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003(制度概要)_社会保険

社会保険料の徴収と納付 / 標準報酬の決定と改定 / 同月得喪の処理

経営者や人事部門にとって、職員の社会保険料(健康保険・厚生年金保険)の適正な徴収と納付は、労務管理上の最重要事項の一つです。本記事では、社会保険料の決定や改定の仕組み、実務において間違いやすい「同月得喪」の取り扱いまで、詳しく解説します。

社会保険料の構成

社会保険料は5つある

社会保険料は健康保険料と厚生年金保険料の2つが基本です。介護保険料と子ども・子育て支援金は健康保険料、子ども・子育て拠出金は厚生年金保険と一緒にそれぞれ徴収されます。保険料は労使折半で負担しますが、子ども・子育て拠出金は事業主の全額負担です。

  • 健康保険料:労働者やその家族が、業務外の病気、ケガ、出産、死亡といった事態に直面した際、必要な医療サービスや手当金を支給し、生活の安定を図ることを目的としています。厚生労働省の所轄で、事務は協会けんぽや健康保険組合が行います。
  • 厚生年金保険料:会社員などが高齢や障害、あるいは死亡したときに、本人やその遺族に年金や一時金を支給し、長期的な生活の安定と福祉の向上を図ることを目的としています。所管官庁は厚生労働省で、事務は日本年金機構が担っています。
  • 介護保険料:加齢に伴う脳血管疾患や認知症などにより、日常生活で介護や支援が必要となった高齢者に対し、必要な介護サービスを社会全体で支え、自立を支援することを目的としています。厚生労働省管掌のもと、市区町村および特別区が保険者となります。
  • 子ども・子育て支援金:少子化対策の一環として2026年4月から導入されました。社会全体で子育て世帯を支えるため、児童手当の拡充や妊産婦への支援、保育サービスの充実などの財源に充当します。こども家庭庁所管で、徴収事務は医療保険者が代行します。
  • 子ども・子育て拠出金:子育て支援を社会全体で支えるため、事業主が全額負担する拠出金です。児童手当の支給や企業主導型保育事業などの財源に充てることを目的としています。主務官庁はこども家庭庁で、徴収事務は日本年金機構が行います。

標準報酬月額

社会保険料を計算する際、毎月の実際の給与額(報酬)に直接保険料率を乗じる方法は、1円単位の変動があるため事務が極めて煩雑になります。そこで、一定の幅で区分した「標準報酬月額」という仮の月給ランクを設定し、これに保険料率を乗じて保険料を算出します。

標準報酬月額にもとづく保険料の算定と徴収は、以下において労働保険(労災・雇用)と大きく異なっています。

  • 労働保険:事業場全体で1年間に支給した賃金総額に保険料率を乗じ、1年分を一括納付します。なお「賃金」は労働保険の概念で、労働者のみが対象です。
  • 社会保険:被保険者ごとの標準報酬月額をもとに個別に保険料を計算し、毎月納付します。社会保険は法人の役員も加入するため「報酬」という言葉を用います。

なお、健康保険(全50等級=139万円)と厚生年金保険(全32等級=65万円)では標準報酬月額の等級区分や上限額が異なる点にも留意が必要です。

標準賞与額

賞与についても保険料が発生しますが、こちらは標準報酬月額のような等級表はありません。月額報酬に比べて支給頻度が少ないため、個々の職員に支給した賞与額から1,000円未満を切り捨てた額を「標準賞与額」とし、これに保険料率を乗じます。

なお標準賞与額にも上限があり、健康保険料(年間573万円)と厚生年金保険料(1回あたり150万円)とで上限の額が異なります。賞与を支給した場合、支給日から5日以内に「被保険者賞与支払届」を日本年金機構(または健保組合)に提出しなければなりません。

平成15年3月まで賞与から社会保険料は徴収されませんでした。そのため月給を低く抑え、賞与を高くすることで社会保険料を回避する手法が横行しましたが、平成15年4月に「総報酬制」が導入されると、賞与を使った保険料回避スキームは概ね使えなくなりました。

社会保険料の徴収と納付

社会保険料は月単位で徴収する

社会保険料は月単位で発生します。したがって、月の途中で入職したからといって、その月の保険料を日割り計算して徴収・納付することはありません。なお、保険料が発生するかどうかの判断基準は「月末時点の被保険者資格の有無」です。

月の末日に在籍していれば、その月の社会保険料全額を負担する義務が生じます。一方、月末前に退職すれば、その月の社会保険料は徴収されません。もっとも我が国は国民皆保険制度なので、再就職せず月末を迎えても、代わりに国民健康保険と国民年金の保険料を負担します。

社会保険料は翌月徴収・納付が基本

社会保険料は原則として労使折半で負担しますが、保険料の納付義務を負っているのは事業主です。事業主は、労使の負担分を合算して翌月末日までに日本年金機構等へ納付しなければならず、職員が長期休業している場合は保険料を立て替えねばなりません。

実務上の徴収タイミングについては、法令にもとづき「翌月支給の給与から前月分の保険料を控除する」ことが認められています。月給制の場合、残業代を除き当月末日〆切、当月25日支給が一般的なので、翌月に支給する給与から控除するしかないからです。

なお、事業主負担分は、会計規則の発生主義にもとづき当月の月次損益に法定福利費(相手科目は未払費用)として、また翌月の給与から控除した本人負担分は職員預り金としてそれぞれ計上し、月末に社会保険料を納付した時に、未払費用と職員預り金を精算します。

標準報酬月額の決めかた

標準報酬月額を決定するタイミング

標準報酬月額は次の5つのタイミングで決定し、見直し(改定)を行ないます。

  1. 資格取得時決定:採用時
  2. 定時決定(算定基礎届):毎年1回(7月)
  3. 随時改定(月額変更届):昇給・降給など大幅な変動時
  4. 産前産後・育児休業終了時の改定:休業明けの時短勤務等による報酬低下時
  5. 60歳以後の再雇用時の改定:定年再雇用時

取得時決定

本記事では、標準報酬月額の基本たる取得時決定と、近年、取り扱いが一般的になってきた定年再雇用時の改定について解説します。まず取得時決定ですが、資格取得届を行う際に、雇用契約上の給与条件にもとづいて標準報酬月額を見積もり、標準報酬月額を決めます。

  • 基本給、役職手当、資格手当、家族手当、住宅手当など
  • 通勤手当
  • 残業手当(見込み額)
  • 現物給与(食事や社宅の提供がある場合など)

2026年4月の法改正により、被扶養者の判定(収入要件)において、残業代を除外することになりましたが、被保険者の取得時決定については、残業手当は除外されません。被扶養者要件の改正の背景には、働き控えと労働力不足を解消するという政策的意図があるためです。

定年再雇用時の改定

定年を迎えた職員を1日の空白もなく引き続き再雇用する場合、本来であれば「事実上の使用関係が継続している」ため、被保険者資格を継続し(=被保険者資格を喪失せず)、随時改定(給与改定から4ヶ月目に標準報酬月額を改定)を待つ必要があります。

しかし、一般的には再雇用に伴い給与が大幅にダウンすることが多いため、本人の保険料負担を即座に軽減できるよう、「同日付の資格喪失届と取得届」を提出することで、再雇用した月から新しい給与に基づいた標準報酬月額に改定できる特例が認められています。

同月得喪

同月得喪とは?

「同月得喪」とは、社会保険の資格を取得した同じ月に、その資格を喪失することを指します。例えば、採用されたものの職場環境が合わず、入職した数日後に退職してしまったようなケースで、すぐに再就職先がみつかる医療職にありがちです(経験者談)。

なお「月の末日に退職した」場合は同月得喪にはなりません。それは退職日までは被保険者であり、退職日の翌日が資格喪失日となるからです。したがって退職月の末日まで在籍した場合は、原則通りその月の社会保険料が発生します。

同月得喪時の取り扱い

社労士でも正しく理解していない方が少くないのですが、同月得喪の場合、健康保険は保険料が発生し、厚生年金保険は保険料が発生しません。

健康保険の場合、退職までの間に保険給付(医療機関での受診)を受けている可能性があるため、たとえ1日であっても1ヶ月分の保険料が発生します。もし同月内に再就職して社会保険に加入すると、その月は前職と現職の両方で、それぞれ健康保険料を負担します。

厚生年金保険の保険給付(老齢年金等)は、多くの人にとって先の話ですので、原則通り月末の被保険者資格によって判断します。ただし保険料の徴収事務は健康保険と一体的に行なわれているため、厚生年金保険料もいったん徴収・納付することになっています。

そして退職者の月末時点の保険種別(再就職=厚生年金保険、無職=国民年金)に応じて保険料が決定され、別途徴収されます。いったん納付した保険料は、前職の事業主に還付(あるいは次月納付する社会保険料に充当)され、事業主は本人負担分を退職者に返金します。

一般的に社会保険料を取り扱うのは給与計算担当者ですが、労働保険との徴収・納付の違い、また原則(月末の被保険者資格)と例外(同月得喪)をしっかり理解しておくことで、突発的な退職に対しても、精神的に余裕をもって対処することができます。

本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


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  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/人事コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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