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表計算「作った本人が退職」会社で起きる大混乱(東洋経済ONLINE/2024.02.08)

2024年2月19日

この記事の要旨

この記事では表計算ソフトに過度に依存する主な問題点について次の3つをあげています。

そもそも表計算ソフトとは、表の中でタテヨコの計算をするものであり、データ連携やデータ書式の定型化などができないため、予実管理に活用するためには関数や高度な機能を多用しなければならない。

表計算ソフトはデータ連携できない、もしくは機能不足なので、複数の部門にまたがる仕事を表計算ソフトでこなすには限界がある。結果的に表から表へデータをコピペしなければならず、かえってデジタル化を阻むハードルとなる。

さらに表の中に高度な関数や機能が組み込まれていると、作成者以外のメンバーが持て余してしまい、さらにそのファイルを作成した本人が退職してしまうと、ファイルのメンテナンスができなくなってしまう。

文脈から推察するに、この記事のいうところの表計算ソフトとは、マイクロソフト社のExcelを指しているのではないかと思われます。なぜなら私が普段利用しているGoogleのスプレッドシートでは、これらの問題は生じないからです。

マイクロソフトオフィスを使い倒してみたが…

私が起業する直前に勤めていた職場では、マイクロソフトのTeamsとM365がデフォルトで、私自身もこれらの製品を徹底的に使い倒し、自分の部署(人事部)についてはフルリモートでも全く支障のないレベルの業務管理体制を構築することができました。

特に退職直前にはPower Queryを介して外部データを活用したり、簡単なパソコン作業をPADに置き換えたりなど、一般的なオフィスワーカーの中では、オッサンながらもソコソコのレベルでパソコンを使いこなせていたのではないかと自負しています。

そんな私ですが、起業と同時にマイクロソフトオフィスからGoogle Workspaceに全フリしました。その経緯などはいずれ回を改めて説明できればと考えていますが、Google Workspaceひとつあれば、会社経営に必要な機能のほとんどをカバーできます。

Googleスプレッドシートが優れている理由

今回はGoogleの表計算ソフトであるスプレッドシートが、なぜExcelより優れているのか、私なりに解説してみたいと思います。なお最初にお断りすると、本投稿はGoogleの案件ではありませんし、これまで散々お世話になったMSオフィス製品をこきおろす意図もありません。

ただし、現時点ではスプレッドシートを導入し、そのメリットをいかんなく活用することで、表計算ソフトの枠組みを超えて職場の生産性を高められることは間違いありませんので、あくまでも「こういった見方もあるのだな」と参考程度にご覧頂ければ幸甚です。

チームメンバーが同一機能を利用できる

Excelにはデスクトップ版とクラウド版があり、これらの間では機能にかなりの相違があります。さらにデスクトップ版のExcel同士でも、バージョンが異なると、シートの閲覧はできるが編集ができない、などといったエラーが頻発して仕事がストップします。

Googleのスプレッドシートはクラウド版のみで、全てのユーザーが同一の機能を利用できます。バージョンアップもGoogleによって例外なく斉一に行われるため、メンバーによって使える機能が違う→さぁ困ったどうしよう…などといった事態にはなりません。

ビジネスユースにちょうどよい適度な機能

表計算ソフト単体で比較するとExcelの方が高機能かつ多機能ですが、一般的なビジネスユースではオーバースペックな感は否めません。時々やたらとExcelに詳しい人が、不必要に手の込んだ資料作りに血道を上げてしまい、他のメンバーが白けてしまうケースもあります。

スプレッドシートはビジネスに必要な最低限の機能(それでも充分すぎるくらい多機能ですが…)に絞った構成となっているため、ほとんどの人がすぐに使いこなすことができます。その結果、メンバー全員の参加を促し、チームのモチベーションも上がります。

パソコンのスペックに依存しない

Excelで重たい関数を組んだらパソコンがフリーズし、作業中のデータが吹っ飛んで頭の中が真っ白になった経験のある人は少なくないでしょう。これはオフィスソフトの大多数を占めるデスクトップ版Excelが、パソコンのスペックに依存しているために起こる現象です。

スプレッドシートはクラウドベースなので、スペックの低い廉価なパソコンでも軽快に動作します。またGoogleはスムーズな動作を保障するために、創業当初からデータセンターへの投資を積極的に行っており、あらゆる作業の履歴までリアルタイムで自動保存してくれます。

シート自体を介して協働できる

Excelでファイルを共有する場合は、PPAPにより行うのが一般的です。PPAPとはパスワード付き暗号化Zipファイルのことで、共有したいファイルをパスワード付きのZipファイルに変換していったん送信し、追って別メールでパスワードを送る方法です。

PPAPは作業の非効率さやセキュリティ上のリスクなど様々な問題点が指摘されている時代遅れな方式ですが、スプレッドシートであればファイルがクラウド上にあるため、関係者にアクセス権を付与するだけで、ファイルを簡単かつ安全に共有することができます。

利用環境に関係なくタスクを連携できる

Excelは原則としてソフトをパソコンにダウンロードしなければならず、またダウンロード先のパソコンには、ある程度のスペックが必要です。またExcelをダウンロードしたノートパソコンを携行しない限り、外出先で作業を継続することはできません。

スプレッドシートはGoogleアカウントさえあれば、デバイスやOS、ブラウザなどに関係なくシームレスに利用できるため、オフィスのデスクトップPCでファイルを編集した後、出先からスマホを使ってメンバーのコメントに返信することもできるのでタスクが停滞しません。

スプレッドシートを使い倒すポイント

便利なGoogleスプレッドシートですが、スプレッドシートを使って仕事の生産性をアップするにはいくつかコツがあります。従来のデスクトップ版Excelを使っていた時とは、仕事のやり方をガラリと変えないと、スプレッドシート本来のメリットを活かすことができません。

オンラインで使用する

Googleの拡張機能を使うことで、スプレッドシートをオフラインで使用することもできますが、オフラインにすると再びインターネットに接続するまでの間は、ファイルやシートが同期されなくなるので、その間だけ複数の版が存在することになります。

そもそも仕事はチームで行うものなので、チームメンバーの知らない別バージョンのファイルを生成してしまうことは問題です。出先のネット環境が悪いために一時的にオフラインで作業をする分には構いませんが、必要もないのにオフラインで作業することはやめましょう。

ファイルはチームで共有する

デスクトップ版”Excelあるある”ですが、自分のローカルフォルダの中で一生懸命に複雑怪奇な”作品”を作り込んでいる人がいます。こういった人は他人に自分のExcelスキルを誇示したいことがほとんどですが、チームにとって目的のズレた行為はただの迷惑でしかありません。

スプレッドシートを導入するにあたっては、ファイルやシートはチームのもの、という考え方が必要です。チームメンバーが互いの知恵を持ち寄って、チームで成果物を仕上げることに意義があるのであり、スプレッドシートは協働を促進するための手段に過ぎないのです。

ファイル名を工夫してみる

Excelはエクスプローラーからフォルダを開き、そこに格納するファイルを移動させるようになっていますが、スプレッドシートはファイル側から格納先のフォルダを指定し、そこにファイルを飛ばすこともできるため、ファイルの整理整頓がとてもスピーディです。

なお、Googleはもともと検索エンジンからスタートしましたので、作成したファイルを四次元ポケットよろしくGoogle Driveに放り込み、必要なファイルは検索してピックアップするのが本来の使い方です。ただしファイル名を誤るとロストしてしまうため注意が必要です。

PPAPしない

前章で説明済ですが、スプレッドシートをPPAPで共有するのは、まさに”アッポーペン”の所業ですのでやめましょう。最初はリンクをメールに添付してファイルに招待し、あとはスプレッドシート上でチャットやmeetを介してメンバー同士がコミュニケートするのが正解です。

スプレッドシートでは、メンバーの役割によって、閲覧のみ、コメント可、ダウンロード不可など、詳細に利用権限を設定できます。よってメンバーが退職してしまった場合には、アクセス権を解除するだけでファイルの機密を保持できるのも特筆すべきポイントです。

Googleデータポータルと併用する

冒頭の表計算ソフトの弊害3つですが、Googleデータポータルを活用することで、スプレッドシート外とのデータ連携やデータ書式の定型化、予実管理などが簡単に実行できますので、これからは表計算ソフトで分析レポートやKPIダッシュボードを作る必要はありません。

スプレッドシートならimporthtml関数を使って外部データをスクレイピングし、Query関数でデータクレンジングを行ってから、Googleデータポータルにデータを取り込むことで、複雑な関数を使わずとも、必要なKPIをグラフや表に簡単に可視化することが可能となっています。

なぜスプレッドシートは普及しないのか?

Googleスプレッドシートはこれまでのオフィスワークの常識を変える画期的なツールですが、世間ではまだまだ積極的に活用されていないのが実情です。その理由は日本のビジネスパースンの多数派であるオジサン達のパソコンスキルがあまりにも低すぎるからです。

その証拠として「ネ申エクセル」と揶揄されるセル結合だらけの資料が無くならないこと、また未だに就職に有利な資格としてMOS(マイクロソフトオフィススペシャリスト)や日商パソコン検定を取り上げるWebサイトが多いことがあげられます。

「ネ申エクセル」はデータを紙に印刷することを前提とした日本の職場特有のExcelの使い方で、スプレッドシートをはじめとするGoogleの10X(10%改善するくらいなら一気に10倍の成果を目指す)の概念とはまったく相容れない前時代的な使用法です。

MOSやPC検定が就活に有利などというのは、パソコンスキルの低いオジサンを”介護”するための人材を必要とする職場が沢山あるということです。こんな職場にスプレッドシートを導入したところで宝の持ち腐れですので、オジサン達のITリテラシーの底上げが急務でしょう。

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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