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会社から「健康診断に行っている時間は無給」と言われました…これって違法ではないでしょうか?(ファイナンシャルフィールド/2024.01.17)

2024年2月9日

健康診断は種類が多くてわかりづらい

法令に定められている健康診断にはたくさんの種類があります。人事担当者でも、どの健診が会社に義務付けられていて、どの健診が従業員の任意で受診すべきものなのか?また受診費用の負担がどうなっているのか?など、正確に把握していない人は結構多いです。

そこで職場における健康診断を根拠法令ごとに整理してみましょう。多種多様な健康診断を根拠法令ごとに整理することで、個々の健康診断の目的が理解でき、どの健診が会社の義務なのか、それとも個々の従業員の任意で受診するものなのか、判断しやすくなります。

健康診断を根拠法令ごとに整理してみる

(1)労働安全衛生法

従業員の健康保持、もしくは危険有害業務に従事する者の健康障害防止のために、使用者に対して法令により実施が義務付けられているものです。前者は一般健診、後者は特殊健診と呼ばれているもので、どちらの健診費用も当然に会社が負担することになっています。

受診時間の賃金は、一般健診は従業員の健康保持が目的なので無給でも構いませんが、特殊健診は危険有害業務に従事させるために必要不可欠なものなので、受診時間も勤務時間扱いとし、終業後や休日に受診させた場合は、時間外手当や休日手当を支給しなければなりません。

(2)健康保険法

協会けんぽに加入している会社については、35歳以上の従業員を対象として生活習慣病予防健診を受診させることができます。生活習慣病予防健診は、日本人の死因トップを占める成人病を予防するために、労働安全衛生法の一般健診に胃がん検査等を追加したものです。

生活習慣病予防健診は使用者に実施義務はなく、従業員が任意で受診することになっていますが、受診費用の75%程度を健康保険法にもとづき協会けんぽが補助してくれるため、残り25%を会社が福利厚生費として負担し、一般健診に代えて会社側で実施するケースが多いです。

(3)高齢者医療確保法

高齢者医療確保法では、40~74歳の健康保険の加入者およびその扶養家族を対象に特定健康診査を実施しています。これは成人病の中でもメタボリックシンドロームにフォーカスした健診メニューとなっているのが特徴で、通称「メタボ健診」として知られています。

特定健康診査は勤務先を介さずに、個々の従業員が、勤務先の加入する健康保険組合に対し、直接受診の申し込みを行います。受診費用は自己負担ですが、一部を健康保険が補助してくれます。受診時間は勤務扱いとはなりませんので、休日もしくは年休を取得して受診します。

(4)労働者災害補償保険法

労働者災害補償保険法では、労働安全衛生法に定める一般健診を受診した従業員のうち、脳疾患や心疾患に関する4つの検査項目について、全て異常の所見があった者に対し、勤務先を介して二次健康診断の受診を勧奨しています。受診は従業員の任意です。

二次健康診断の受診費用は全額、労災保険が負担してくれますが、受診時間については勤務扱いとする必要はありません。なお二次健康診断を受診できるのは労災指定病院等に限られ、受診できる回数は年に1回までとなっていることに注意が必要です。

派遣労働者の健康診断

派遣労働者については、前述の(1)~(4)の健康診断のうち、(1)の特殊健診を除く残り全ての健康診断について、派遣元(派遣会社)に実施もしくは受診を推奨する義務があります。受診費用の負担と受診時間の賃金については、直接雇用の従業員と同様の取り扱いとなります。

(1)の特殊健診に限っては、危険有害業務に派遣労働者を従事させる派遣先(派遣サービスを利用する側)に実施および費用負担の義務があります。また受診時間は派遣労働者の稼働時間となり、派遣元は派遣先に対してその時間の派遣料金と健診結果票のコピーを請求できます。

健康診断は人的資本への有効な投資

前述の(1)~(4)の健康診断のうち、法令により会社に実施が義務付けられている(1)の一般健診や特殊健診を実施しなかった場合は、労働安全衛生法にもとづき50万円以下の罰金刑が科されます。また従業員には健康診断を受診する法的義務があることも職場で周知しておきましょう。

昨今は健康優良経営法人、人的資本管理、SRIファンドなどに見られるように、従業員の健康管理に対する企業の姿勢を社会が注視しており、コンプライアンス以外に、財務戦略や広報戦略の一環として、健康診断を通じて積極的に人材投資を行ってゆくのが賢明だと思われます。

  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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