旧)労働安全に関する記事

03 健康診断

2023年12月5日

この記事のポイント

労働安全衛生法では、使用者に対して従業員への健康診断の実施を義務付けており、健康診断には雇入れ時健診、定期健康診断、特定業務従事者の健康診断、危険有害業務に従事する者に対する特殊健康診断がある。

労働安全衛生法に規定する健康診断は、法令によって使用者に実施を義務付けているものなので、健康診断にかかる費用は全て使用者が負担しなければならないが、勤務時間中の健康診断の受診は、特殊健康診断を除き無給でもよい。

一般的な小売業では特殊健康診断は想定されにくいが、重量物の取り扱い業務や深夜時間帯の業務に従事する従業員には特定業務従事者に対する健康診断を実施しなければならない可能性があるので、確認しておく必要がある。

生活習慣病による成人病や長時間労働による過労死防止のために、労働安全衛生法に規定する健康診断以外にも、高齢者医療確保法や労働者災害補償保険法による健康診断および保健指導などの制度も設けられている。

小売業における健康診断の実施

健康診断の実施は法令で義務付けられている

労働安全衛生法は使用者に対し、従業員の健康確保のため健康診断の実施を義務付けており、使用者が従業員に対して実施しなければならない健康診断には次のものがある。

  • 雇入れ時の健康診断
  • 定期健康診断
  • 特定業務従事者の健康診断
  • 危険有害業務従事者の特殊健康診断

小売業者が実施しなければならない健康診断

前述の健康診断のうち、一般的な小売業で実施しなければならない健康診断は、雇入れ時の健康診断、定期健康診断、特定業務従事者の健康診断の3つであるが、食品等事業者については、食中毒予防のために食品衛生法にもとづく検便を実施する必要がある。

山口
使用者は、労働安全衛生法のほかに、労働契約法によって労働者が安全かつ健康的に就労できるように配慮する義務(安全配慮義務)も負っています。

小売業で実施すべき健康診断の種類

雇入れ時の健康診断

使用者は、従業員を雇い入れた時には、採用日から3ヶ月以内に次の11項目(法定11項目という)について、健康診断を実施しなければならない。ただし雇用期間が1年未満かつ正社員の週所定労働時間の3/4未満の短期・短時間従業員については実施する義務はない。

① 既往歴及び業務歴の調査
② 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
③ 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
④ 胸部エックス線検査及び喀痰検査
⑤ 血圧の測定
⑥ 貧血検査(血色素量、赤血球数)
⑦ 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
⑧ 血中脂質検査(LDL・HDLコレステロール、TG)
⑨ 血糖検査
⑩ 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
⑪ 心電図検査
注)④について、雇入れ時健康診断においては、胸部エックス線検査のみとなっている。

雇入れ時の健康診断の具体的な実施方法は、店舗の事務担当者から、健康診断を実施している最寄りの医療機関(診療所)に、採用した従業員の氏名、生年月日、健康保険証の記号・番号を伝えて受診日時を予約し、採用した従業員に受診の案内を行うのが一般的である。

雇入れ時の健康診断は法令によって使用者に実施を義務付けているため、健康診断にかかる費用は使用者が負担しなければならない。なお健康診断の受診日時は勤務時間外でもよく、勤務中に中抜けして健康診断を受診した場合は、その時間帯について無給としても構わない。

山口
採用した従業員が、入社日の直近3ヶ月以内にすでに健康診断を受診していた場合、診断書を提出してもらうことで雇入れ時の健康診断を省略できます。

定期健康診断

使用者は、従業員に対して毎年1回以上、法定11項目の定期健康診断を実施しなければならない。ただし雇用期間が1年未満かつ正社員の週所定労働時間の3/4未満の短期・短時間従業員については実施する義務はない。

① 既往歴及び業務歴の調査
② 自覚症状及び他覚症状の有無の検査
③ 身長、体重、腹囲、視力及び聴力の検査
④ 胸部エックス線検査及び喀痰検査
⑤ 血圧の測定
⑥ 貧血検査(血色素量、赤血球数)
⑦ 肝機能検査(GOT、GPT、γ-GTP)
⑧ 血中脂質検査(LDL・HDLコレステロール、TG)
⑨ 血糖検査
⑩ 尿検査(尿中の糖及び蛋白の有無の検査)
⑪ 心電図検査
注)原則として40歳未満の者のうち、医師が適当と判断した場合には、③④⑥⑦⑧⑪の項目を省略できる。

具体的な実施方法は、健康診断を実施している最寄りの医療機関(診療所)と健診の受け入れ可能な時期や時間帯について打ち合わせを行って受診スケジュールを確定し、対象となる従業員に事前問診票とともに案内文を配布する方法が考えられる。

山口
医療機関や診療所の場合は外来患者の診察の合間に健康診断を実施するので完全予約性となるケースが多いですが、検診センターであれば営業時間内に来院すればおおむね受診できます。

生活習慣病予防健診

定期健康診断の受診対象者のうち、35歳以上の者でなおかつ勤務先が全国健康保険協会(協会けんぽ)に加入している場合は、法定11項目に加えて胃部レントゲンや便潜血検査などのがん検診を追加した、生活習慣病予防健診を受診することができる。

35歳になったら健診項目にバリウム検査や検便が増えて検査時間が長くなった・・・と感じた経験がある人は少なくないかもしれない。しかし実は生活習慣病予防健診は労働安全衛生法で使用者に対して実施を義務付けているものではない。

したがって使用者は、35歳以上の従業員であっても、従来どおり法定11項目の健康診断を実施すれば法的な責任を果たしたことになり、生活習慣病予防健診に要する健診費用についても負担する義務はない。

もっとも健診費用の一部を協会けんぽが補助してくれること、また最近は健康経営など従業員の労働安全衛生に対する企業の姿勢をステークホルダーが注視しているため、福利厚生として使用者の費用負担によって生活習慣病予防健診を実施するケースが一般的である。

山口
会計上は法定健診にかかる費用は法定福利費、生活習慣病予防健診は福利厚生費で仕訳します。なお全社員が公平に適用される制度にしないと、特定の従業員に対する現物給与として源泉課税されますのでご注意ください。

特定業務従事者の健康診断

厚生労働省令で定める特定の業務に従事する従業員に対しては、使用者は6ヶ月ごとに法定11項目の健康診断を実施しなければならない。一般的な小売業で特定業務に該当するのは、24時間営業店の深夜時間帯で働く従業員や、重たい商品を取り扱う業種で働く従業員となる。

なお、特定業務従事者の健康診断についても、雇用期間が1年未満かつ正社員の週所定労働時間の3/4未満の短期・短時間従業員については実施する義務はない。

深夜業務とは?

深夜業務に従事する従業員とは、労働基準法で定める22時〜翌5時の間の深夜時間に勤務する者であり、特定業務従事者の健康診断の費用は使用者が負担しなければならないが、深夜業務の従業員が日中に健康診断を受診した場合でも、時間外手当の支払い義務はない。

なお深夜業務における特定業務従事者の健康診断の対象となっている従業員が、自身の健康に不安を感じたため、次回の健康診断の前に自発的にかかりつけの医療機関で健康診断を受診した場合は、健診結果票を使用者に提出することで、健診費用を会社負担にできる。

ただし自発的健康診断が認められるのは、自発的健康診断を受診しようとする日の直近6ヶ月間を平均して1月あたり4回以上の深夜勤務をした者で、自発的健康診断を受診した日から3ヶ月以内に使用者に対して健診結果票を提出した者に限られることに注意が必要である。

山口
危険有害業務の特殊健康診断の場合は、使用者は業務の一環として特殊健診を受診させなければならず、もし勤務時間外に受診させた場合には時間外手当を支払う義務があります。

重量物取り扱い業務とは?

使用者は、重量物を取り扱う業務に従事する従業員について、特定業務従事者として6ヶ月ごとに法定11項目の健康診断を実施しなければならない。

医療・介護事業や陸上貨物運送事業、小売業など、重量物を取り扱う産業では業務に起因する腰痛が増加しており、また休業4日以上の職業性疾病のおよそ6割が腰痛によるものであることから、厚生労働省ではこれらの産業を中心に腰痛予防対策を推進している。

何キロ以上を重量物とするかは、個人差があるので明確な定義づけはされていないが、人力による重量物取扱作業における上限値については、労働基準法の施行規則である年少者労働基準規則、女性労働基準規則、また労働基準局長通達(いわゆる基発)において定められている。

山口
食品スーパーであれば青果部門やグロサリー部門、日用雑貨部門などが重量物取り扱い業務に該当する可能性があります。また衣料品の梱包もかなり重量があるため、衣料品専門店の荷受担当者なども要チェックですね。

健康診断実施後に使用者がすべきこと

健診結果の保存と報告

健康診断が終了すると、健診実施機関から事業主宛に健診結果票が送られてくるが、通常、健診結果票は本人控と事業主控の2通1組となっているので、使用者は遅滞なく本人控をその従業員に渡さなければならない。

そして事業主控は健康診断を実施した日から5年間保存する義務がある。健康診断結果票は特定個人情報にあたるので、個人情報保護法に従い、社内の特定個人情報管理区域(通常は人事部)のキャビネットに施錠保管することになっている。

なお健康診断を実施する従業員が50名以上の事業場においては、定期健康診断の結果報告書を、所轄の労働基準監督署に提出する義務もある。

山口
従業員50名以上の事業場とは全社で50名以上ではなく、ひとつの店舗に健康診断の対象となる従業員が50名以上在籍していれば、店舗ごとに労働基準監督署に報告する義務があるという意味です。

異常所見者に対する措置

使用者は、健康診断結果票に異常の所見があった従業員について、健康診断を実施した日から3ヶ月以内(深夜業務従事者の自発的健康診断は2ヶ月以内)に産業医の意見を聴き、当該従業員の配置転換、時短勤務への変更、深夜勤務の回数を減らす等の措置を講ずる義務がある。

山口
異常所見の原因が作業環境に起因する可能性があれば、作業環境測定を実施した上で就業場所の施設や設備の改修をしたり、各店で運営している衛生委員会への報告なども行わなければなりません。

労働安全衛生法以外の健康診断

特定健康診査(高齢者医療確保法)

高齢社会進行にともない年々逼迫する医療保険財政の収支均衡のために、高齢者医療確保法では40歳~74歳の健康保険(組合健保、協会けんぽ、国民健康保険)の被保険者および被扶養者に特定健康診査を実施して成人病の予防を推進し、医療費支出を抑制しようとしている。

特定健康診査は一般的に「メタボ健診」として知られている。生活習慣病予防健診が、がん健診をメインとした検査となっているのに対し、特定健康診査はメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)に着目して、生活習慣病の発症や重症化を予防するのが主な目的である。

特定健康診査の受診を希望する者は、勤務先を通さずに直接、自身が加入している健康保険組合に対して申し込みを行い、健康保険組合から郵送されてきた受診券と健康保険証を持参して、自分の希望する医療機関にゆけば特定健康診査を受診できる。

特定健康診査の費用は自己負担となるが、費用の一部についてそれぞれの健康保険組合から一定額が補助される仕組みになっている。

なお健康診断は冒頭から説明してきた定期健康診断などの法定健診も含め、全て医療保険の適用外(自費診療)となっているため、特定健康診査の料金については、自身が受診しようとする医療機関に直接問い合わせて確認する必要がある。

山口
組合健保の場合、特定健康診査の受診率が低いと健康保険料が上がってしまうことがあるため、勤め先が健保組合の場合は可能な限り積極的に受診することをおすすめします。

二次健康診断(労働者災害補償保険法)

二次健康診断は労働者災害補償保険法にもとづき実施される健康診断で、労働安全衛生法に定める健康診断において、①血圧、②LDLコレステロール、③血糖値、④腹囲もしくはBMI測定値の全てに異常所見があった場合に、従業員本人の申請により受診できる。

二次健康診断はこれまで説明してきた生活習慣病予防健診(がん検査)、特定健康診査(メタボ検査)と異なり、過労死の原因となる脳疾患や心臓疾患の発症を事前に予防することが目的となっている。

労災保険の二次健康診断を受けるかどうかは従業員次第だが、受診費用の全額が労災保険から支払われる。ただし二次健康診断を受けることができるのは、労災指定病院等に限られ、受診できる回数は年に1回までとなっている。

山口
私が人事部長時代に所轄の労働基準監督官から直接伺った話ですが、健康診断結果報告書に脳疾患や心臓疾患に関する検査項目に有所見があった場合は、まず違法な長時間労働の可能性を疑うそうです。

食品衛生法にもとづく検便の実施

労働安全衛生法では、給食業務従事者を雇い入れた時と給食業務に配置した時の検便を義務付けている。これは食品を介して発生する食中毒の多くが細菌性であり、直接殺菌・滅菌できない食材を、食中毒菌の保菌者が触れた場合に感染拡大するリスクがあるからである。

一般的な食品小売業は給食業務には該当しないと思われるため、使用者は労働安全衛生法にもとづく検便の実施義務は負わないが、食品スーパーやデパ地下の惣菜部門、店内調理を行っているコンビニなど、食品衛生法上の食品等事業者に該当する場合は注意が必要である。

改正食品衛生法により2021年から全ての食品等事業者にHACCP導入が義務化され、これと併行して厚生労働省から提示された衛生管理計画策定のためのガイドラインにおいて、食品等事業者に対する従業員の健康診断と検便の実施計画の策定が明記されている。

また食品衛生法の管理運営基準ガイドラインでは、保健所は必要に応じて食品等事業者に対して検便の実施を指示できるとされているため、食品を取り扱う小売業者は、HACCPに準拠した検便の実施が望ましいだろう。

山口
かつて私が勤めていたスーパーでは、生鮮3部門と惣菜部門の全従業員に対して毎月の検便を、またそれ以外の部門(事務部門を含む)については3ヶ月ごとの検便を実施していました。

健康診断に関する法令違反への罰則

労働安全衛生法では、健康診断を実施しない事業主もしくは健康診断結果票を従業員に提示しない事業主に対して、50万円以下の罰金刑を科している。

また健康診断結果の適切な管理を行わず、特定個人情報を漏洩してしまった場合には、1年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金刑に処せられることがある。

さらに健康診断の結果、異常所見がみられた従業員に対して、適切な健康管理のための措置を講じなかった場合、安全配慮義務違反として民事上の損害賠償責任を負う可能性がある。

このように健康診断実施義務違反については、つい労働安全衛生法違反の罰則ばかり目がいってしまうが、実はそれ以外の法令でも使用者に対して様々な罰則が設けられていることに留意した上で、確実な健康診断を実施したい。

山口
経営者や人事担当者など、健康診断に関する事務を取り扱う者が、従業員の健診結果や医師面談の記録に関する情報を漏洩した場合にも、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金刑が科されます。

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  • この記事を書いた人

山口光博

コンビニの店長やスーパーの販売課長を経て、31歳の時に管理畑に転職する。以後、20年以上にわたってあらゆる人事マネジメントの実務に携わる。上場準備企業の人事部長として人事制度改革を担当した後に独立、現在に至る。

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