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35~45歳の女性販売員の7割がキャリアに悩みと迷い 転職成功のカギは「販売以外のスキル」

2024年2月27日

アパレル販売職の抱える悩み

紹介した記事の要旨は、アパレル販売職は低賃金なうえにマーケティングの知識やパソコンスキルなど、キャリアチェンジに役立つ資格や技能を習得する機会が少ないので、転職しようにもアパレル販売以外の選択肢に乏しい、つぶしの効かない仕事である、というものです。

実は私は若い頃、半年程度ですが、アパレル販売の仕事を経験したことがあります。具体的には、荷受(重い!)、タグ付け、商品陳列、商品整理(エンドレス…)等の作業で、業務用ミシンを使ってお買い上げ頂いたパンツの裾上げサービスなんかも担当していました。

実際に働いてみた感想は、アパレル販売職の仕事は、スーパーマーケットなどに比べて、商品の品揃えや発注に関する店舗側の裁量権がほとんど与えられておらず、本部から送り込まれた商品をひたすら販売するだけ、といった単調な仕事だったように記憶しています。

アパレル販売職の専門性が低い理由

一般的に小売業は、既製品を仕入れて店頭に陳列し、来店したお客さんに販売することが主な仕事です。チェーン店では経営効率アップのために、店舗オペレーションの簡素化とマニュアルによる業務の画一化が徹底され、専門スキルを習得しづらい環境なのは事実です。

それでもスーパーマーケットでは取り扱い商品のほとんどがプロパー商品なので、販売データを分析して商品構成を見直したり、また全般的に商品回転率が高いことから、販売予測を立てて発注計画に活かしたりなど、計数管理にもとづく販売技術を学ぶことができます。

一方のアパレル専門店では、季節商品や流行商品のウエイトが高く、バイヤーがアソートメントで仕入れた商品を各店舗に送り込み、店舗側では売り切ることに専念する仕組みとなっているため、販売職はセリング以外のスキルが身につかないことが多いのではないでしょうか。

実はアパレル販売職は専門性が高い?

アパレル商材は食料品や日用雑貨に比べて嗜好性が強く、流行に売れ行きが左右されやすいため、実はアパレル販売職こそ、マーケティング(市場戦略)やマーチャンダイジング(商品戦略)、プロモーション(販促戦略)に関する専門知識を必要とする仕事のはずです。

さらにアパレル販売業は生活密着型ながら、ファッションのトレンドを発信したり、新たなライフスタイルを提案したりなど、クリエイティブな要素もあり、やり方次第では、いくらでもやりがいのある仕事になりそうなものですが、現実にはそうではないようです。

その理由は未だデフレ時代のローコスト偏重主義から脱却できない経営にあるのではないだろうかと想像しています。しかし本来は、アパレル販売職が専門知識を駆使して顧客に付加価値を提供することで、収益を確保してゆくのが、この業種のセオリーではないかと考えます。

アパレル販売職のキャリアパス(案)

アパレル販売業のマーケティング戦略については割愛しますが、販売職の離職が続いている企業であれば、まず自社のカテゴリーに合わせた経営戦略を策定し、経営戦略を実行できる組織体制が構築されているか、また組織体を運用できる人材が育っているか確認してみましょう。

そして製造部、商品部、販売部、管理部など、自社の各部門に配置すべき職種と階層の職務要件定義を行い、これらの職務要件に見合った人材をどのように育成してゆくのか、キャリアパスとキャリア実現のための人材育成プログラムを早急に整備すべきでしょう。

あわせて人材育成プログラムにアパレル販売職の専門資格を紐づけると効果的に人材教育を行えます。実際に受験した訳ではありませんが、日本ファッション教育振興協会のファッションビジネス能力検定やファッション販売能力検定など、なかなか実務的で使えそうです。

アパレル販売職がキャリアチェンジするなら

アパレル販売職の方が転職するのなら、現職の延長線上で転職活動を行った方が無難だと思います。例えば令和3年の経済センサスによると、アパレル販売事業者数はおよそ11万2千社もあるため、あえて職業を変えずとも、自分に合った職場を見つけられるかもしれません。

どうしても今と違う職業にキャリアチェンジしたいのであれば、アパレル販売職に近い産業で、これまでに培った知識や経験、人脈などを活かせそうな仕事がないか探してみることです。なぜなら大胆なキャリアチェンジに成功するには相応の資金や時間が必要だからです。

ちょっと見方を変えると、皆が辞めたがっている業界ならば、とにかく必死にしがみつくことで、いずれ相応のポジションに到達できます。本来のアパレル販売職は専門性の高い仕事なので、TOEICでもHTMLでも自己研鑽を続けていればチャンスに恵まれる可能性もあります。

アパレル経営者に考えて欲しいこと

アパレル販売職は、従業員のモチベーションが接遇サービスにダイレクトに反映されるので、顧客満足より従業員満足が優先です。不幸な人間が他人にホスピタリティなど提供できませんし、今どき「お客様の笑顔が私達の喜び」などといったやりがい搾取は流行りません。

また最近は低賃金や荷重な長時間労働を前提に成り立っているような前時代的なビジネスは潰れてしまえ、といった厳しい論調も散見されるようになり、近い将来にはブラック企業を忌み嫌うZ世代が消費の主役となってゆきますので、思い当たるフシのある会社は要注意です。

従業員のキャリアパスと人材育成プログラムを整備してアパレル販売職の自己実現欲求を充足すること、あわせて業務フローのDXを推進して生産性を向上し、従業員の処遇改善を行うことが、これからのアパレル販売業における有効な人事戦略ではないかと思料します。

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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