労働安全に関する記事

10 傷病(補償)年金

傷病(補償)年金はどのような制度か?

傷病(補償)年金制度の目的

傷病(補償)年金は、労災により休業(補償)給付を受給している労動者が、労災認定後に1年6ヶ月が経過し、なおかつ労動者災害補償保険法施行規則別表第2に規定する傷病等級第1号~第3号に該当した場合に、休業(補償)給付に代えて支給されるものである。

休業(補償)給付は休業日ごとに支給されるものだが、休業が長期化した場合は申請や給付にかかる事務が煩雑となるため、特に傷病の程度が重症である場合に、傷病(補償)年金に切り替えて年金払いとすることで、被災労動者および労災保険双方の手続きの簡便化を図っている。

なお傷病(補償)年金も他の労災保険給付と同様に、要件を満たす限り支給が継続され、被災労動者が退職した場合でも支給が打ち切られることはない。

山口
厳密には業務災害によるものは傷病補償年金、通勤災害によるものは傷病年金といいますが、この記事では双方をあわせて傷病(補償)年金として表記します。休業(補償)給付、療養(補償)給付なども同様です。

傷病(補償)年金の額

傷病(補償)年金の額は「給付基礎日額✕傷病等級ごとに規定された支給日数」である。ただし給付基礎日額は休業(補償)給付の計算に用いるものとは異なり、年金スライドや年齢階層別の最低限度額もしくは最高限度額によって調整された額となる。

傷病(補償)年金の受給方法

傷病(補償)年金は支給要件に該当した時に、労働基準監督署の裁量によって自動的に休業(補償)給付から切り替わるようになっている。ただし支給要件の判定に際してあらかじめ次の書類を労働基準監督署に提出しておく必要がある。

  • 【新規】傷病の状態等に関する届(様式第16号の2)→休業1年6ヶ月後1ヶ月以内に提出
  • 【更新】傷病の状態等に関する報告書(様式第16号の11)→毎年1月末日までに提出

傷病(補償)年金は、偶数月の15日に前2ヶ月分を被災労動者の金融機関口座に振り込まれることになっている。これは他の労災保険の年金給付や国民年金、厚生年金保険も同様である。

他の社会保険給付との調整

療養(補償)給付・介護(補償)給付

労災保険の療養(補償)給付は傷病の療養のための医療サービスを、また介護(補償)給付は常時もしくは随時介護を要する者に介護サービスを提供するものである。よって休業中の生活保障としての傷病(補償)年金とは給付の目的や性質が異なるためそれぞれ併給される。

山口
介護(補償)給付は傷病等級第1級(常時介護状態)と第2級(随時介護状態)が対象となります。また療養(補償)給付と介護(補償)給付は、金銭ではなく現物給付(医療介護サービスの提供)となっているのが特徴です。

休業(補償)給付

すでに冒頭で解説したとおり、休業(補償)給付を受給している者が重症化し、さらに休業状態が長期化した場合に、休業(補償)給付(日額払い)から傷病(補償)年金(年金払い)に切り替わる制度なので、これらが併給されることはない。

山口
傷病の状態が改善して傷病(補償)年金の支給要件に該当しなくなった場合でも、療養のために引き続き休業が必要な場合は、傷病(補償)年金に代えて再び休業(補償)給付が支給されます。

障害(補償)給付

労災保険の障害(補償)給付は、傷病の状態が固定化し、これ以上療養しても症状が改善しないと判定(=障害認定)された場合に支給されるものなので、療養のための休業を前提としている傷病(補償)年金の受給中は、そもそも障害(補償)年金の受給資格を得ることができない。

山口
「障害認定=療養効果が期待できない」という状態になると医療機関の一般病床に入院し続けることができなくなりますので、MSW(医療相談員)を介して障害者施設や介護施設等へ転院することになります。

障害基礎年金・障害厚生年金

労災保険の障害(補償)年金とは異なり、国民年金の障害基礎年金と厚生年金保険の障害厚生年金は傷病(補償)年金と併給される。これは障害基礎年金と障害厚生年金では、傷病の状態が固定化していなくても、初診日から1年6ヶ月経過した時点で障害認定してもらえるからである。

山口
ただし併給時は傷病(補償)年金が減額されます。①障害基礎年金か障害厚生年金のいずれかを受給できる場合→傷病(補償)年金は88%支給、障害基礎年金と障害厚生年金の両方を受給できる場合→傷病(補償)年金は73%支給

健康保険の障害手当金

傷病の療養のために休業し、なおかつ賃金が支給されない場合は健康保険からも傷病手当金が支給されるが、労災保険の傷病(補償)年金を受給している場合は、健康保険の傷病手当金は支給されない。また傷病(補償)年金から休業(補償)給付に切り替わった場合も支給されない。

特別支給金

特別支給金制度とは?

労災保険には労災保険事業に付帯する事業のひとつとして、被災労動者支援のために特別支給金制度がある。傷病(補償)年金の場合は本体の保険給付と併せて傷病特別支給金が、また一定要件を満たす者には傷病特別年金が支給される。

傷病特別支給金

傷病特別支給金は、傷病(補償)年金が支給決定された時に、傷病等級に応じて下表の額が一時金として支給されるものである。なお特別支給金は労災保険給付同様に所得税等が非課税となっている(労災保険法や労働保険徴収法ではなく所得税法および相続税法に規定)。

傷病特別年金

被災前の直近1年間に賞与が支給されている場合は、傷病特別年金も支給される。支給額は「被災日以前1年間に支給された賞与総額÷365日」によって計算した日額を、傷病等級ごとに規定された下表の日数(傷病(補償)年金と同じ)を乗じた額となる。

山口
労災保険料は賞与を含めた過去1年間の賃金総額を元に計算して納付しますが、傷病(補償)年金の支給額は3ヶ月間の平均賃金ベースで算定されるので、賞与にかかる保険料部分を傷病特別年金で還元する仕組みです。

特別支給金の申請方法

傷病特別支給金と傷病特別年金を受給するためには、休業(補償)給付を申請する際に、平均給与証明書(様式9号)と特別給与に関する届出(様式第38号)も併せて勤務先の所轄労働基準監督署に提出する必要がある。

傷病(補償)年金は支給要件に該当すれば労働基準監督署が自動的に休業(補償)給付から切り替えてくれるが、特別支給金は申請が必要である。ただし便宜上、傷病(補償)年金が支給決定されると特別支給金の申請があったものとみなしてセットで支給することになっている。

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  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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