人事相談FAQでは、実際に運営者(RWC合同会社・RWC社労士事務所)が取り扱った人事相談のうち、頻出の事案あるいは重要と思われる事案を厳選し、医療業界に置き換えてご紹介しています。
依頼者からのご相談

当院は、歯科医師・歯科衛生士など合計12名が勤務する歯科クリニックです。2026年4月から「子ども・子育て支援金制度」が導入されると聞きました。
早速、事務長からも、給与天引き(賃金控除)に関する事務手続きについて以下の質問がありました。
- 「子ども・子育て支援金」を給与から天引きする際、改めて従業員代表と「賃金控除に関する労使協定」を締結し直す必要はありますか?
- 当院の賃金規程には、控除項目として「健康保険料、厚生年金保険料……」と具体的に列挙されています。今回の支援金は「健康保険料」の一部とみなして、規程はそのままでも法的に問題ないでしょうか?
- 実務上の混乱を避けるために、規程の表現をどのように見直すべきかアドバイスをください。
新しい制度への正確な対応を行いたいと考えています。
ご相談への回答

2026年4月から開始される「子ども・子育て支援金」は、少子化対策の財源として、公的医療保険(健康保険等)の保険料とセットで徴収される仕組みです。結論から申し上げますと、本支援金は「法定福利費」に該当するため、労使協定の再締結は不要ですが、賃金規程の記載内容によっては、将来的なトラブル防止のために表現を見直すことが推奨されます。
賃金控除に関する労使協定の要否
労働基準法では、賃金は「全額払い」が原則ですが、所得税や社会保険料などの法令で定められたものについては、労働者の同意や労使協定なしに控除することが認められています。
- 支援金の性質: 「子ども・子育て支援金」は、子ども・子育て支援法に基づく法定福利費であり、健康保険料等と同様に法律上当然に事業主が控除し、国に納付する義務を負うものです。
- 控除の区分: したがって、財形貯蓄や団体保険料などの「法定外控除」のために締結する労使協定(24協定)を、この支援金のために再締結したり更新したりする必要はありません。
賃金規程(賃金規則)の見直しの必要性
多くのクリニックの賃金規程では、控除項目が「健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、介護保険料」といった形で限定列挙されています。
- リスクの検討: 支援金は実務上、健康保険料等に上乗せして徴収されますが、厳密には「健康保険料」そのものではありません。規程に項目が漏れていると、労働者から「根拠のない控除だ」と誤解(曲解)を受けるリスクがゼロではありません。
- 推奨される対応: 法的な即時違反にはなりませんが、無用な言いがかりを避けるためにも、今回の導入を機に包括的な表現へ変更しておくのがガバナンス上、賢明です。
実務的な規定例の提案
限定列挙による「漏れ」を防ぐため、以下のような包括的な表現への変更を提案します。
- 【変更前】: 「健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料および介護保険料を控除する」
- 【変更後】: 「法令により賃金から控除することが定められているもの(所得税、住民税、社会保険料、雇用保険料、子ども・子育て支援金等)を控除する」
このような表現にすることで、将来的に新たな法定控除が新設された際にも、その都度規程を細かく修正する手間を省くことができます。
本件のポイント

- 「子ども・子育て支援金」は2026年4月から公的医療保険料とセットで徴収される法定福利費である。
- 法定の控除であるため、天引きにあたって「賃金控除に関する労使協定」の再締結は不要である。
- 賃金規程(規則)に控除項目を限定列挙している場合は、包括的な表現(「法令で定められたもの」等)に見直すことが望ましい。
- 所得税、住民税、社会保険料等の法定控除については、労働者の個別の同意は不要である。
- 給与明細上は、健康保険料の項目に含めるか、内訳を明記するか、各保険者の案内(協会けんぽ等)に沿って対応を確認する必要がある。
新しい支援金制度の導入は、クリニックの賃金管理ルールを総点検する良い機会です。透明性の高い運営のために、早めの準備を推奨します。
本記事の内容は投稿時点の法令にもとづき要点のみを平易な表現で執筆しています。実務においては所轄の官公署にご相談のうえ、貴院の実情に応じて適切にご対応願います。なお弊社でもオンライン人事相談を実施中です。詳しくは弊社ホームページよりご確認ください。