人事関連ニュースを解説する

法改正情報 高年齢雇用継続基本給付金の支給率が下がります (2025年4月~)

2024年5月3日

高年齢雇用継続基本給付金制度 改正の概要

2025年(令和7年)4月1日より、雇用保険法に規定する高年齢雇用継続基本給付金の支給率が現行の15%から10%に引き下げられます。この改正案は2020年(令和2年)の第201回国会常会で可決されたものであり、この時の改正案のほとんどがすでに施行済ですが、高年齢雇用継続基本給付金の支給率については、2025年(令和7年)4月1日から施行されることとなっていました。

厚生労働省公式サイト 雇用保険法の一部を改正する法律案(令和2年2月4日提出)より転載

高年齢雇用継続基本給付金の支給率が引き下げられることで、本制度の対象となっている60歳~65歳の従業員が受け取ることができる給付金の額が、来年4月分から最大で1/3減額されることになります。ゆえに企業側では60歳以後の従業員に対する賃金制度(特に60歳以後の減額改定ルール)の見直しについて検討する必要が生じるだろうと予想します。

現行の高年齢雇用継続基本給付金はどうなっている?

高年齢雇用継続基本給付金とは、雇用保険制度の中の雇用継続給付事業のひとつとして、企業が従業員を60歳以後も引き続き雇用し、なおかつ60歳以後の労働能力の減退を考慮した役職定年や資格等級の改定によって従業員の賃金が低下してしまった場合に、低下した賃金の一部を従業員が65歳になるまで雇用保険から補填する制度です。

なお高年齢雇用継続基本給付金を受給するためには、従業員が60歳に到達する直前までに5年間の雇用保険加入期間が必要です。直前の5年間で転職している場合は、前職と現職とのブランクが1年以内でなければ通算できません。もし加入期間が5年に満たない場合は、60歳以後に加入期間が5年に達した時点で給付金の受給資格を得ることができます。

高年齢雇用継続基本給付金は、高齢を理由に減額改定された賃金の額が60歳到達時賃金の75%未満となった場合に、減額改定後の賃金の1%~15%を雇用保険から従業員に直接支給します。支給率は減額後の賃金が従前の賃金の60%以下に低下した場合に最大の15%となりますが、減額後の賃金が支給限度額(370,452円/月)を超えている場合は本制度の適用外です。

高年齢雇用継続基本給付金の支給率引き下げの背景

今回の法改正によって、前述の支給率が減額改定後賃金の15%から10%に低下することになります。例えば60歳到達時賃金が月額50万円だった人が、60歳以後の役職定年によって月額30万円に減額改定(従前の60%にまで低下)された場合、改正前の給付金=30万円✕15%=月額4.5万円が、改正後には30万円✕10%=月額3万円に減ってしまうということです。

実は雇用保険法改正の背景には高年齢者雇用安定法が関係しています。同法では従業員が65歳まで安定して就労できるよう、①定年制の廃止、②60歳以後の継続雇用、③60歳以後の再雇用のいずれかを企業に義務付けており、③については経過措置として企業が再雇用する従業員を選考することができましたが、来春以後は全ての希望者を再雇用しなければなりません。

そもそも高年齢雇用継続基本給付金制度の趣旨は、65歳までの賃金を雇用保険から一部補填することで、企業にとっても高齢労働者にとっても雇用継続しやすい環境づくりを支援し、65歳までの雇用確保を促進することでした。しかし高年齢者雇用安定法の経過措置終了に伴い、全ての企業で実質的な定年が65歳となりましたので、当該給付金は不要だろうという考えです。

高年齢再就職給付金の支給率も引き下げられる

高年齢雇用継続基本給付金と似た制度に、高年齢再就職給付金があります。これは高年齢雇用継続基本給付金が、60歳以後に雇用継続され、60歳以後の賃金が従前の75%未満に低下した場合に、低下後の賃金を補填する制度であるのに対し、高年齢再就職給付金は60歳以後に再就職し、60歳前より賃金が低下した場合に、低下分の賃金を補うものです。

高年齢再就職給付金の支給要件や支給率は、高年齢雇用継続基本給付金と同様ですが、異なるのは60歳以後の「雇用継続」か「再就職」かという点と、高年齢再就職給付金が基本手当の残日数に応じて再就職から1~2年間という短期限定で支給される点です(高年齢雇用継続基本給付金のように65歳まで支給されるわけではありません)。

なお厚生労働省の資料には「高年齢雇用継続給付の縮小」と明記されており、雇用保険制度において高年齢雇用継続給付とは、高年齢雇用継続基本給付金と高年齢再就職給付金の2つを指しますので、高年齢再就職給付金の支給率も高年齢雇用継続基本給付金と同様に、2025年(令和7年)4月1日より現行の最大15%から10%に改定される予定です。

高年齢雇用継続給付 法改正のまとめ

今回の法改正では、高年齢雇用継続基本給付金の支給率のマイナス改定でしたが、前述の理由によりすでに当該給付金そのものを近い将来に廃止することが決定されています。廃止の具体的な時期は未定ですが、企業としては来春以降の高齢労働者の処遇を含め、新卒入社から定年退職までのキャリア全般にかかる報酬制度を再考しなければならない時期にきています。

昨今は高齢労働者の労災事故が増加しており、昨年からの労働安全衛生法にもとづく第14次労働災害防止計画においても、高齢労働者の労災事故予防が主要取り組み課題のひとつに掲げられています。特に小売業などの労働集約型産業では作業動作や作業環境の再点検を行い、報酬制度と併行して職務分掌の見直しなども行ってゆく必要があるのではないかと思料します。

<当サイト利用上の注意>
当サイトは主に小売業に従事する職場リーダーのために、店舗運営に必要な人事マネジメントのポイントを平易な文体でできる限りシンプルに解説するものです。よって人事労務の担当者が実務を行う場合には、事例に応じて所轄の労働基準監督署、公共職業安定所、日本年金事務所等に相談されることをお勧めします。

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

-人事関連ニュースを解説する