01_雇用管理

労働契約

2024年7月15日

労働契約とは?

契約書に押印しているイラスト

事業主が自社の営業活動を行うために労働者を雇用すると、事業主と労働者との間で労働契約が成立し、使用者には労働者から労働サービスを提供してもらう権利と賃金を支払う義務が、また労働者には賃金を受け取る権利と労働サービスを提供する義務がそれぞれ生じます。

契約のルールは民法に定められており、民法では契約自由(個人間の契約は当事者が合意すれば自由に決めてよい)を原則としていますが、労働契約に関しては、事業主の立場が圧倒的に強いため、労働者にとって著しく不利な契約を一方的に押し付けられる恐れがあります。

そこで労働基準法などの各種労働法令において、労働契約の基本的なルールや、使用者に対する禁止事項、遵守事項などを定めています。この記事では、それらの中でも特に注意すべき主なものについて紹介してゆきます。

ココがポイント

事業主とは法人や個人事業者などの経営主体そのものを指し、労働契約は事業主と個々の労働者との間で締結されます。使用者は事業主のために労働者を管理監督する経営者や店長、売場チーフなどをいいます。

労働契約のルール

労働契約の5つの原則

握手している二人の男性社員のイラスト

労働契約法では、労働契約の締結に際し、事業主と労働者にそれぞれ次の5つの基本原則の履行を義務付けています。

  1. 労使対等の原則
    労働条件は労使が対等の立場で合意した上で決めること
  2. 均等考慮の原則
    労働条件は労使双方のバランスを考慮して決めること
  3. 仕事と生活の調和の原則
    労働条件は労使双方のワークライフバランスに配慮したものであること
  4. 信義誠実の原則
    労使双方は労働契約の内容を信義に従い誠実に履行すること
  5. 権利濫用禁止の原則
    労使双方は労働契約に定めた権利を濫用してはならない

労働契約の禁止事項

禁止マークのイラスト

労働基準法では、労働契約の内容について、禁止事項をいくつか定めています。これらは労働契約法の5つの原則とは異なり、違反者には懲役刑や罰金刑が科されるので要注意です。

  • 賠償予定の禁止
    「お店に迷惑をかけたら◯◯万円徴収する」などと労働契約の中にあらかじめ損害賠償額を規定しておくことは禁止されています(労働者の故意によって会社が実害を被った場合に、その額を弁償するという誓約条項を設けることは問題ありません)。
  • 前借金相殺の禁止
    事業主が労働者を雇った際に多額のお金を貸付け、労働によって借金を帳消しにさせるような契約を禁止しています(労働契約とは関係なく、金銭消費貸借契約にもとづき、福利厚生の一環として行う低利の社内貸付制度であれば可能です)。
  • 強制貯蓄の禁止
    労働契約と引き換えに、事業主が労働者に対して社内預金を強要することは禁止されています(従業員が任意で利用できる制度で、労使協定を締結して労働基準監督署に届出し、賃金支払確保法の保全措置を講じている社内預金なら可能です)。
  • 性別による賃金差別の禁止
    女性であることを理由に、同じ職種や同じ職位の男性に比べて基本給や手当を低く設定したり、逆に女性社員が寿退社をした場合に退職金を加算する(=退職を促す)ことなどを禁止しています。
  • 有期労働契約の上限
    有期労働契約は、原則として3年以内としなければなりません。なお労働基準法施行規則に定める高度専門職と満60歳以上の労働者については、5年間を上限とする有期雇用契約を締結することができます。
  • 未成年者の就業制限
    映画の子役を除いて中学生以下の児童の就業は禁止されています。また高校生以上については原則として時間外労働、休日出勤、深夜勤務(16歳以上の男子を除く)は禁止、小売業の休憩時間の特例(一斉付与の例外)は労使協定が必要です。

ココがポイント

実際の損害を賠償させる場合は、民法の「報償責任の原則(事業主は労働者を働かせることで利益を得ている以上、労働者のミスによる損失も当然に負担すべき)」により、故意または重過失による場合に限られるとされています。

その他留意すべき法律

働く障害者

労働契約法や労働基準法以外にも、労働契約の内容を決める際に留意すべき法令があります。その中でも一般的な小売業に関連しそうなものをいくつか紹介します。

  • 男女雇用機会均等法
    性別を理由に、雇用形態、職種、職位、昇進、降格、教育訓練、福利厚生、退職などについて、差別的な労働条件を設けることを禁止しています。
  • 障害者雇用促進法
    障害者であることを理由に、賃金、教育訓練、福利厚生その他あらゆる労働条件について、不合理な差別を設けることを禁止しています。
  • 高年齢者雇用安定法
    60歳未満の定年制を禁止。定年を65歳未満とする場合は、①65歳までの定年の引き上げ、②65歳までの雇用継続、③定年制の廃止のいずれかを義務付けています。
  • パートタイム・有期雇用労働法
    パートタイマーや契約社員の待遇に正社員と不合理な相違を設けたり、正社員と同じ仕事を担当しているのに給与や賞与その他待遇を差別することを禁止してます。
  • 労働組合法
    企業別労働組合のある企業において、労働組合に加入しないことを条件とする労働契約(黄犬契約)は、労働組合法で不当労働行為として禁止されています。
  • 最低賃金法
    最低賃金法に定める最低賃金を下回る給与条件の労働契約は無効となります。最低賃金は都道府県ごとに時給単位で設定され、毎年10月に更新されます。

労働条件通知書

労働条件通知書のイラスト

労働契約書と労働条件通知書

民法では契約は口頭だけで成立するとしています。ゆえに労働基準法においても、労働契約書の作成については規定していません。しかし実際には、事後のトラブル予防のために、労働契約に限らず契約書を作成することが一般的です。

労働基準法では、使用者に対し、労働者を雇用する際に、労働条件を明示することを義務付けており、絶対的明示事項については書面で明示する義務を、また労働契約法では労働条件の内容全般について書面で明示する努力義務を定めています。

実務では、労働契約書を作成する代わりに、労働契約の基本原則を就業規則に定め、個別の労働条件については、労働条件通知書に明記してそれぞれ交付するケースが多いようです。

労働条件通知書の記載事項

労働条件通知書には、必ず書面でもって明示しなければならない絶対的明示事項と、その事業所において特定の労働条件を設ける場合には、書面もしくは口頭で明示しなければならない相対的明示事項があります。

<絶対的明示事項>

  • 労働契約の期間(無期雇用の場合はその旨を明示し、有期雇用については通算する契約期間に上限を設ける場合にはその旨を明示)
  • 有期労働契約の場合は契約更新の条件(更新回数に上限がある場合はその旨を明示、無期雇用転換申込権が発生する場合は申込方法と転換後の労働条件を明示)
  • 就労する場所と就労する業務の内容(人事異動などによって配属や担当を変更する予定があればその範囲も明示)
  • 始業と終業の時刻および休憩時間、残業および休日出勤の有無
  • 休日と休暇の種類および付与される日数と時期
  • 給与額の決め方、給与計算の方法と支給日
  • 昇給の有無(昇給があるならその時期)
  • 退職時に関する事項、解雇となる事由

<相対的明示事項>

  • 退職金の支給対象者と支給時期や計算方法および支給方法
  • 賞与等の支給対象者と支給時期や計算方法および支給方法
  • 労働者が費用を負担する食事や作業用品などに関する事項
  • 安全および衛生に関する事項
  • 職業訓練の実施に関する事項
  • 業務災害時の補償および私傷病に対する扶助に関する事項
  • 表彰および懲戒に関する事項
  • 休職に関する事項

またパートタイム・有期雇用労働法では、パートタイマーや契約社員を雇用する際に、労働基準法の労働条件通知書に特定事項を追記した上で、雇い入れようとするパートタイマーや契約社員に交付しなければならない旨を定めています。

<特定事項>

  • 昇給の有無
  • 退職手当の有無
  • 賞与の有無
  • 雇用改善のための社内相談窓口

労働契約の開始から終了まで

労働契約の開始

労働契約の開始日は雇入れの日です。ただし社会保険制度が月の初日から末日までを保険料や年金給付の計算単位としていることもあり、月給制の社会保険の加入者については、特段の支障の無い限り、月の初日(1日付)を労働契約の開始日としたほうがよいでしょう。

労働契約の変更

労働契約の変更は、就業規則を下回らない範囲であれば当事者の自由ですが、就業規則を労働者の不利益に変更することは、相応の合理性が無い限り認められません。合理性の有無は、変更の必要性や不利益の程度、労働者との協議の内容により、労働基準監督書が判断します。

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労働契約の更新

労働契約法では、事業主がいつでも人員整理できるよう、短期間の有期労働契約を何度も反復更新するような雇用を認めていません。また労働基準法では、3回以上の更新または1年を超えて継続雇用された労働者を雇い止めしようする場合は解雇手続きを要するとしています。

労働契約の終了

労働契約が終了するパターンには、就業規則の定めにもとづいて終了するケースと、労働契約の当事者からの申し出によって労働契約を解除するケースがあります。

<就業規則による労働契約の終了>

  • 定年退職
    労働者が定年年齢に達した日をもって退職とする。なお社会保険制度が月の初日から末日までを単位として保険料および保険給付の計算を行うため、通常は定年に達した日の属する月の末日をもって退職とする。
  • 休職期間満了による自然退職
    労働者が業務外の傷病によって長期休職している場合に、就業規則に定める休職期間を満了し、復職要件を満たせない(今後も労働サービスを提供することが不可能)場合は退職とする。
  • 打ち切り補償の支払いによる退職
    労働者の業務災害による休職期間が3年を超えた場合に、平均賃金の1,200日分の打ち切り補償を行うことで労働契約を終了することができる。なお打ち切り補償に代えて労災保険の療養補償給付や傷病補償年金を受給できる場合も可。

<労働契約の解除による労働契約の終了>

  • 自己都合退職
    無期雇用の労働者は、労働契約を終了しようとする日の14日前に、使用者に対して退職する旨を通知すれば、営業損失などの賠償責任を負うこと無く労働契約を解除できる。なお有期雇用の場合は、雇入れから1年を経過している必要がある。
  • 労働契約の即時解除
    入社前に提示された労働条件と、実際の労働条件が著しく相違する場合には、労働者は即時に労働条件を解除することができる。なお未成年のアルバイトの場合には、親が本人に代わって労働契約を解除することができる。
  • 解雇
    労働者が就業規則に定める解雇事由に該当した場合に、使用者は所轄の労働基準監督署の許可を得て、労働者に対して30日前の解雇予告もしくは30日分の解雇予告手当の支払いを行うことで、労働者を解雇できる。

ココがポイント

解雇はあらかじめ就業規則に解雇事由を明記しておくこと、また全従業員に対して解雇の基準と解雇に至る手続きを周知しておく必要があります。また解雇が使用者側の権利濫用と認められる場合には、解雇は無効となります。

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  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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