つがあるのではないかと考えている。前者は有能な人材を獲得し、自社に繋ぎとめておくための報酬制度の一部としての賞与であり、後者は給与計算と同列の年次業務としての賞与計算である。

なお今回はあくまでも賞与計算事務についての解説である。たとえば報酬制度の設計に関連して賞与をどうすべきか、人事評価と賞与原資の配分を具体的にどう連動させるのかなど、人事マネジメントにおける賞与のあり方については、別の記事で解説したい。

賞与の計算と支給

賞与支給までの流れ

通常は、次年度の予算編成の時に、人件費予算とあわせて大まかな賞与の予定額も決めておく。そして賞与の支給時期が近づくと役員会で今後の業績予測も踏まえて賞与の総支給額を確定する。賞与の支給総額が固まったら、階層別および事業部別に賞与原資の配分を検討する。

階層内および事業部内における賞与原資の配分は人事評価と紐づけて行う。具体的なやり方は別の記事で解説するが、個人別の支給額が確定したら、経営部門から人事部門と経理部門に伝達され、人事部門では賞与計算、経理部門では賞与資金の調達にそれぞれ着手する。

多くの企業では、賞与の支給額はその時々の業績に影響されるため毎回異なるのが普通である。そして支給額の決定には従業員に対する経営者の想いも多分に込められているため、賞与の支給前に、賞与の支給方針などを代表者から全社員にアナウンスすることが一般的である。

賞与計算のしかた

通常は、社員別の賞与支給リストが経営部門から人事部門に引き継がれ、給与担当者は、給与計算ソフトにリストに記載された各人の支給額を転記する。すでに役員会にて十分に検討・調整されて決定した額なので、人事部門において支給額を再調整することはない。

一方で、賞与計算において留意すべきは法定控除の額である。それは控除すべき社会保険料や税金の計算方法が、通常の月例給与とは大きく異なるからである。

社会保険料(健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料)
賞与支給額の千円未満を切り捨てて標準賞与額とし、標準賞与額にそれぞれの保険料率を乗じて社会保険料を算定する。算定された社会保険料は労使が折半して負担するため、保険料の半額(円位未満の端数切り捨て)を被保険者負担として賞与から控除する。

なお健康保険料(介護保険料)は年間の支給額を合算して573万円、厚生年金保険料は支給ごとに150万円をそれぞれ標準賞与額の上限としている。たとえば夏季賞与200万円、冬季賞与300万円、期末賞与100万円の場合、次のように標準賞与額を算定する。

標準賞与額の上限額表

地方の中小企業の場合、執行役員クラスでもこれだけの高額な賞与を貰えることは稀なので標準賞与額の上限については、参考までに知っておく程度でよい。

源泉所得税
役員賞与と一般の従業員の賞与は税務上の取り扱いが大きく異なるため、ここでは一般の従業員で、なおかつ賞与の支給額が月給の2〜3ヶ月程度の平均的な支給水準を前提に解説する。

賞与にかかる源泉所得税の計算は、月例給与で用いる「源泉所得税額表」ではなく、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率表」を用いる。

賞与に対する源泉徴収額の算出率の表
国税庁ホームページより転載

この表の中で、扶養控除申告書に記載されている扶養家族数に該当する列と、前月の給与の総支給額から社会保険料を控除した額の該当する行が重なった部分に該当する率を、賞与支給額に乗ずべき税率とする。

甲欄の税率を適用できるのは扶養控除申告書を提出している従業員に限る。扶養控除申告書は年末調整や入社時に各人に配布され、未提出者については乙欄で税率を決定することになっている。なお扶養控除申告書を提出できるのは主業たる勤務先1社のみである。

個人住民税
個人住民税は賞与から控除しない。それは個人住民税は前年度の年末調整にもとづき作成された給与支払報告書をもとに、控除すべき税額が決定されるため、当年度に支給された賞与は、翌年度の給与から控除される個人住民税の算定基礎となるからである。

そもそも個人住民税の納税通知書には、月々の給与から徴収する税額(6月〜翌年5月)しか記載されていない。

賞与支給後の処理

社会保険料
賞与の支給日から5日以内に、賞与支払届を作成して事業場を所轄する年金事務所に提出する。賞与支払届は健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料の申告書がセットになっており、日本年金機構を経由して協会けんぽ等にも提出されることになる。

後日、日本年金機構および協会けんぽから、標準賞与額決定通知書が郵送されてくるので、自社で算定した標準賞与額と相違ないかチェックした上で、社会保険関係のファイルに綴って保管しておく。

賞与から控除した社会保険料(被保険者負担分)は、事業主が負担すべき社会保険料および子ども子育て拠出金(法定福利費)と合算して、翌月の末日までに最寄りの金融機関の窓口もしくは口座振替の方法で日本年金機構に納付する。

源泉所得税
賞与から控除した源泉所得税は、賞与支給月の給与から控除した源泉所得税と一緒に、指定様式の納付書(給与所得・退職所得等の所得税徴収高計算書)を添えて、翌月10日までに最寄りの金融機関の窓口から納付する。

源泉所得税の納付書
国税庁ホームページより転載

この納付書の1段目(俸給・給料等 01)には、月例給与の支給総額と給与から控除した源泉所得税の額を、2段目(賞与 役員賞与を除く 02)には、賞与の支給総額と賞与から控除した源泉所得税の額をそれぞれ記載する(本税と合計額の記載も忘れずに)。

月例給与と同様に、賞与から控除した源泉所得税もあくまでも概算額であり、年末調整の時に給与と賞与をあわせて年税額を確定する。なお役員賞与は利益処分賞与(益金)といって、従業員に対する賞与費(損金)とは税務上の性質が全く異なるものである。

賞与支払いに関する注意事項

産前産後休業・育児休業中の取り扱い

産前産後休業および育児休業の期間中は社会保険料が免除されるが、賞与にかかる社会保険料も免除される。ただし1ヶ月未満の短期間の育児休業については、賞与に対する社会保険料は免除されない(休業が14日以上なら給与にかかる社会保険料は免除される)。

不合理な差別の禁止

労働基準法、男女雇用機会均等法、障害者雇用促進法、パートタイム・有期雇用労働法、労働者派遣法では、性別や雇用身分の違い、障害の有無等を理由に、賞与の支給要件や支給額等について不合理な差別的取り扱いをすることを禁止している。

不合理な差別とは、パートの賞与は職務内容にかかわらず一律5万円とする、女性は男性より勤続年数が短いので賞与の支給月数も短くする等の差別をいう。職責や能力、勤務時間の長短などに応じて支給条件に差を設けることは不合理ではない。

賞与計算まとめ

賞与支給日に勤務先に在籍していることを賞与の支給要件とするのは違法ではないとした判例があるが、これまで日本では賞与の意味合いが企業によってバラバラであり、また永年勤続と年功序列を前提とした古い時代の雇用慣行においては問題にはならなかった。

一方で今後は雇用の流動化が進むにつれて賞与のあり方について疑問を抱く人が増えるかもしれない。例えば賞与を賃金の後払いとするか、利益還元のためのボーナスとするか、成長への期待を込めたインセンティブとするかなど、人事戦略を踏まえた自社なりの賞与の定義づけが必要となってくるのではないかと思料する。

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニやスーパーの販売職を経て三十路を機に人事業界に転身。20年以上にわたり人事部門で勤務先の人事制度改革に携わった後に起業。社会保険労務士試験合格。日商販売士1級、建設業経理士1級、FP技能士2級など多数取得。

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