給与に関する主な税金
源泉所得税
給与から控除される税金には源泉所得税と個人住民税の2種類がある。前者はいわゆる所得税だが、所得税とひとくちに言っても、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、退職所得など、所得には様々な種類があるため、実務担当者の間では源泉所得税と呼んで区別している。
ほとんどの所得税は、納税者が自ら所得と税額を計算し、確定申告によって納税する総合課税だが、一般的なサラリーマンが月々の給与から控除されている源泉所得税については源泉分離課税といい、給与の支給時に事業主側であらかじめ税を控除する仕組みとなっている。
このように給与を支払う都度、課税と徴収を行ってしまう仕組みを源泉徴収制度といい、それゆえにサラリーマンの給与にかかる所得税は源泉所得税と呼ばれている。ちなみに源泉所得税は国税なので、給与から控除された源泉所得税は所轄の税務署に納付されることになる。
通常は収入から経費を差し引いた残りの儲けに対して課税されるが、源泉徴収制度はあらかじめ給与所得に応じた経費相当額が決められているため、納税者(サラリーマン)側に節税対策する余地がない。
個人住民税
給与から控除されるもうひとつの税金は個人住民税であり、通常は住民税といえば個人住民税を指す。ただし住民税は法人にも課される(法人住民税)ため、特に経理の実務においては、個人住民税と法人住民税を明確に区別している。
個人住民税は均等割と所得割で構成されている。均等割はその市町村に居住する者に対して均等の額で課される定額の税金であり、所得割は前年の課税所得金額(前述の各種所得の合算額)に応じて税額が決まる税金である。
個人住民税は地方税であり、都道府県民税と市町村民税が含まれるが、納付先は市町村役場となっている。徴収や滞納処分は所得税法ではなく、地方税法のルールに則って行われる。
年末調整との関係
社会保険料や労働保険料では毎年4月〜翌年3月を保険年度としているが、税については毎年1月〜12月を課税年度としている。たとえば源泉所得税の場合は、1月〜11月までは概算額の源泉所得税を徴収しておき、12月に確定した年税額との差額調整(年末調整)を行う。
源泉所得税も他の税金と同様に、年間収入から経費見合いの額を控除した残りの額に対して課税することになっている。源泉所得税における経費見合いの額とは、例えば扶養家族や生命保険料、住宅ローンなどで、年末時点の経費の総額をもとに年税額を確定する仕組みである。
給与担当者は年末調整の結果を給与支払報告にまとめ、翌年の1月末までに従業員の住所地を管轄する市町村に提出する。市町村役場では提出された給与支払報告にもとづき翌年度の個人住民税の額を決定し、6月〜翌年5月にかけて徴収すべき個人住民税の額を事業主に通知する。
税金の控除と納付
源泉所得税の控除
年末調整が終わったら、給与計算ソフトのマスターデータを更新して、1月以後の給与計算の準備をする。具体的には、まず給与支給対象者となる従業員から扶養控除申告書が提出されているか、また提出された扶養控除申告書に扶養家族の異動がなかったかなどを確認する。
1月〜11月の給与から控除する源泉所得税は概算額であり、その額は国税庁の源泉徴収税額表に記載されている。源泉徴収税額表には月額表と日額表があり、日雇い労働者でなければ月額表を用いるが、月額表のうち甲欄を適用するのは扶養控除申告書を提出した者に限る。
甲欄とは勤務先が主たる給与の支払者つまり主業の場合に用いる税額テーブルであり、副業の場合は甲欄に比べて高い税額の乙欄を適用することになる。もし従業員が扶養控除申告書を提出しなかった場合は、甲欄で税額控除できないため従業員への周知徹底が必要である。
一般的な給与計算ソフトでは、マスターデータの課税区分を甲欄に設定し、正しい扶養親族の人数等を登録すれば、その月の給与支給額と控除する社会保険料の額に応じて、源泉徴収税額表どおりの源泉所得税が自動的に給与から控除される仕組みになっている。
年末調整は別の記事で改めて取り上げるので、本記事では月々の概算額の控除についてのみ解説する。
個人住民税の控除
個人住民税は個人が金融機関の窓口に出向いて直接納税する(普通徴収)が原則だが、サラリーマンの場合は勤務先において、個々の従業員の給与から個人住民税を源泉徴収し、事業主が市町村ごとにとりまとめて納付することになっている(特別徴収)。
個人住民税は前年の年末調整の結果を受けて個々の税額が決定され、毎年5月頃に各市町村から事業主に住民税決定通知書が送付される。住民税決定通知書は従業員に配布する小さなカード様式と、事業主の源泉徴収用に納税対象者と納税額が一覧になった冊子様式の2種類がある。
個人住民税は、6月の給与計算の前に給与計算ソフトの住民税マスターデータを1年分まとめて更新してしまい、あとは給与計算ソフトに任せて毎月自動的に控除する。また個人住民税決定通知書(従業員控)は6月度の給与明細書とセットにして従業員に配布する。
給与から源泉所得税と個人住民税を控除する時の会計仕訳は次のとおりとなる。これらの控除モレもしくは納付モレを会計ソフトの元帳集計機能等を利用してチェックするために、職員預り金科目に源泉税、住民税(+市町村名)などの補助科目を追加しておくと便利である。
地方税法にもとづき、事業主は従業員の個人住民税を特別徴収する義務がある。また従業員が1月〜5月の間に退職する場合は、最後の給与支払い月に、5月までの未徴収の個人住民税を一括徴収しなければならない。
源泉所得税と個人住民税の納付
給与から控除した源泉所得税と個人住民税は、税務署から送られてきた源泉所得税の納付書と、住民税決定通知書に同封されている個人住民税の納付書をそれぞれ添えて、最寄りの金融機関で納付する(全くDXっぽくないが最もスタンダードで確実な納税方法である)。
参考までに納税時の会計仕訳は次のとおり。納税事務は経理部門が行うことが一般的だが、複数地域にまたがってチェーン展開しているリテーラーの場合、まれに個人住民税の納付先を混同することがあるので、会計ソフトの補助科目ごとにおかしな残高が無いかチェックする。
現在は国税も地方税も電子納付ができるようになっており、もし機会があれば別の記事で詳しく解説したい。
e-Tax(国税電子申告・納税システム) eL TAX(地方税ポータルシステム)
源泉税と住民税まとめ
源泉所得税と個人住民税の給与控除と納付は慣れればさほど難しい事務ではないが、苦手意識を持ちづらいがゆえに、ケアレスミスによる控除モレが発生しやすく、経理部門と人事部門との間で、控除した額と納付した額が一致せずに揉めることがある。
こういったミスを予防するには、誰から、どのタイミングで、いくらの税金を徴収するのか、扶養控除申告書と住民税決定通知書もとに給与計算ソフトのマスターデータをきちんとメンテナンスし、上司がクロスチェックできるようにチーム内で共有しておくことである。
そして①給与計算ソフトのマスターデータ更新時、②給与計算時、③納税時の3つのタイミングにおいて、所属部署ごと、市町村ごとに、前回と税額および人数が変わっていないか?変わっていればそれは誰なのか?などをチェックし、その都度原因を特定しておくことである。