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003(制度概要)_社会保険

健康保険の適用事業所と被保険者の要件、事業形態によるちがい

本記事では、歯科クリニックの経営者が、自院の労務管理を適切に行うためにおさえておくべき健康保険(被用者保険)制度の中でも最も基本的な事項となる適用事業所および被保険者資格の要件について、医療法人と個人開業医の違いを中心にそれぞれ解説します。

健康保険の適用事業所

強制適用事業所

健康保険が法律上当然に適用される事業所を強制適用事業所といい、自院が医療法人かあるいは個人開業かによって、それぞれ次のような取り扱いとなります。

  • 医療法人:医療法人として開設された医療機関は、常時1人でも従業員を使用すれば、業種に関わらず強制適用となります(訪問診療専業の一人法人も対象)。
  • 個人経営:個人開業のクリニックは法令の適用業種(医療業)に該当するため、常時5人以上の従業員を使用する場合は強制適用事業所となります。

任意適用事業所

強制適用の要件に該当しない個人経営の歯科クリニックは、厚生労働大臣の認可を受けることで任意適用事業所となることができます。任意適用を受けない場合、そのクリニックの従業員は市町村国保あるいは北海道歯科医師会国保組合などの国保組合に加入します。

ちなみに雇用保険は暫定任意適用事業であっても労働者の半数以上が加入を希望したときは、事業主に加入申請の義務が生じます。しかし健康保険においては、従業員の半数以上が希望した場合であっても国保で代替できるので、事業主には申請義務はありません。

健康保険の被保険者

医療法人における被保険者

法人の事業所では、法人の理事や取締役などの役員も、法人に使用される者として被保険者となります。社会保険(健康保険・厚生年金保険)において、保険料の算定基礎を「賃金」ではなく「標準報酬」と呼ぶのは、労働者のみならず役員も対象にしているからです。

個人開業における被保険者

個人経営の歯科クリニックの場合、健康保険の適用事業所であっても、事業主本人は自身から報酬を受け取るわけではありませんので、被保険者にはなれません。よって事業主本人に限っては、市町村国保または歯科医師会国保などの国保組合に加入することになります。

短時間労働者の扱い

健康保険の被保険者要件

健康保険の被保険者は、適用事業所に使用される者で、1週間の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数が通常の労働者(正社員)の4分の3以上である者です。週の所定労働時間=週の法定労働時間(40時間)の場合、週30時間以上勤務するなら被保険者になります。

短時間労働者は法改正に注意

週所定労働時間が通常の労働者の4分の3未満(週30時間未満など)であっても、以下の要件(4要件)をすべて満たす場合は、特定適用事業所(被保険者数50人超の事業場等)において被保険者となります。

  1. 週の所定労働時間が20時間以上であること
  2. 学生でないこと
  3. 特定適用事業所に使用されていること
  4. 月の報酬額が88,000円以上であること

なお上記のうち「月の報酬額が88,000円以上」という要件が、2026年10月より撤廃されます。それは週20時間の就労かつ月の報酬額が88,000円だと時給単価が1,015円になりますが、現在の地域別最低賃金の最低額が1,023円なので、もはや要件としてナンセンスだからです。

つまり今年10月以後は、特定適用事業所において雇用保険の加入要件(週所定労働時間が20時間以上)を満たせば、社会保険(健康保険と厚生年金保険)にも加入することになります。

任意継続被保険者

任意継続は健康保険特有の制度

退職あるいは雇用契約の変更(フルタイムの正社員から短時間パート等)により、被保険者資格を喪失した者が、一定の要件(資格喪失の前日まで継続して2ヶ月以上の被保険者期間があること等)を満たせば、引き続き健康保険の被保険者となれます。

なお資格喪失日から20日以内に勤務先に申し出ることが要件であり、任意継続期間は最大で2年間です。これまで労使折半だった保険料は全額を負担し、また自分で納付しなければなりません。また厚生年金保険は任意継続できませんので、国民年金への種別変更も必要です。

任意継続のメリットとデメリット

  • メリット
    • 傷病手当金・出産手当金:資格喪失時に既に受給中、または受給できる状態であれば、継続して給付を受けられます。
    • 被扶養者:家族を被扶養者として加入させ続けることが可能です(国民健康保険は家族それぞれが被保険者となります)。
  • デメリット
    • 保険料の全額負担:事業主負担がなくなるため、労使折半だった保険料の全額を自己負担しなければなりません。
    • 納付遅延=即資格喪失:保険料を納付期日(毎月10日)までに納付しなかった場合、その翌日に強制的に資格を失います。

従来の健康保険証は間もなく使用不可に…

健康保険の保険給付を受けるためには、医療機関の窓口で健康保険証(健康保険被保険者証明証)を提示しなければなりませんが、従来の健康保険証は、すでに2025年12月1日をもって廃止となり、現在はマイナ保険証を使用しなければなりません。

ただしマイナ保険証の利用が芳しくないことから、2026年7月末まで従来の健康保険証を延長使用できることになっています。2026年1月時点でのマイナ保険証の登録者数は約9,132万人(保有者の約9割)に達していますが、利用率は約64.6%に留まっているようです。

今後は高額療養費制度の見直しが予定されており、OTC医薬品の一部について保険適用外とする議論も行われているようです。自院における適正な社会保険手続きとあわせて、地域の医療ニーズにあわせた診療メニューの見直しなども必要となってくるでしょう。

本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。


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  • この記事を書いた人

山口光博/社会保険労務士/人事コンサルタント

医療法人の総務課長→医事課長→法人本部人事課長を歴任後、上場準備企業の人事部長を経て開業。歯科・歯科口腔外科部門の事務マネジャー経験あり。

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