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「人とタスク」を区別できない管理職が部下を潰す(東洋経済ONLINE/2023.05.15)

2024年2月5日

身をもって体験した人とタスクの区別

この記事を読んで、私がまだ若かった頃のある出来事を思い出しました。当時の私は20代後半で、転職してまもない某大手スーパーの販売課長候補でした。

当時の上司は大阪出身の店長で、私の提出する週間販売計画に対して、なにかとダメ出ししてきました。

アカンアカンアカン…とあまりにも取り付く島が無いので、ある日つい感情的になって「なぜそんなに私のことを嫌うのですか!」と噛み付いてしまったことがあります。

するとその上司は驚いたように私の顔を見つめ、しばし沈黙した後にポツリと一言。

「別にオマエ個人に対しては何とも思ってないねん。ただ販売計画の内容が甘い言うとんのや。だからそこを直せばいいだけの話やんか。かなわんな…。」

その上司は困ったように頭をボリボリと掻きながら立ち去ってゆきましたが、それまで自分はダメな人材なのだと自信喪失していた私にとって、この上司の言葉にはとても救われました。

人とタスクを切り分けると部下との関係も良くなる

そうなんです。自分という個人がダメなのではなく、販売課長としての自分の知識やスキルが不足しているだけなのであって、そうであれば不足している部分を研鑽すればいいだけじゃないか、と悟った瞬間でした。

それ以降は「上司のダメ出し=自分の課題」として、前向きに受け止めることができるようになりました(ダメ出しするたびに目を輝かせながらメモをとる私を見て、上司は少し不気味だったかもしれませんが・・・)。

そして自分の部下に対しても、人格とタスクを切り分けてチェック&フォローするように努めるようになりました。

余談ですが、チェックはタスクのみに対して、フォローは(ハラスメントにならないよう注意しつつ)人格も含めて行ってあげると、部下と良好な関係性を構築できます。

なお体育会系的な職場風土では、タスクよりも個性や相性が優先されるため、人とタスクの切り分けがなかなか進まないことは知っておいた方がよいでしょう。

人とタスクを分けられない上司にどう対処するか?

残念ながら日本の職場では人とタスクを分けて考えることのできない管理職が多いです。

これは「下手な考え休むに似たり」「習うより慣れろ」などといったことわざに代表されるように、日本の多くの職場においては思考することを軽視する風潮が根強いため、人とタスクを客観的に切り分ける作業が管理職の仕事として認識されていないためだと考えています。

再び私の体験談ですが、私がミドル世代になって転職した時の上司(経営者)がまさにこの典型で、私の仕事のミスに対して、ことあるごとに私の人格がどうとか、育ちがどうとかなど、およそ客観性を欠くような叱責をするばかりで、つくづく辟易させられたものです。

このような「人とタスク」を区別できない上司に共通しているのは、論理的思考力の弱さと、チームマネジメントの引き出し(マネジメントスキルのバリエーション)の乏しさであり、このような上司を生み出してしまう企業の特徴は、人材教育が不十分であることです。

かつて経営学者のP.F.ドラッガー博士は「リーダーシップはトレーニングによって後天的に習得することができる。」と名著「マネジメント」の中で述べています。

リーダーシップですら教育研修で身につくのですから、よりテクニカルな要素の強いマネジメントのスキルをもった管理職が育っていないということは、その会社がマネジメント教育を現場に任せきりにして、なおざりにしてきたという証左でしょう。

さて話を戻すと、人とタスクの区別すらできないマネジメントスキルの稚拙な上司は、ボキャブラリの乏しい幼児が、言いたいことを伝えられないもどかしさから癇癪を起こすように、しばしば部下に対してパワハラに走る傾向があります。

よってその上司が中間管理職であれば、さらにその上位の上級管理職や人事部に相談して予防線を張ること、またその上司がオーナー経営者であれば、いざという時のために粛々と転職の準備を進めた方が賢明ではないかと思います。

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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