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003(制度概要)_社会保険

公的医療保険の保険給付の内訳~健保と国保、労災との違いを比較

健康保険は被用者(サラリーマン等)を対象とした医療保険であり、我が国の医療保障の中核となる制度です。健康保険の主たる保険給付や国民健康保険あるいは労災保険との相違を抑えておくことは、自院において職員の社会保険事務を円滑に進めるうえで極めて有効です。

健康保険の保険給付

健康保険の主な保険給付(被保険者分)

健康保険は、被保険者の業務外の事由による疾病、負傷、死亡、または出産に関して保険給付を行います。その主なものを列挙すると次のとおりです。

  • 療養の給付:診察、薬剤・治療材料の支給、処置、手術、入院、訪問看護など、治療に必要な医療サービスを現物給付として受けられます。
  • 入院時食事療養費:入院中の食事代について、標準負担額を除いた額が給付されます。自己負担額は入院患者の収入や所得に応じて3段階で設定されています。
  • 入院時生活療養費:65歳以上の者が療養病床に入院した際、食費や居住費について給付されます。自己負担額は介護保険とのバランスを考慮して決定されます。
  • 高額療養費:同一月の一部負担金が自己負担限度額を超えた場合、その超えた額が支給されます。なお入院時食事療養費や入院時生活療養費は対象外です。
  • 保険外併用療養費:先進医療(評価療養)や差額ベッド代(選定療養)など、保険外診療を併用した際に、保険診療部分について給付されます。
  • 訪問看護療養費:在宅で看護師等から療養上の世話を受けた際、その費用が給付されます。ちなみに医師の往診は、療養の給付として扱われます。
  • 移送費:移動が困難な患者が、医師の指示でタクシーなどを利用して適切な医療機関に移送された場合に支給されます(救急車の搬送費ではありません)。
  • 傷病手当金:療養のため労務不能となり、給与が支払われない場合に、標準報酬月額を日額換算した額の3分の2相当が最長1年6ヶ月間支給されます。
  • 出産手当金:出産のため休業した期間(労働基準法の産前産後休業=産前42日、産後56日)に対し、傷病手当金と同じ計算の額が支給されます。
  • 出産育児一時金:出産した際、1児につき原則48万8千円(産科医療補償制度に加入している病院で出産した場合は50万円)が支給されます。

健康保険の主な保険給付(被扶養者分)

被扶養者の保険事故(負傷や疾病の罹患)に対しても、被保険者への給付として「家族療養費」等が行われます。家族療養費は被保険者の「療養の給付」等に相当する医療サービス(現物給付)で、自己負担割合は被保険者と同様に医療費の3割〜2割です。

その他には家族訪問看護療養費、家族移送費、家族出産育児一時金、家族埋葬料(一律5万円)などがありますが、被扶養者は被保険者により生計を維持されているため、傷病手当金および出産手当金といった所得保障のための現金給付はありません。

健康保険と国民健康保険

国民健康保険(市町村国保)

国民健康保険(国保)は自営業者や無職者等を対象とする地域保険です。医療保険なので健康保険(被用者保険)と保険給付の内容はほぼ同じですが、被保険者の休業に対する取扱において、被用者保険と制度上の違いがいくつか見られます。

傷病手当金や出産手当金は、国保では「任意給付」(条例により実施可能)とされており、多くの市町村国保では実施されていません。これは国保の加入者に固定的な賃金労働者が少なく、労務不能による経済的損失の算定や確認が困難であるためです。

また健康保険には被扶養者の仕組み(家族療養費等)がありますが、国保にはありません。世帯員全員が個別に被保険者となり、それぞれの人数や所得に応じて保険料(税)が算定されます。なお加入は個別ですが、世帯主は全ての世帯員の保険料を納付する義務があります。

北海道歯科医師会国保(国保組合)

北海道歯科医師国民健康保険組合は、同種の業務に従事する者で組織される職域の保険者であり、このような形態を市町村国保と区別して国保組合といいます。北海道歯科医師会国保組合は、北海道内の歯科医師(第1種)とその従業員(第2種)およびその世帯員を対象とします。

保険料率は市町村国保と異なり、組合独自の規約で決定できます。具体的には、独自の保険給付として、第1種組合員に次のような制度を設けています。

  • 支給額: 入院1日につき4,000円
  • 支給期間: 同一年度内の入院につき120日まで
  • 要件:入院による休業
  • 支給額: 1児につき200,000円
  • 支給期間:休業日数にかかわらず一括支給
  • 要件: 出産による休業

健康保険と労災保険

最大の違いは業務上か業務外か

健康保険は「業務外(私傷病)」、労災保険は「業務上および通勤時」が対象です。また健康保険は原則として3割の一部負担金がありますが、労災保険(療養補償給付・療養給付)は全額が保険給付されるため、本人負担はありません。

なお被保険者が5人未満の法人の役員で、従業員と類似の業務に従事する者であれば、業務上の傷病に対して健康保険で受診することができます。ただし一部負担金が生じるため、労災保険の特別加入(第一種特別加入)を検討した方がよいでしょう。

業務上か業務外か判断つかないとき

労災保険は、労災指定病院等を受診した場合に「療養の給付」として無料で治療を受けられますが、地域に労災指定病院がなく、一刻の猶予も許されない状況により通常の医療機関を受診した場合は、医療費の全額を立替払いし、後日に還付(療養の費用の支給)請求します。

傷病の原因が業務上か業務外か判断できない場合は、いったん健康保険で医療機関を受診します(事務手続より受診が優先です!)。その後、もし労災認定された場合は、医療機関に保険負担分を返金し、労働基準監督署を通じて労災保険に還付請求します。

傷病による休業保障(補償)

健康保険の傷病手当金も労災保険の休業補償給付も、療養のために就労できない期間の経済的保障(補償)を目的としており、就労不能を確認するために、どちらの制度も3日間の待機期間を設けていますが、前者は「連続して」、後者は「通算して」の違いがあります。

3日間の待機期間中は、傷病手当金も休業補償給付も支給されませんが、業務災害の場合は労働基準法の災害補償責任にもとづき、事業主が平均賃金の6割以上の休業補償を行う義務があります。なお休業補償は事業主都合の休業時に支払う休業手当とは似て非なるものです。

給付額は、傷病手当金が標準報酬月額を日額換算した額の3分の2(67%)、一方の休業補償給付は平均賃金の60%と若干少なめですが、労災保険の被災労働者等援護事業から休業特別支給金が加算されるため、実質的に平均賃金の80%が補償されることになります。

出産・育児休業に対する保障

出産手当金は、子を出産する女性の被保険者が、労働基準法に定める産前産後休業を行った場合に、産休中の経済的保障を目的として、健康保険から給付されます。女性の被保険者が対象なので、法人の女性役員にも支給されますが、配偶者が出産した男性は対象外です。

育児休業給付金は、1歳前の子を養育する労働者が、育児・介護休業法にもとづき育児休業をした場合に、育児休業中の経済的保障を目的として、雇用保険から給付されます。配偶者が出産した男性労働者にも支給されますが、役員など労働者でない者は対象外です。

補足すると、子を出産した女性の被保険者は、産後休業が終了した翌日から育児休業を開始できるため、産後休業中に出産手当金と育児休業給付金を重複して受給することはできません。また産後8週間はそもそも就労禁止ですので、育児休業を選択することもできません。

健康保険と診療報酬制度

保険給付の費用負担のしくみ

療養の給付の対価は、厚生労働大臣が定める診療報酬点数表にもとづき、1点=10円で算出されます。歯科では、初診料・再診料(基本診療料)のほか、検査、画像診断、抜歯等の処置、手術、歯冠修復・欠損補綴(特掲診療料)などが細かく定められています。

これら医療サービスの費用に薬剤費や診療材料費を加えた合計が医療費となり、このうち3割~2割を一部負担金として被保険者から徴収し、残りの7割~8割を翌月10日までに支払基金や国保連を通して保険者に請求します(審査が通れば請求した翌月に入金されます)。

入院費と人事管理は表裏一体

入院費も療養の給付のひとつですが、病院においてはどの入院基本料を算定するかによって、医業収入(診療報酬)と医業費用(人件費)に大きく影響します。入院基本料は、病院機能と人員配置、入院日数により、次のような構成となっています。

病院機能主な病棟配置基準入院日数病状
高度急性期ICU(集中治療室)・HCU等2:1, 4:114日以内(ICU等)生命の危機に瀕した状態
急性期一般病棟7:1, 10:114〜21日以内集中的な治療を要する状態
亜急性期地域包括ケア病棟13:1最大60日退院にはまだ不安が残る状態
回復期回復期リハ病棟13:1, 15:160〜180日身体に障害が残っている状態
慢性期療養病棟20:1, 25:1制限なし介護より医療依存度が高い状態

看護配置基準の7:1とは、入院患者7人に対し、看護師を1人配置するという意味です。つまり数字が小さくなるにつれて、より多くの看護師を配置しなければなりません。その分、高い入院基本料が設定されていますが、一方で入院基本料を算定できる日数は短くなります。

病院が適正な収益を維持するためには、患者紹介率(入院=ベッドを埋める)と逆紹介率(転院=地域での分業)を高め、適切な入院基本料を算定することが重要です。これには術後リハや回復リハ、退院調整など、看護職以外の医療職とのチームプレーが不可欠です。

看護配置基準のチェックに際し、看護師の常勤換算ルールと様式9(72時間ルール)も知っておく必要があります。また適切なベッドコントロールのために、PTやOT、MSWなど、多様な職種を含めた総合的な視点から、自院の人員配置と採用計画を検討する必要があります。

本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


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  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/人事コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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