人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院で勤務する男性の歯科技工士にお子さんが生まれました。本人から「歯科技工の依頼が多く長期の休みは取れないが、家計のために社会保険料の免除だけは受けたい」と相談がありました。
具体的には、4月から7月までの4ヶ月間、各月の末日(4/30、5/31、6/30、7/31)だけを育児休業とし、翌日の1日にはすぐ復職するという形で、4ヶ月分の社会保険料を免除できないか?という趣旨です。
産後パパ育休制度ができて男性の育休は4分割して取れると聞きましたが、このような「社会保険料免除を目的とした月末日だけの1日育休」を繰り返すことは可能なのでしょうか?また、クリニックとして気をつけるべき点があれば教えてください。
ご相談への回答

近年の法改正により、男性の育児休業(産後パパ育休を含む)は非常に柔軟な取得が可能となりました。しかし、ご相談のような「社会保険料免除のみを目的としたスキーム」は、現在、行政当局から非常に厳しい目で見られています。
制度上は可能だが「実態」が問われる
まず、育児休業の分割取得についてですが、出生時育児休業(産後パパ育休)と通常の育児休業は、それぞれ2回まで分割して取得することが認められていますので、計4回の育休を月末に行うことで、結果的に4ヶ月分の社会保険料の免除を受けること自体は可能です。
しかし、社会保険料の免除は、本来「育児のために仕事を休み、報酬が得られない期間の経済的負担を軽減すること」を趣旨としています。育児の実態が伴わない「社保料逃れ」を目的とした申請は、健康保険の保険者や年金事務所から虚偽申請とみなされるリスクがあります。
社会保険料免除のルールと「末日取得」の盲点
社会保険料(健康保険・厚生年金)が免除されるのは、育児休業を「開始した日の属する月」から「終了した日の翌日が属する月の前月」までです。
例えば「4月30日に開始し、4月30日に終了(5月1日に復職)」した場合、終了日の翌日は5月1日となり、その前月である「4月分」の保険料が免除されます。
以前は「同一月内の短期育休」による保険料逃れが横行したため、現在は「同一月内に開始・終了する場合は14日以上の休業が必要」というルールが追加されました。しかし、「末日を含む休業」については、1日でもその月の保険料が免除されるという仕組みが残っています。
この制度の盲点を突いた形ですが、実態が伴わなければ不正と判断される可能性が高いです。
虚偽申請とみなされた場合の事業主のリスク
もし、スタッフが実際には育児を行っておらず、通常の勤務を続けながら書類上だけ育休としているようなケース、あるいは院長がこのような脱法的スキームを自院のスタッフに教唆・補助した場合は深刻です。
もし実態として育児を行っておらず、健康保険の保険者(協会けんぽや歯科医師会国保等)および年金事務所から、社会保険料逃れのための虚偽申請であると判定された場合、不正利得の返還や罰則の対象となる恐れがあります。
本件のポイント

- 現時点の法令および制度下において育休の分割取得は可能だが、あくまで「育児のための休業」が制度の趣旨であり前提である。
- 「末日1日だけの育休」による社会保険料免除スキームは問題視されており、年金事務所等の重点調査対象となりやすい。
- 実態のない免除申請をクリニックとして認めることは、虚偽申請の片棒を担ぐことになり、経営上の大きなリスクとなる。
- スタッフには制度の趣旨を正しく説明し、数日間であっても実態を伴う育児のための休暇として取得するよう促すことが賢明である。
育児休業制度は、スタッフのワークライフバランスを支える素晴らしい制度です。目先の節税(保険料免除)に囚われず、コンプライアンスを遵守した誠実な運用を心がけましょう。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。




