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労働条件明示・新たなルール 施行“前”締結は対象外 契約始期が“後”でも 厚労省(労働新聞社/2024.01.09)

雇入時の労働条件通知義務が改正になった

労働基準法では、使用者は従業員を新たに雇用する時に、あらかじめ労働基準法に規定する労働条件について、書面でもって通知しなければならないと定めており、このうち「就業の場所及び従事する業務」について、2024年4月からの法改正によって、雇用後に異動や転勤などを予定している場合には、その旨も明示することが義務付けられました。

キャリアパスを明示するということ

人事異動や転勤の予定を雇入れ時に明示するということは、個々の従業員ごとにキャリアパスを設定しておかなければならないと拡大解釈することもできます。

一方で日本では多くの企業が、良さそうな人材であればとりあえず採用し、時間をかけてジョブローテーションさせながらその人材に見合った担当や処遇を割り当てるといった、終身雇用時代のメンバーシップ型雇用と適材適所人事を未だに引きずっています。しかし、このやり方ではキャリアパスを設定することは難しいです。

明確なキャリアパスを設定するためには、まず各部署の職務分掌と担当ごとの職務要件を明確に定義し、さらに部署内の階層に応じて付与される責任と権限について明確にしておく、つまりジョブ型雇用と適所適材人事への移行が必須となります。

あわせて職務要件を満たせるように、もしくは責任と権限を適切に担うことができるように、個々の担当やポジションごとに、会社として教育訓練やカウンセリングなどの支援をどのように提供するのか、制度化しておく必要があるでしょう。

日本の伝統的人事慣行のデメリット

ジョブ型雇用と適所適材人事への移行は、単に労働基準法の改正に対応するためだけではなく、従来のメンバーシップ型雇用と適材適所人事の弊害、たとえばキーパースンに気に入られるかどうかで処遇が決まる不透明で不公平な人事、古参が仕事を選り好みしがちな権限と責任の属人化、無能な名誉管理職などといったものを一掃するよいチャンスとなります。

残念ながら他人に対する支配欲の強い、いわゆる体育会系タイプには、こういった昭和チックなメンバーシップ型雇用と適材適所人事を好む人が多いです。しかしクリアカットに機能しない日本の伝統的な人事慣行は、日本経済の労働生産性の改善を阻害し、デフレ型ブラック企業の延命を助長していることに、そろそろ多くの人に気づいて欲しいところです。

小手先の対応では人材が寄り付かなくなる

法改正によって異動や配置換えの範囲が雇入時の労働条件明示義務に追加されましたが、労使間の合意さえあれば、入社後に当初の労働条件すなわち人事異動や転勤の予定を変更することは可能です。したがって建前上は法改正に対応しているが、実態として従来どおりのメンバーシップ型雇用と適材適所人事を保持しても構いません。

しかしそれでは労働生産性改善のための根本的な解決にはなりませんし、私が新卒で就職したころと違って現在はWebや生成AIを通していくらでも情報を収集できる時代になったので、経営者と従業員との間の情報格差は無くなってきています。

つまり古い人事慣行に固執して、法改正に対して付け焼き刃的な対応しかしないような企業は、いずれ有能な人材が寄り付かなくなり、経営が行き詰まってしまうでしょう。

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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