人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院は、地方の歯科衛生士学校からの新卒採用に力を入れている歯科クリニックです。 この度、遠方から入職してくれた新人スタッフ(歯科衛生士・歯科助手)の福利厚生を充実させるため、新たに 「帰省費用補助」 の導入を検討しています。
具体的には以下の条件を想定しています。
- 対象: 新卒入社1年目のスタッフ
- 回数: 年2回まで
- 費用上限: 1回あたり2万円
- 要件: 自宅から実家までの距離が100km以上
- 精算方法: 領収書に基づく実費精算
こうした補助を行うことで、慣れない土地で頑張る新人さんの精神的な安心感に繋げたいと考えています。そこで、以下の実務上の疑問について教えてください。
- この補助金は「給与」として扱わなければならないのでしょうか?
- 実費精算であっても、所得税の課税対象になりますか?
- 就業規則への記載は義務でしょうか?
ご相談への回答

地方出身のスタッフにとって、帰省費用のサポートは非常に魅力的な福利厚生であり、採用ブランディングや早期離職防止において強力な武器になります。 しかし、この手当が「労働の対償」とみなされるか「実費弁償」とみなされるかによって、税金や社会保険料の扱いが大きく変わります。
就業規則への記載義務:あり
労働基準法上、結婚祝金などの恩恵的・福利厚生的な給付は、原則として「賃金」には該当しません。しかし、支給条件が就業規則等にあらかじめ明確に定められている場合は、その給付は「賃金」としての性格を持つ ことになります。
今回のケースは、採用条件の一部として周知し、一定のルールに基づいて支給する制度であるため、就業規則(給与規程)に記載する義務が生じます。
労働保険・社会保険上の取り扱い:原則「算入」
労働保険料や社会保険料を計算する際の基礎となる「賃金」や「報酬」には、原則として労働の対償として支払われるすべてのものが含まれます。
帰省費用補助は、通勤手当などと同様に「福利厚生」としての側面が強いものですが、制度として定着している以上、労働保険料の算定基礎(賃金総額)や社会保険の標準報酬月額の計算に含めるよう指導される可能性が高い と考えられます。
所得税の課税:高い確率で「課税対象」
所得税法上、非課税とされる旅費交通費は、あくまで「業務上の出張」や「転勤に伴う転居」などに限られています。 スタッフの個人的な帰省は「業務」とは認められません。そのため、たとえ領収書に基づいた実費精算であっても、本人に対する「経済的利益の供与(給与所得)」とみなされ、源泉所得税の課税対象となる のが一般的です。
全従業員を対象とした福利厚生行事(慰安旅行など)とは異なり、一部のスタッフの私的行為に対する補助であるため、税務署の調査では給与課税漏れを指摘されるリスクがあります。
本件のポイント

- 帰省費用補助は「労働条件」の一部となるため、必ず就業規則(または慶弔見舞金規程など)に明記する。
- 実費精算であっても、本人に対する「経済的利益の供与(給与所得)」とみなされると、所得税法上は「給与所得」として課税処理を行わねばならない。
- 労働保険料や社会保険料の算定基礎にも含まれる可能性が高いため、人件費予算には保険料の事業主負担分(法定福利費)も考慮しておく。
- 制度設計の最終段階では、所轄の税務署や年金事務所に、個別の建付け(福利厚生費として認められる余地があるか等)を照会することを強く推奨する。
素晴らしい制度がコンプライアンス違反で台無しにならないよう、事前の確認を徹底しつつ、スタッフが安心して長く働ける環境を整えていきましょう。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。




