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決算書は企業経営の羅針盤
「会計はBSとPLがザックリわかるだけで十分だ」というタイトルを見て、最近巷に溢れる「人事評価はいらない!」などといった粗悪なコタツ記事かと思いきや、経営者が抑えておくべき決算書の読み方について、丁寧かつ簡潔明瞭に解説していた記事だったので安堵しました。
紹介した記事の中でも「決算書を全く理解しないまま会社を経営するのは目隠しして走るようなものです」と書いてあるとおり、決算書は経営の意思決定において重要な判断材料となるだけでなく、ゴーイングコンサーンという大航海の進路を決める重要な羅針盤でもあります。
ところでライターさんの著書「父が大学生の娘に教えるシンプルな会計」での、父と娘の会計にまつわるやりとりが微笑ましいですね。
実は私にも今春、社会人になる愛娘がいて、就職前にせめて日商簿記3級くらいは取得しておいたら?などと提案しているのですが、娘なりのプライオリティがあるのか、あまり興味を示してくれません(ちなみに父娘の仲は娘が幼少の頃から現在に至るまで極めて良好です)。
会計を学ぶメリットは大きい
経営者や経理担当者に限らず、会計すなわち複式簿記を学ぶメリットは沢山あります。
例えば営業職であれば経費に見合った収益をあげられているか把握できますし、個人投資家なら株式投資の銘柄を選定する際の指標となります。さらに適切な家計の管理においても損益計算書や貸借対照表の知識はとても有用です。
また複式簿記は世界共通のルールです。会計取引ごとに借方と貸方を一致させて会計伝票を完結させなければなりませんが、借方と貸方は原因と結果の関係でもあるので、複式簿記をマスターする過程で、論理的思考力を養うこともできます。
例えば200万円の営業車を頭金50万円、銀行借入150万円で購入したとします。この場合借方に車両運搬具200万円(資産の増加=原因)、貸方に現金預金50万円(資産の減少=結果)、借入金150万円(負債の増加=結果)というような具合です。
主な会計の種類は3つある
会計ルールには主に財務会計、税務会計、管理会計の3つがあります。細かい話をすると、私が経理マンだった時には、建設業会計、医療会計、社会福祉法人会計なども勉強しましたが、ここではオーソドックスに主要な3つの会計方式について簡単に紹介します。
まず財務会計は、投資家や金融機関などの債権者に提出する決算書を作成する際に用いられる会計ルールで、一般的に決算書といえば、財務会計により作成されたものをいいます。ちなみに財務会計の企業会計原則に規定する会計7原則はあらゆる会計ルールの基本です。
1:真実性の原則(決算書に嘘を記載するな)
企業会計原則;会計7原則より
2:正規の簿記の原則(決算書は複式簿記で作成せよ)
3:資本取引・損益取引区分の原則(出資と利益を混同するな)
4:明瞭性の原則(不明瞭な決算書を作るな)
5:継続性の原則(勘定科目や部門を頻繁に変えるな)
6:保守主義の原則(儲けは控えめに、経費は多めに見積もれ)
7:単一性の原則(二重帳簿は認めない)
税務会計は、決算結了後の税務申告の際に、税法に則り法人税や法人事業税などの納税額を計算するためのものです。財務会計との大きな違いは、利益(益金)と費用(損金)の適用範囲が異なることで、よく経費で落ちる落ちないといっているのは税務会計上の損金です。
管理会計は社内における予算実績コントロールのために用いられるものであり、自社の経営管理の目的に応じて、期間や部門、勘定科目などを任意で設定できます。私がかつて経理課長を務めていた時は、速報と確報の月2回の月次損益計算書を作成していました。
決算書はとりあえず3種類でいい
法人税の確定申告に添付する決算書といえば、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書、資本等変動計算書の4つです。
通常は税務申告書の別表とあわせて顧問税理士の先生にまとめて作成を依頼してしまうケースが多いですが、弊社は収支内容がシンプルなのと、私が元経理マンだったので、経費節約のために全て自前で申告しています。
さて、これら4つの決算書のうち、経営者や部長以上の上級管理職であれば、とりあえず貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の3つを理解できれば問題ないと思われます。ちなみに私も資本変動計算書については具体的にどう活用するのかよくわかりません。
貸借対照表は、期末時点の会社の財産の残高をまとめたものです。よって紹介した記事の解説のとおり、実現主義で会計取引を計上します。貸借対照表は借方に現在会社が保有する資産の内訳を、そして貸方にそれらの調達手段(自己資金か借入金か)を表示します。
損益計算書は、貸方に一定期間の売上高を、そして借方にその売上を得るために要した費用の内訳を表したものです。回収や支払いの有無はともかく、まず営業成績を把握したいので、発生主義で会計取引を計上することになります。営業マンには馴染みやすい決算書ですね。
前述のとおり損益計算書は発生主義、貸借対照表は実現主義となっており、売上が絶好調でも入金はずっと先なので、当面の支払い資金が足りない!などということがないように、キャッシュフロー計算書で期首と期末の現預金残高をチェックします。
決算書を眺めても何もわからない
経営に不可欠な決算書ですが、決算書は単体では使えません。これは紹介した記事では触れられていませんでしたが、そもそも決算書というものは他の決算書と比較することで、初めて自社の経営状態の良し悪しが判断できるものです。
主な比較対象のしかたを3つあげると、経営計画との比較、過年度実績との比較、同業他社との比較です。
経営計画との比較は、いわゆる予算実績コントロールです。年度の経営計画に対して、実績の進捗を照らし合わせて計画通りなのか、計画に達していないのかを判断し、早期にリカバリーを行いますが、あらかじめ決算書様式の年度予算を編成している必要があります。
過年度実績は、今年と昨年、一昨年の3年間の決算書を比較して、経営が上向いているのか、それとも下降気味なのか判断するために行います。過年度実績との比較を行うには、部門別損益がマストです。全社→部門別にブレークダウンすることで問題点を特定できます。
同業他社との比較は、業界内で自社の経営状態が優良なのか不良なのか判断するために行いますが、通常は総務省統計などを活用するため、年商規模や従業員数までピタリと一致した同業者を探すのは難しいです。そこで金額ベースではなく百分率換算して優劣を比較します。
まとめ
これまで述べてきたように、経営者であってもある程度のレベルまで決算書を理解することで、経営状態の良し悪しを判断でき、迅速かつ有効な対策を講じることができます。一方で経営者はそこまで決算書の勉強をしてられないとういうのが実情だと思われます。
本来であれば、経営者だからこそ日商簿記の2級くらいは取得して欲しいところですが、とりあえず勘定科目の内容を理解し、貸借対照表における資産と負債・自己資本の増減および損益計算書における収益と費用の増減をT字フォームで説明できるくらいにはなりたいものです。
なぜかというと、経営者は内部不正防止のためにも簿記の知識を習得する必要があるからです。特に売掛金は着服リスクが高いので、売上、請求、回収を別々の担当者とし、また決算の時に取引先から売掛残高確認書を発行してもらい売掛金元帳と突合するとよいでしょう。