就活を進学の延長線上にあるものだと信じて疑わない学生は意外と多い。筆者が採用を担当していた頃は、「事務を希望します。」という学生が一定数いたものだが、筆者が「具体的に何の事務ですか?」と聞き返すと、「事務なら何でもいいです。」と答える子が大半だった。
こちらとしては「なんでもいい。」などと言われても採用のしようが無いため、営業職や現業職も視野に入れて検討してよいか?と確認すると、決まって「それなら辞退します。」あるいは「事務だけというわけにはゆきませんか?」などといった返事がかえってきたものだ。
長年の採用経験からこういう人達の本音はわかっている。厳しい話だが、この人達にとって就職とは、小綺麗なオフィスで、一日中パソコンに”何か”を入力したり、”何か”の書類をこねくりまわして日々過ごしていれば、休暇と給料をもらえるもの、というイメージなのだ。
しかしよく考えてみてほしい。今はDXや生成AIの時代である。いつまで人力でやるかわからない単純作業のために、わざわざ人員を採用するメリットが一体どれほどあるのか。企業にとって人をひとり雇うというのは莫大なコストがかかるし、リスクも抱えることになる。
それでも企業が人を雇うのは、人材に投資し、人材を育成することによって、その人材が自社に付加価値というリターンをもたらしてくれることを期待しているからだ。慈善事業として新卒を採用しているわけではないので、リターンを生まない仕事に投資する理由がない。
人海戦術で業務を回していた昭和の時代ならいざ知らず、今どき事務職なんて死語だ…というのが筆者の考えである。「いや経理や人事だって事務職じゃないか?」という反論もあるかもしれない。しかし経理や人事の目的は専門知識を活かして経営活動を支援することだ。
たとえば経理の仕事は会社経営の進路を誤らないように、毎期の業績を決算書として可視化し、経営陣に提示することであり、その手段のひとつとして会計記帳や決算整理といった事務作業がある。まず事務作業ありきで結果論として経理の仕事が出来上がるのではない。
よって就活では「経理の仕事を希望します。」とアピールするのが正解であり、経理の仕事に就きたければ、経理スタッフを募集している企業を探して応募すべきなのだ。そしてもし応募条件に簿記の資格が必須であれば、就活に備えて簿記検定に合格しておけばよい。
このように自分の適性や興味のある職種をリサーチし、どの業界を集中的に攻めるのか絞り込み、他の就活生に競り負けないように難関資格を取得したりして差別化を図ってゆく一連のプロセスこそ、まさにマーケティングのSTPフレームワークそのものである。
そもそも就活とは自分という商品を売り込むための営業活動であり、面接は労働契約を獲得するための商談の場である。そして限られた時間と労力の中で、一連の就活を効率よく成功させるために、マーケティング分析から就活戦略を策定して自身のブランディングを行う。
余談だが、商学部なら日商簿記検定1級、法学部なら東商ビジネス実務法務検定1級、英文科なら英検1級は欲しいところ。1級なんて無理…などと思うかもしれないが、2級レベルは社会人が働きながら短期間で取得するものだから、学業が本分の学生であれば当然に1級がマスト。
もし就活前にこれといった資格を取得していないなら、2級でもいいので至急取得すべし。学生なら半年もあれば検定試験の2級くらい、2つ、3つは余裕でいけるはず。あとは面接で素材の良さ(人柄)をアピールするしかない(ただしこれは新卒時のみ許される戦術である)。
会計も法律も外国語も勉強したくないけど事務がいい…という人はお好きにどうぞ。これからはダブルワークのハイブリッドな働き方が増えてくると予想しているが、スキルの乏しい事務職の起業などほぼ無理ゲーであり、かけもちで労働力を安く切り売りするしかなくなる。
中途半端な大学や短大へ進学し、目標の定まらないままに学生時代をバイトとサークル活動で漫然と過ごし、丸腰のまま就活シーズンを迎えるような生き方はキャリア戦略としては悪手である(かくいう筆者がその失敗例だが、人生のリカバリーには死ぬほど苦労した…)。
これといって専攻したい学問が無いのなら、無駄に奨学金を背負ってまで中途半端な四大や短大などゆかない方が良い。むしろ調理師や美容師など技能系の道に進んだ方が、くだらない学歴マウントなんぞに煩わされることなく、充実した職業人生を送れるのではないか。