はじめに
人口減少による労働力不足が深刻化している昨今の社会経済情勢を背景に、パワハラやセクハラ防止義務に続いて2026年秋からカスハラと就活セクハラの防止措置も義務化される予定です。本記事では職場でのハラスメントの主な類型と経営への影響などを考察します。
ハラスメントとはなにか?
職場で起こる主なハラスメント
職場におけるハラスメントとは、一般に個人あるいは集団の言動が、他の個人あるいは集団に何らかの不利益や悪影響を及ぼすことを指します。働く人の尊厳や人格を傷つけ、労働能力の発揮を妨げるばかりか、企業の社会的評価や生産性の低下を招く深刻な問題です。
代表的な職場内のハラスメントには、パワーハラスメント(パワハラ)、セクシュアルハラスメント(セクハラ)、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント(マタハラ・パタハラ)、カスタマーハラスメント(カスハラ)、および採用活動中に発生する就活ハラスメント(セクハラやオワハラ)があります。
職場ハラスメントの現状と実態
厚生労働省が実施した令和5年度の「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年間に勤務先でハラスメントを経験した労働者の割合は、パワハラが19.3%と最も高く、次いで顧客等からの著しい迷惑行為(カスハラ)が10.8%、セクハラが6.3%でした。
パワハラの経験割合に大きな男女差はありませんが、セクハラについては女性(8.9%)の方が男性(3.9%)よりも高い傾向にあります。またカスハラは「生活関連サービス業、娯楽業」(16.6%)や「卸売業、小売業」(16.0%)、「宿泊業、飲食サービス業」(16.0%)といった接客頻度の高い業種で多発しています。
一方、特別サンプル調査では、就業中に妊娠・出産した女性労働者のうち26.1%が妊娠・出産・育児休業等ハラスメントを、育児制度を利用しようとした男性労働者の24.1%が育児休業等ハラスメントを経験しており、両立支援を巡る課題も多く存在します。
パワーハラスメント
パワーハラスメントの定義
職場のパワーハラスメントとは、次の3要素をすべて満たすものを指します。
- 優越的な関係を背景とした言動:職務上の地位のみならず、人間関係や専門知識、経験などの様々な優位性を背景に、言動を受ける労働者が行為者に対して抵抗や拒絶をすることが困難である関係性を指します。
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの:社会通念に照らし、明らかに業務上の必要性がない、または指導としての態様や手段が適当でない言動を指します。客観的に見て、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な指示や指導は該当しません。
- 就業環境が害される:身体的・精神的に苦痛を与えられ、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、就業する上で看過できない程度の支障が生じることをいいます。就業環境が害されるとする代表的な6つの類型は次のとおりです。
- 身体的な攻撃(殴る、蹴る、叩くなどの暴行等)
- 精神的な攻撃(大声で怒鳴る、長時間の叱責等)
- 人間関係からの切り離し(無視や仲間はずれ等)
- 過大な要求(実現不可能な指示を与える等)
- 過小な要求(能力以下の雑用しかさせない)
- 個の侵害(私生活への無用・不当な介入等)
パワハラが起きやすい職場の特徴
パワハラを経験した労働者の職場特徴を見ると、「人手が常に不足している」(45.4%)との回答が最も多く、次いで「上司と部下のコミュニケーションが乏しい」(31.9%)や「残業が多く休暇を取りづらい」(24.7%)といった、過度な業務負荷やコミュニケーション不足を抱える職場で発生しやすい傾向があります。
パワハラがもたらす問題点として、被害者は「怒りや不満、不安などを感じた」(68.5%)や「仕事に対する意欲が減退した」(61.1%)といった重大な心身への影響を被り、休職や退職に追い込まれるケースもあります。企業にとっても、職場秩序の乱れ、職場の生産性低下、人材の退職、社会的評価の低下などの大きな経営的・社会的損失につながります。
主なパワハラ防止措置義務
職場におけるパワーハラスメントの防止対策は、「労働施策総合推進法」(第30条の2)に基づき、すべての事業主に義務付けられています。事業主が雇用管理上、必ず講ずべき措置として、厚生労働大臣の指針では主に以下の項目が規定されています。
- 方針の明確化と周知・啓発:パワハラの内容や行ってはならない旨の方針を就業規則等の文書に規定し、労働者に周知すること。また、行為者への対処方針や処分内容を就業規則に規定すること。
- 相談体制の整備:あらかじめ相談窓口を定め、広く相談に対応できる体制を整備し、労働者に周知すること。
- 事後の迅速かつ適切な対応:速やかに事実関係を正確に確認し、被害者への配慮(配置転換やメンタルケア等)および行為者への適正な措置(処分等)を行うとともに、再発防止措置を講ずること。
- 併せて講ずべき措置:相談者や行為者等のプライバシーの保護、および相談を理由とした不利益取扱いの禁止を定め、労働者に周知・啓発すること。
セクシュアルハラスメント
セクシュアルハラスメントの定義
職場のセクシュアルハラスメントとは、職場において行われる、労働者の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応や態度により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されることをいい、これには、次の2つの類型があります。
- 対価型セクシュアルハラスメント:労働者の意に反する性的な要求(肉体関係の要求、身体的接触、会食同伴の強要などが該当します)に対する労働者の対応や態度により、解雇、降格、減給等の不利益な取扱いを受けること。
- 環境型セクシュアルハラスメント:性的な言動により、就業環境が害され、労働者が能力を発揮する上で看過できない支障が生じること。同性に対するものや、被害者の性的指向・性自認に関わらない性的な言動も対象となります。
セクハラが起きやすい職場の特徴
- 組織風土と意識の低さ:セクハラ行為をコミュニケーションとして肯定している、男らしさ・女らしさを過度に求める風潮がある、経営陣や管理職がセクハラを当事者の個人的問題として捉え、組織風土やコンプライアンスの問題として認識していない。
- 権力構造と非正規雇用:業務の指揮命令権や人事権が特定の人物に集中している、パートタイマーや契約社員など立場の弱い非正規雇用者が多い、職場の雰囲気が閉鎖的で、意見や異論を唱えにくく、経営幹部や管理職等の不正や非行が黙認されやすい。
- 性別構成の著しい偏り:職場内の圧倒的多数を特定の性別(一般的には男性)が占め、異性がマイノリティとして孤立しやすい。管理職が特定の性別(一般的には男性)に偏っており、セクハラが発生しても、異性(被害者)側の立場が尊重されにくい。
- 相談・救済体制の不備:相談窓口が形式化し、相談しても対応してくれない、セクハラ行為者に筒抜けになるといった不信感から機能していない。「あなたにも隙があったのでは?」等の言動で被害者を傷つけるセカンドハラスメントの自覚に乏しい。
- 勤務や職場環境の特異性:2人きりの個室作業や出張、夜間勤務が多い、あるいは社用車(密室状態)での移動が多いため、周囲の目が届きにくい。接待や懇親会が多く強制参加となっている、業務に個人アカウントのSNS(LINE等)を使用している等。
主なセクハラ防止措置義務
職場におけるセクハラ防止対策は、「男女雇用機会均等法」(第11条)に基づく事業主の義務です。事業主は、厚生労働大臣の指針(ガイドライン)に従い、セクハラ防止のために、パワハラと同様に以下の雇用管理上の措置を講じなければなりません。
- 事業主の方針の明確化と周知・啓発(就業規則への規定、研修の実施など)
- 相談に応じ適切に対応するための窓口の設置・整備
- 事後の迅速かつ適切な対応(事実関係の迅速な確認、被害者への配慮、行為者への適正な措置、再発防止)
- プライバシー保護のための措置および不利益取扱いの禁止の規定と周知、また他社から自社労働者のセクハラに関する事実確認や再発防止等の協力を求められた際は、これに応じるよう努めなければならないとされています。
法改正情報(2026年10月1日施行)
カスハラ防止措置の義務化
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、職場において行われる顧客や取引先等の言動のうち、労働者の従事する業務の性質等に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、労働者の就業環境を害することを指します。
悪質な手段や不当な金銭・土下座等の過剰要求が典型例であり、従業員の休職や離職を招くなど、深刻な社会問題となっています。これに対処するため、2026年10月からの改正労働施策総合推進法の施行により、事業主に対し、カスハラ防止措置が義務化されます。
主なカスハラ防止措置
- 事業主の方針等の明確化および周知・啓発
- 相談体制の整備・周知
- ハラスメント発生後の迅速かつ適切な対応、およびその抑止のための措置、取引先の労働者から自社の労働者がカスハラを受けた場合の他社との協力対応や、消費者の権利や障害者差別解消法の合理的配慮を阻害しないための対応等
就活セクハラ防止措置の義務化
「就活セクハラ」とは、就職活動中(インターンシップ含む)の学生等に対するセクハラをいいます。近年では女子学生に内定をチラつかせて性的関係を強要した某建設会社の男性リクルーターの事件が記憶に新しいですが、人事部長経験者として本当に情けない限りです。
さて、従来は「取り組みが望ましい」という努力義務にとどまっていた求職者に対するハラスメント対策が、2026年10月に施行される改正男女雇用機会均等法に基づき、「求職者等に対するセクハラ防止措置を講じる義務」になります。
主な就活セクハラ防止措置
- 就活セクハラに対する自院の方針の明確化と周知・啓発
- 就活セクハラ被害者に対する相談体制の整備と周知
- 就活セクハラ発生後の迅速かつ適切な対応(被害者への謝罪等)
これらに先立ち、自院の採用プロセス(募集、選考、OB・OG訪問、インターンシップ)における実施要領を整理し、採用管理規程などにまとめておき、またホームページなどで就活ハラスメントに対する自院のポリシーと相談窓口を掲示することをお勧めします。
医療機関はハラスメントとどう向き合うか?
歯科クリニック経営の影響は直接的
たとえば歯科クリニックは患者の生命や健康に関わる極めて高度な領域で事業(医療サービス)を行っています。そして歯科クリニックで就労する従業員の大部分は専門資格者であり、平均的な従業員数は5~6名であることから、少数精鋭のチーム運営が一般的です。
代替要員を確保しづらい歯科クリニックがハラスメントを放置することは、致命的な経営リスクに直結します。スタッフの欠員により採用・教育コストが増えるのみならず、人材不足から医療サービスの質低下や過誤を招き、地域での信用低下を招く恐れがあります。
ハラスメント防止の人事施策ポイント
歯科クリニックがハラスメントを防止し、適切に対処するためには、ハラスメントに対する自院の考え方を明確にし、ハラスメント行為にどう対処するか?あるいはどう予防するか?についてルールを決め、ルールを実行できる組織体制と人材の育成が必須課題です。
- 基本方針の明確化と周知:院長(トップ)自らが「職員を守り、ハラスメントには毅然と対応する」基本方針を明確にし、就業規則等に服務規律および違反に対してどのような懲戒処分を行うのかを規定し、全職員に周知・徹底します。
- 相談や連携体制の構築:ハラスメントの被害者が安心して相談できる窓口や、所属長を責任者とする報告・相談ルートを確立します。予防(規程作成)は社会保険労務士、処置(訴訟対応等)は弁護士など、社外専門家との連携も有効です。
- マニュアル等の整備:パワハラやセクハラなどを未然に防止するために、職務権限や採用活動、休業休職時における業務取扱マニュアルおよびカスハラ対応マニュアルを整備します。個人ではなく組織の問題として捉えることが重要です。
- 定例的な教育・研修:自院のスタッフに対し、ハラスメント研修を実施します。パワハラやセクハラ(内部要因)とカスハラ(外部要因)ごとに、ケースメソッド学習やワークショップ、ロールプレイングなどを効果的に使い分けます。
まとめ
筆者の個人的経験からいえば、職場の飲み会を必要以上に好む人は、パワハラやセクハラの傾向が強いと感じています。こういう類の人たちにとって職場の飲み会とは、職場の序列をメンバーに叩き込み、職場の異性との距離を縮める重要なイベントだからです。
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