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株式会社アクセスグループ・ホールディングスが、「採用管理システムsonar ATS」を導入(PR Times/2024.01.18)

採用管理システムとは?

sonarATSはThinkings株式会社の開発した採用管理システムです。ATS(Applicant Tracking System)とは採用管理システムのことで、求人広告から内定通知までの一連の採用作業をシステム上で管理できる、いわゆるHRテック製品のひとつです。

ATSの主な特徴は、求人情報サイトや人材紹介会社に求人の掲載を依頼したり、応募者の書類選考を行ったり、さらには面接の案内や採否の通知、採用内定者に対する入社案内の連絡など、一連の採用選考にかかる作業を、全てATS上で一元的に処理することができることです。

採用管理システムを導入するメリット

私は3年ほど前にATSの導入に携わった経験があるのですが、当時の機能にもとづいて、採用管理システム(以下ATS)を導入する主なメリットについて5つほど紹介したいと思います。

ペーパーレス化と個人情報漏洩リスクの低減

ATSはシステム上で採用選考を完結させるツールなので、紙の履歴書などをやりとりすることはありません。よって面接案内や不採用時の応募書類の返却など、いちいち送り状を作成し、封筒に切手を貼って郵送するといった事務作業が不要となります。

また応募書類はPDFでの受付のみとなるため、関係者に応募書類のコピーを配布したために、関係者の中の誰かが、誤って応募書類を何かの書類にはさんだまま社外に持ち出し、個人情報が流出してしまった、というようなヒューマンエラーも予防できます。

求人情報の一元管理

求人情報サイトや人材紹介会社に求人を依頼する場合、従来はメディアごと、業者ごとに求人広告を出稿しなければならず、依頼先のメディアや業者が増えると、求人内容の変更や求人の取り下げ、再出稿などの作業がとても煩雑でした。

ATSを利用することで、ATSに登録したメディアや業者に対し、求人の出稿や訂正、取り下げなどの連絡を一斉送信することができるようになるため、採用担当者がひとりであっても、たくさんの求人サービスを活用することが可能になります。

人材紹介サービスの管理の一元化

多くの人材紹介サービスは、採用に至った場合に、はじめて紹介料が発生する仕組みなので、求人側としてはなるべく多くの人材紹介サービスを利用したいのですが、あちこちの業者から応募者の紹介があると(心情的にはありがたいのですが)選考管理が煩雑になります。

そこでATSを導入して一元的に管理することで、どの応募者が、どの人材紹介会社からの推薦なのか、一目瞭然に把握することができるため、人材紹介会社から「先日の応募者の件、その後どうなりました?」などといった問い合わせを減らすことができます。

採用選考フローの可視化

多くの企業では採用部門の課長が書類選考と一次面接を行い、部長が最終選考を行うといったケースが多いと思われますが、ATSなら各採用部門の各階層における選考状況などを、経営者や人事部が画面上で俯瞰することができるため、採用ダッシュボードとして活用できます。

採用部門の関係者にATSの閲覧権限を付与すれば、「ウチの求人広告の応募状況はどうなんだ?」とか「先日応募してきた◯◯さんの選考はどこで止まっているんだ?」などといった問い合わせに対する確認作業や報告なども不要となるため、事務効率がアップします。

採用ランディングページの作成

sonarATSには採用ランディングページの作成機能も備わっています。採用ランディングページとはエントリーページのようなものですが、この機能を利用することで、自社のWebサイトがチープであったとしても、とりあえず採用ページだけは見栄えを良くすることができます。

また採用ランディングページはATSと連携しているので、採用ランディングページに求人情報と応募ボタンさえ設置しておけば、求人情報サイトや人材紹介会社を介さずにダイレクトにエントリーを受け付けし、そのまま社内の選考フローに誘導することも可能となります。

採用管理システムを導入するポイント

一見万能に見えるATSですが、システムを導入する前に自社側の下準備をきちんと行っておかないと、せっかくATSを購入しても自社の採用選考フローをシステムに実装できない、といった事態に陥るので注意が必要です。そこで主なポイントをいくつか列挙しておきます。

具体的な採用計画を立案する

経営トップの思いつきで採用を行っている、経営陣と現場との意思統一ができていない、各部署から人事部に対して突発的に求人を依頼してくるなど、全社的に採用計画が策定されていない組織では、その都度、ATSのマスター変更が必要となり、かえって事務効率が低下します。

選考ルールを全社で統一する

求人要件に合致した人材が応募してきても、現場の責任者が自己保身のために有能な人材を不採用にしてしまうことは珍しくありませんが、ATSではワンクリックで処理できてしまうため、あらかじめ選考ルールを決めておき、社内の採用関係者と共有しておく必要があります。

社内の役割と権限を明確にする

ATSを導入する際は、応募から内定までのステップごとに、誰が何を担当するのかをマスターに登録しなければなりませんので、例えば採用選考規定を作成し、採用の決定権者や人事部と採用部門との役割分担などを制度化しておくと、スムーズにシステムを構築できます。

人材会社と事前に連携しておく

大手の求人情報サイトや人材紹介会社は自前の求人申込フォーマットをもっていることが一般的です。ATSを導入した場合はATSを介してこれらの業者に求人依頼することになりますが、業者側で求人情報を自社様式に転記する手間が生じるため、事前に了解を得ておきましょう。

求人内容に応じてATSを使い分ける

地域や職種によっては求人誌のほうが効率的に人材を採用できるケースも少なくありません。こんな場合、管理職や専門職の採用は人事部がATSで管理し、販売および後方スタッフは、従来の紙媒体を介して店舗側で採用を行う、といったように使い分けるのが賢明でしょう。

ATSの活用で採用の常識が変わる

ダイレクトソーシング時代の到来

かつての採用は母集団形成方式が主流で、求人広告を出して応募者を集め、求人側が一方的に応募者を選考していましたが、現在はダイレクトソーシングといって、求人側と求職側がお互いにじっくりと相性を確認しながら内定に至る採用スタイルにシフトしてきています。

ダイレクトソーシングでは、求職者は就活フェアに参加したり、求人情報を検索したりするのではなく、興味のある企業のコーポレートサイトやSNSをこまめにチェックして、アプローチする機会を探っていることが多いようです(つまり日頃の経営姿勢が見られています)。

求人企業と求職者を直結する

そこで自社のホームページのSEO対策を強化したり、コーポレートアカウントのSNSのフォロワー数を増やしたりすることで、潜在的な求職者を自社の採用ランディングページに流入させ、求人広告に頼らずとも、自前でダイレクトソーシングを行うことができるようになります。

最新の仕様はわかりませんが、2022年頃のsonarATSにはSnipingというリスティング広告を配信できるオプションもありました。これは簡単にいえば、採用したい人材が頻繁に検索すると思われるキーワードに連動させて、ターゲット層のブラウザに自社広告を表示する機能です。

ATSは極めて効果的な人事DX

どこか1社に求人を掲載した途端に、あちこちの人材紹介会社から連日のように営業電話がかかってきてウンザリした経験のある採用担当者は少なくないでしょう。これを逆手にとってATS連携を条件に、人材紹介会社を片っ端からATSに登録してしまうのも一考の価値ありです。

従来の人海戦術に頼った採用のやり方では、ダイレクトソーシングやリスティング広告、また全国各地の人材紹介会社との連携は物理的に困難でした。しかしATSを導入することで、採用担当者が1名であっても、広範なエリアにきめこまかいリクルーティングを実施できます。

少し応用を効かせるだけで採用の常識を覆してしまうくらい威力のあるATSですが、導入企業はまだ少ないようです。企業同士の採用競争が激化している昨今において、ATSを駆使して新たな採用スキームを確立できた企業が今後の人材争奪戦を制するのは間違いありません。

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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