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【就活生必見!】インフレと外国人客復活の今だから「欲しい人材」は?小売業界の就職動向(DIAMOND online/2024.01.29)

2024年2月6日

私の業界キャリア

私は新卒で地元の札幌市に本社があるコンビニ本部に就職し、開発部のオープニングスタッフ、直営店の店長、運営部のスーパーバイザーを経験した後、20代半ばで北海道に進出したばかりの大手スーパーマーケットに転職しました。

転職先では前職で培った店舗運営と計数管理のスキルを最大限に発揮して実績を上げ、手前味噌ながら入社3年後には最年少の販売課長となり、不採算店舗のテコ入れのために道央圏を転戦する多忙な日々を過ごしていたことを思い出します。

小売業はどのような業界か?

小売業は業種と業態で分類されます。前者は食料品、医薬品、衣料品、家具、家電、書籍など、取り扱い商品群による分類で、後者はたとえば日用生活品であれば、百貨店、総合スーパー、食料品專門スーパー、コンビニエンスストアなど、販売形態ごとの分類です。

ひとくちに小売業といっても、業種や業態によって採るべき経営戦略や収益構造が異なるため、当然に勤務時間帯や休日、給与条件などの待遇も違ってきます。ゆえに就活に際しては充分な業界研究と企業研究を行うことをお勧めします。

小売業の組織体制

たとえばスーパーマーケットの場合、全社的には本部と店舗に大きく分かれます。本部では経営戦略や商品戦略、また経理や人事などの管理機能などを担い、店舗では出店地域に密着した販売活動に専念するといった、全社的な役割分担が徹底されています。

商品戦略に関していえば、商品部ではマクロ的視点からチェーン全体の商品構成の決定およびスケールメリットを活かした仕入先との価格交渉を行い、店舗においてはミクロ的視点から、地域のライフスタイルに合わせてテーマ性をもたせた売場づくりを行います。

なお消費者の嗜好が多様化した現在では、商品部主導による全店画一的な商品戦略を採ることが難しくなってきており、店舗ごとのインストアマーチャンダイジング(独自の品揃え)とインストアプロモーション(独自の販促活動)の重要性が増してきています。

小売業界のキャリアパス

ここでは販売職について解説します。まず新卒で入社すると、系列のどこかの店舗に配属されて、売場主任のもとで、商品発注、店頭陳列、在庫管理、店内外のクリンネス、接遇応対などの店舗スタッフとしての基本動作を学ぶことになります。

2~3年ほどで売場主任に昇進し、配下の新人社員やパートタイマーやアルバイトをマネジメントしながら、自部門の売上予算と利益予算に対して責任を負います。またこの段階から効率的な業績マネジメントを行うために、販売分析や計数管理の手法を習得します。

売場主任の次のステップは販売課長もしくは店長となりますが、ここからは商品加工や売場づくりの技術よりも、チームマネジメントのスキルが求められるため、売場のスペシャリストと店舗マネジメントのプロフェッショナルにキャリアパスが分化してゆくケースが多いです。

店長より上のポジションは企業ごとの職制によります。たいていはチェーン展開している地域ブロックごとに事業部長の職を置いているようです。一方でワークライフバランスを優先する人のために、上級幹部への昇進を辞退できるエリア社員制度を設けている企業もあります。

小売業では、迅速な意思決定と経営トップの方針を全店の売場にスピーディに反映させるために、役職の階層を簡略化したフラットな組織を編成する傾向が強く、「肩書=偉い」といった権威主義的な風潮が、他の産業に比べて薄いのではないかと感じます。

小売業に就職するメリット

私が現役の頃は、多くの大手小売業は故渥美俊一先生が主催したペガサスクラブの会員企業で、米国ウォルマート式の経営手法をベンチマークとしていたため、経験や勘に頼らない科学的アプローチでもってPDCAサイクルを回す合理主義的な風土が醸成されています。

また企業によって温度差はあるものの、人材教育に熱心な点も魅力です。これは小売業が労働集約型産業であり、人材の質がサービスの質にダイレクトに反映されるという業界の特性もありますが、装置産業ゆえに投資効率を最大化するためには人材教育が効果的だからです。

私もロジカルシンキング、チームマネジメントなどのスキルは小売業時代に習得しましたが、店長になれば本部のサポートを受けつつ、自店のヒト・モノ・カネを運用できるようになるため、大きなリスクを負わずに経営者の疑似体験ができるのはこの業界ならではの利点です。

小売業に就職するデメリット

小売業は労働集約型かつ装置産業であり、業界の平均的な粗利益率は22~23%程度なので、もし頑張って支社長クラスまで出世したとしても、高級タワマンに住んで、高級外車を乗り回し、SNSでリア充自慢などといった優雅な暮らしは望めません。

そして多くの小売業は商品単価が低く、不特定多数の消費者を相手にするので、チームのメンバーが協力しあって日々の販売努力を積み重ね、ようやく年間の予算を達成できるといった地道な仕事です。年度末に一発バズって赤字から大逆転!などということはありません。

今はどうかわかりませんが、私が勤めていた時代は、小売業といえば長時間労働の代表格として知られていました。さらに給与水準は前述のとおりなので、社外でキャリアアップを目指そうと思った時に、自己投資する資金や時間が限られてしまうこともあります。

小売業でキャリアを磨くために有用な資格

日商販売士

日本商工会議所が主催する公的資格で、業界内に限っていえば1級販売士は中小企業診断士以上のステイタスがあります。1級は経営者や店舗責任者、2級はフロアマネジャーや売場主任、3級は一般職などを対象とした、理論的かつ実務的な内容となっています。

衛生管理者

労働安全衛生法では、パート・アルバイトを含めて常時50人を超える従業員を就労させる店舗において、都道府県労働局の実施する試験に合格した衛生管理者を1名以上選任し、労働基準監督署に届け出しなければならないと定めています。なお小売業は第2種資格でOKです。

日商簿記

こちらも日本商工会議所が主催する歴史ある公的資格で、簿記を学ぶことで適切な収益コントロールの知識が身につきます。一般の販売職は3級(商業簿記)で充分ですが、商品部のバイヤーであれば2級を取得して、原価計算の仕組みを理解しておきたいところです。

東商ビジネス実務法務検定

東京商工会議所主催のビジネス実務における法律知識を学ぶことができる資格です。小売業においても新規出店、仕入先との契約締結、理不尽なクレーム対応など、さまざまなシーンで法律知識が必須です。法律の不知による無用なロスを避けるには3級の知識は必要です。

ITパスポート

経済産業省認定の国家資格で、IT国家推進施策の一環として、かつての初級システムアドミニストレータ資格の難易度を下げて、より多くの人が受験できるようにしたIT系の入門資格です。小売業ではEDIやDCMといったロジスティクス戦略において活用できる資格です。

TOEIC

インバウンド需要を取り込むために英語力は必須ですので、まずTOEIC650点を目指しましょう。TOEICは英検と違ってビジネス領域に特化しているため、仕事に必要な英語力さえ身につけば充分と割り切って学習できます。また英語の熟達に学歴は関係ありません。

FP技能士2級

コンビニ本部のスーパーバイザーにぜひオススメの資格です。SVの場合、店舗運営や販売管理以外にも、FCオーナーから節税対策や事業承継などの相談を受けることもあります。オーナーの事業形態に応じて個人資産業務と中小事業主資産業務のいずれかの実技を選択します。

小売業の将来性

人口減少によって国内需要は縮小してゆきます。また消費意欲の乏しい高齢者がマーケットの中心となることで、客単価も下がるのではないかと予想しています。さらに買い物難民の増加が予想されるため、Eコマースとデリバリーに注力する事業者が増えるでしょう。

インバウンド需要は伸びてゆきます。豪州からのリゾート客で賑わうニセコ町のコンビニでは、ドンペリが飛ぶように売れているといったニュースにもあったように、国内客と海外客との間で客単価の二極化が進むため、店舗ごとのマーチャンダイジングに苦労しそうです。

セルフレジや電子プライスカードの普及で、従来の人手を介した作業はどんどん縮小しており、また地域のシニア人材を採用するお店も増えているため、若手人材は雑用から解放されて、入社から早い段階で付加価値を生み出すようなコアな業務を担当できるでしょう。

物流業界における2024年問題の行方も注視したいところです。すでに残業上限枠の範囲で自前のロジスティクスを構築している事業者は別として、未対応の場合は発注管理や在庫管理などの体制を抜本的に見直す必要に迫られそうです。

小売業は生活インフラ産業なので、今後も衰退することはありませんが、マーチャンダイジング、プロモーション、ロジスティクスなどが変革期を迎えており、従来の業界常識が通用しなくなりつつあります。

ただしこれらの変革はゆるやかに進行するので、むしろ潜在的なチャンスを発掘できる可能性も秘めています。私の時代は隙のないくらい完璧にオペレーションが整備されていて、個々の社員が独創性を発揮する余地が乏しかったのですが、今後は面白い業界になりそうです。

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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