公的健康診断の種類
![男性医師の診察をうける男性患者](https://hatarakikata.info/wp-content/uploads/2024/07/image-41-210x195.png)
労働者の公的健康診断には、法令で事業主に実施を義務付けている(=労働者に受診義務のある)健康診断と、労働者が任意で受診できる健康診断があります。一方で、これらは複雑なので、人事担当者でも正しく理解できている人は多くありません。
そこで本記事では、これらの健康診断のうち、特にスーパーマーケットやコンビニなど、日常生活に密着した一般的な小売業に関係が深いと思われるものをピックアップし、そのポイントについて解説してゆきます。
法的義務のある健康診断
労働安全衛生法は、事業主に対し、従業員の健康状態を把握するための一般健康診断と、危険有害業務に従事する従業員の労災防止のための特殊健康診断および歯科医師による健康診断の実施を義務付けています。
<一般健康診断>
- 雇入時の健康診断
- 定期健康診断
- 特定業務従事者の健康診断
- 海外派遣労働者の健康診断
- 給食従事者の検便
<特殊健康診断>
- 高圧室内作業および潜水業務従事者の健康診断
- 放射線業務従事者の健康診断
- 特定化学物質業務従事者の健康診断
- 石綿業務従事者の健康診断
- 鉛業務従事者の健康診断
- 有機溶剤業務従事者の健康診断
- 四アルキル鉛業務従事者の健康診断
<歯科医師による健康診断>
- 塩酸、硝酸、硫酸、亜硫酸、フッ化水素、黄燐等のガスや粉塵にさらされる場所の作業従事者の健康診断
これらの健康診断は事業主の義務ですので、その費用は事業主が全額負担します。健康診断の受診時間は、一般健康診断は勤務外でも構いませんが、特殊健康診断と歯科医師による健康診断は、業務に従事させるための要件なので、勤務扱いとなります。
なお、当サイトは中小規模の小売業における人事マネジメントを想定しているため、特殊健康診断および歯科医師による健康診断については、解説を割愛させて頂きますので、あらかじめご了承ください。
任意で受診できる健康診断
日本人の死因の上位を占める生活習慣病予防のために、労働安全衛生法以外の法律にも、独自の健康診断が定められています。これらは労働者が自身の健康管理のために任意で受診するものなので、原則として事業主の費用負担は発生しません。
- 生活習慣病予防健診(健康保険法)
- 特定健康診査(高齢者医療確保法)
- 二次健康診断(労働者災害補償保険法)
これらの健康診断は、原則として受診を希望する者が、自分で健康診断を実施している医療機関に直接申し込みを行い、休日や休暇を利用して受診することになります。
公的健康診断の概要
一般健康診断
![健診車のイラスト](https://hatarakikata.info/wp-content/uploads/2024/07/image-42-210x142.png)
一般健康診断は、労働安全衛生規則に定める11項目の検査を行います。事業主は、①新たに雇い入れた従業員に対して3ヶ月以内に、②既存の従業員に対して毎年1回以上の頻度で、一般健康診断を受診させなければなりません。
<一般健康診断の検査11項目>
- 既往歴及び業務歴の調査
- 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
- 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
- 胸部エックス線検査及び喀痰検査
- 血圧の測定
- 貧血検査
- 肝機能検査
- 血中脂質検査
- 血糖検査
- 尿検査
- 心電図検査
一般健康診断は、使用者が受診対象者をとりまとめ、最寄りの医療機関に申し込みを行います。なお、受診対象者から、1年未満の有期雇用契約の者や、週の所定労働時間が正社員の3/4未満の者を除外しても構いません。
ココがポイント
厚生労働省のガイドラインでは、短時間労働者であっても、週の所定労働時間が正社員の1/2以上の場合は、健康診断を受診させるのが望ましいとしています。
特定業務従事者の健康診断
使用者は、健康上のリスクが高い業務に従事させる労働者(特定業務従事者)に対し、6ヶ月ごとに健康診断を受診させなければなりません。一般的な小売業では、品出し担当者の重量物取り扱い業務と、24時間店舗の深夜業務が該当すると思われます。
特定業務従事者の健康診断の内容は、一般健康診断と同様です。また健康診断の費用は事業主負担ですが、受診中は勤務時間外として構わないこと、1年未満の有期雇用契約の者や、週の所定労働時間が正社員の3/4未満の者を除外できる点も同じです。
重量物の取り扱い等重激な業務
![ぎっくり腰になる女性のイラスト](https://hatarakikata.info/wp-content/uploads/2024/07/image-58-175x210.png)
重量物取り扱い業務の重量について、労働安全衛生法では、具体的な定義を明示していませんが、年少者労働基準規則、女性労働基準規則、労働基準局長通達において、重量物の上限値が規定されていますので、目安とするとよいでしょう。
![労働法令に定める重量物の取り扱い制限一覧](https://hatarakikata.info/wp-content/uploads/2024/07/image-56.png)
店舗スタッフの高齢化により、職業性腰痛が労災認定される事例が増えているようです。また、全産業における休業4日以上の職業性疾病のうち、およそ6割が腰痛に起因することから、短時間労働者であっても受診させることをお勧めします。
深夜業を含む業務
![24時間営業のコンビニのイラスト](https://hatarakikata.info/wp-content/uploads/2024/07/image-46-194x210.png)
事業主は、24時間営業店の深夜スタッフなど、深夜業務に従事する労働者に対しても、6ヶ月ごとに一般健康診断を受診させなければなりません。ちなみに深夜業務とは、労働基準法に定める22時〜翌5時の時間帯の勤務をいいます。
6ヶ月を平均して1ヶ月あたり4回以上の深夜勤務を行っている従業員が体調不良を感じた時は、次回の健康診断の前であっても健康診断を受診することができます。ただし受診日から3ヶ月以内に、健康診断結果通知書を職場に提出しなければなりません。
海外派遣者の健康診断
![青空をゆく飛行機のイラスト](https://hatarakikata.info/wp-content/uploads/2024/07/image-59-210x203.png)
商品部のバイヤーのように、6ヶ月以上にわたって従業員を海外に駐在させ、商材の買付を行わせる場合には、事業主は、海外に派遣する従業員に対し、海外派遣前と帰国時に、一般健康診断および厚生労働大臣が定める4項目の検査を受けさせなければなりません。
<海外派遣時>
- 腹部画像検査
- 血液中の尿酸値
- B型肝炎ウイルス抗体検査
- ABO式とRH式の血液型検査
<帰国時>
- 腹部画像検査
- 血液中の尿酸値
- B型肝炎ウイルス抗体検査
- 糞便塗抹検査
給食業務従事者の検便
![白身フライのり弁当のイラスト](https://hatarakikata.info/wp-content/uploads/2024/07/image-55-210x177.png)
労働安全衛生法では、給食業務に従事する労働者に対し、雇入時と給食業務に配置した時の検便を義務付けています。これは食中毒の多くが細菌性であり、食材は直接殺菌したり滅菌したりできないので、食中毒菌の保菌者が食材に触れた時に感染拡大するリスクがあるからです。
ゆえに給食業務従事者の検便は、労働者の健康のためというより、消費者の安全のために実施する検査です。なお労働安全衛生法の給食業務とは、健康増進法に規定する学校や病院に設置された給食施設での調理業務をいいますので、食品スーパーの惣菜部門などは該当しません。
もっとも、食品衛生法の食品等事業者に該当する場合は、惣菜部門や生鮮部門のスタッフに対し、HACCPに準拠した計画的な検便を実施する必要があります。
生活習慣病予防健診
![CT検査をうける男性のイラスト](https://hatarakikata.info/wp-content/uploads/2024/07/image-52.png)
生活習慣病予防健診は、全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入している事業所において、35歳以上の者を対象に、がんを早期発見すべく、一般健康診断の11項目に胃部レントゲンなどの検査を追加した健康診断です。
職場の健康診断の時に、「35歳を過ぎたら健康診断の項目が増えた…」と感じた経験のある人は少なくないかもしれません。これは35歳以上になると、定期健康診断に加えて、生活習慣病予防健診が追加されるからです。
生活習慣病予防健診は、法令によって事業主に実施を義務付けているものではありませんので、実施するかどうかは事業主の任意であり、健診費用を負担する義務もありません。
ただし費用の一部を協会けんぽが負担してくれること、また大企業のように人間ドックを実施することが予算的に難しい中小企業では、自社の福利厚生の一環として、費用の差額を事業主が負担した上で、定期健康診断とセットで実施するケースが多いです。
ココがポイント
会計処理上は、定期健康診断は法定福利費、生活習慣病予防健診は福利厚生費で仕訳します。なお全ての従業員に対して公平に受診できるルールにしないと、特定の従業員に対する現物給与として源泉課税されますのでご注意ください。
特定健康診査
![メタボリックシンドロームの男性のイラスト](https://hatarakikata.info/wp-content/uploads/2024/07/image-60-161x210.png)
特定健康診査は、通称「メタボ健診」として知られている検査で、40歳〜74歳の健康保険(協会けんぽ、組合健保)の被保険者と被扶養者、国民健康保険の被保険者を対象に、メタボリックシンドロームの予防と改善のために行われます。
特定健康診査は、受診を希望する者が、勤務先を通さずに、自分が加入している健康保険に対して直接申し込みを行い、自宅に送付された受診券と健康保険証を持参して、健康診断を実施している医療機関にゆけば受診することができます。
特定健康診査は全額自己負担ですが、加入している健康保険から費用の一部を補助してもらえます。なお本記事で紹介している健康診断は、全て医療保険の適用外ですので、事前に受診しようとする医療機関に、料金を確認しておくことをお勧めします。
二次健康診断
![脳梗塞を発症した男性のイラスト](https://hatarakikata.info/wp-content/uploads/2024/07/image-44-185x210.png)
二次健康診断は、過労死の原因となる脳疾患や心疾患の発症を予防することを目的とした健康診断であり、労働安全衛生法の定期健康診断において、①血圧、②LDLコレステロール、③血糖値、④BMI測定値の全てに異常があった場合に、受診することができます。
二次健康診断を受診するかどうかは労働者の任意ですが、受診費用は全て労災保険から支払われます。なお二次健康診断については、どこの医療機関でも受診できるわけでなく、労災指定病院などに限られています。また受診できるのは年1回までとなっています。
健康診断実施後にすべきこと
健康診断結果通知書の取り扱い
![診断書のイラスト](https://hatarakikata.info/wp-content/uploads/2024/07/image-57.png)
労働安全衛生法によって事業主に実施が義務付けられている健康診断は、従業員が健康診断を受診すると、事業主宛に個人別の健康診断結果通知書が、それぞれ2通送られてきますので、1通を本人に渡し、もう1通は職場で5年間保管しなければなりません。
なお、常時50人以上の従業員が勤務している事業所は、健康診断結果報告書を、所轄労働基準監督署に提出しなければなりません。
ココがポイント
健康診断結果通知書は特定個人情報に該当するので、特定個人情報管理区域(通常は本社人事部)のキャビネットで施錠保管しなければなりません。
異常所見者に対するフォロー
![Webで医師面談を受ける男性のイラスト](https://hatarakikata.info/wp-content/uploads/2024/07/image-49.png)
健康診断の結果に異常の所見があった従業員がいた場合、事業主は、健康診断の受診日から3ヶ月以内に、その従業員の健康管理のために留意すべき事項について産業医の意見を聴き、衛生委員会で報告した上で、勤務時間の短縮や業務の変更などの措置を講ずる義務があります。
異常所見者について産業医から聴取した内容は、意見書としてまとめたり、その従業員の健康診断結果通知書(会社控)に付記するなどの方法で記録し、健康診断結果通知書とあわせて5年間保存しなければなりません。
健康経営優良法人認定制度
![ホワイト企業に勤める男女のイラスト](https://hatarakikata.info/wp-content/uploads/2024/07/image-50-210x210.png)
健康経営優良法人制度とは、日本健康会議が認定する顕彰制度であり、健康経営優良法人認定マークは、従業員の健康的な職業生活の実現のための人事制度や職場環境の整備に積極的に取り組む企業であるという、いわばホワイト企業の認定マークとして認知されています。
昨今は健康経営優良法人や人的資本管理、ISO30414などに見られるように、従業員を過重労働で酷使して利益をあげるようなデフレ型ビジネスモデルは、投資家や消費者からの支持を得られなくなっており、健康診断の実施は企業の最低限の社会的責任であるといえます。
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