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03_賃金計算

社会保険料の控除

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社会保険料の計算方法

賃金と報酬

給与とは税法上の用語であり、労働保険(雇用保険法、労働保険徴収法)では賃金社会保険(健康保険法、厚生年金保険法)では報酬という。2つの制度で呼称が異なるのは、労働保険が労働者を対象としているのに対し、社会保険では役員も被保険者としているからである。

賃金もしくは報酬に含めるべき手当は下表のとおり概ね一致している。退職手当は労働基準法において労働者の権利という趣旨で賃金に含めるが、労働保険料を算定する際には、退職手当を含めると保険料が不当に高くなってしまうため賃金から除外している。

賞与については賃金と報酬それぞれに含める。ただし労働保険は賞与を含む賃金総額に保険料率を乗じて保険料を算定するのに対し、社会保険は報酬を標準報酬月額と標準賞与額に分け、それぞれに保険料率を乗じて別々に保険料を算定する仕組みになっている。

労働保険料は事業場の1年間の保険料を算定し年度更新の時に一括して納付するが、社会保険料は報酬や賞与を支払うごとに被保険者ごとに保険料を算定し、事業場ごとにとりまとめて納付する仕組みになっている。

標準報酬月額の決定

社会保険料の算定基礎となる標準報酬月額の決定の方法および決定するタイミングには次の5つがある。標準報酬月額の決定と変更の方法について、健康保険料(介護保険料)と厚生年金保険料は共通しているが、標準賞与額に限っては若干異なる(別の記事で詳しく解説する)。

  • 取得時決定(新規採用者)
  • 定時決定(毎年7月1日時点の在籍者)
  • 随時改定(大幅な昇給や減給があった者)
  • 産前産後休業終了時改定(休業終了後に時短勤務となった者)
  • 育児休業終了時改定(休業終了後に時短勤務となった者)

この記事では新規に従業員を雇用した時に、最初の標準報酬月額を決める取得時決定について解説する。取得時決定は、報酬形態に応じて次の方法で報酬月額を見積もり、報酬月額に対応する標準報酬月額を資格取得届に記載し、所轄の年金事務所に提出することで行う。

  • 月給者〜資格を取得した月の報酬の額÷その期間の総日数✕30日
  • 時給者〜資格取得月の前月に、その事業場で同じ業務に従事し、同様の給与条件の被保険者が受けた報酬額を平均した額

時間外勤務が恒常的に発生している場合は、時間外手当の見込額を含めた上で、報酬月額を見積もる。

なお、標準報酬月額の取得時決定に際して、次の5点に留意する必要がある。

  1. 健康保険と厚生年金保険は標準報酬月額の等級および保険料が異なる
  2. さらに健康保険は、都道府県ごとに保険料率が異なる
  3. 被保険者が40歳に到達する月から介護保険料も徴収する
  4. 被保険者を雇用したら5日以内に所轄の年金事務所に資格取得届を提出する
  5. 健康保険の届出は日本年金事務所を経由して届出する(協会けんぽの場合)

保険料の額

資格取得届を提出したら、いったん給与計算ソフトの健康保険料および厚生年金保険料の標準報酬月額のマスターデータを登録しておき、後日、年金事務所から資格取得決定通知が返送されてきたら、決定した標準報酬等級および標準報酬月額とマスターデータを照合する。

多くの給与計算ソフトは、標準報酬等級と標準報酬月額のマスターデータをそれぞれ入力する仕様となっていることが多いが、標準報酬月額の欄は、健康保険料も厚生年金保険料も、本来の保険料の額を労使で折半した後の、被保険者負担分であることに注意する。

保険料を折半する際に、円位未満の端数が生じた場合は、被保険者分は切り捨て、事業主は1円位に切り上げる処理を行う。

控除と納付の方法

控除する額と納付の時期

健康保険料および介護保険料、厚生年金保険料は、被保険者と事業主が折半してそれぞれを負担する事になっているので、被保険者の給与から控除するのは被保険者負担分(本来の保険料の半額)のみである。

保険料の控除は、保険料が発生した月の翌月の給与で行い、その月の月末までに、事業主負担分と合わせて、日本年金機構に納付する。例えば4月分の保険料を5月支給の給与から控除し、事業主負担分と合算した額を5月末までに納付することになる。

なお社会保険料を納付する際には、被保険者負担分と事業主負担分を合算した額に、子ども子育て拠出金を加算する。子ども子育て拠出金は、児童手当や育児休業給付金の国庫負担部分の原資に充当されるもので、標準報酬月額の0.36%相当額を事業主が全額負担する。

社会保険料は、納入告知書を添えて最寄りの金融機関から振り込むか、事前に日本年金機構に届け出して口座振替の方法で納付する。

控除と納付にかかる会計処理

北海道の企業で働く40歳の被保険者の例で解説する。介護保険料は健康保険料に含めてあり、報酬月額をそのまま当月の給与支給額とする。また標準報酬月額表および子ども子育て拠出金率は、本記事投稿時のものとし、所得税や雇用保険料は考慮しない。

報酬月額をもとに健康保険と厚生年金保険の標準報酬月額表に当てはめると標準報酬月額はそれぞれ20万円となり、標準報酬月額に相当する保険料を、事業主と被保険者で折半する。なお子ども子育て拠出金は全額が事業主負担となる。

給与支払時に社会保険料の被保険者負担分を給与から控除し、職員預り金として翌月の納付日まで預かっておく(負債科目)。社会保険料の事業主負担分は法定福利費に計上し、あわせて子ども子育て拠出金を全額を法定福利費に計上する。

被保険者側では、総支給額198,000円から社会保険料27,710円(健保11,810円+厚年15,900円)が差し引かれた残りの170,290円(手取り額)が振り込まれたことになる。

翌月の末日に社会保険料を納付する。社会保険料は被保険者負担分と事業主負担分を合算し、さらに子ども子育て拠出金を加えた額となる。職員預り金と未払金が現金預金と相殺されるので、会計ソフトの元帳集計機能などを使って、負債残高がゼロになったか確認する。

日本年金機構から社会保険料の納入告知書が郵送されてくるので、納付すべき額と納付しようとする額(職員預り金+未払金)が一致しているかについても確認する。

社会保険料に関するその他ルール

事業主の納付義務

健康保険料や厚生年金保険料の負担は事業主と被保険者が折半することになっているが、納付は事業主が全ての義務を負っている。したがって被保険者が長期休業して無給状態となった場合でも、事業主が被保険者が負担すべき保険料を立替えて納付する義務がある。

長期休業者の被保険者資格

被保険者が休業した場合は、事業主と被保険者の雇用関係が継続する限り、被保険者の健康保険や厚生年金保険の資格は喪失しない。ただし休業が長期におよび、実態としてもはや雇用関係が存続してないと認められる場合は、被保険者資格を喪失することになっている。

社会保険料の免除

健康保険および厚生年金保険は、被保険者が産前産後休業している期間もしくは育児休業している期間は保険料を徴収しない。免除される期間は、休業を開始した日の属する月から、休業を終了した日の属する月の前月までで、免除を受けるには事業主を経由して届け出する。

休業明けの標準報酬改定

産前産後休業および育児休業を終了した際に、引き続き時短勤務に移行したために、報酬月額が下がった場合は、随時改定の要件に該当しなくても、標準報酬月額の改定を行うことになっている。これによって報酬の低下に合わせ、すみやかに保険料も引き下げることができる。

子の養育期間中の標準報酬の特例

子が3歳に満たない被保険者で育児のために時短勤務を行う場合は、子が3歳になるまで標準報酬の特例を受けられる。これは保険料は前項の改定を行った後の標準報酬月額で、老齢厚生年金を計算する際の平均標準報酬額は改定前の標準報酬月額で計算する特例である。

社会保険料の計算まとめ

労働保険料が事業場ごと、年度ごとに保険料を納付するのに対し、社会保険料は被保険者ごと、支払いごとに保険料を納付する制度になっていること、また労働保険料(雇用保険料)に比べて社会保険料の方が高額になることから、使用者や人事実務の担当者は社会保険料の計算と納付方法をきちんと理解し、その都度確実に処理してゆく必要がある。

また社会保険料の代表的な経理トラブルに、納入告知書と職員預り金+未払金の残高不一致がある。給与計算と給与仕訳を総務と経理で分担している企業が一般的だが、社会保険制度に精通している経理担当者少ないため、総務担当者であっても給与に関する会計仕訳くらいは習得しておき、残高不一致が大きくなる前に経理と協力して解消してゆくのが望ましい。

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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